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J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 7

前回のつづきです。
vol. 6はこちらhttps://note.com/male_childcare/n/nc671ea06d3fa

―面倒なことになってしまった。
 藤岡はデスクで頭を抱えていた。あの様子では、平良は絶対に入金を諦めないだろう。何とかして本部の連中を説得して入金の対応をさせるしかない。本来であれば、こんな無益な仕事は避けたいところである。こんなことをしても誰にも評価されないばかりか、面倒な人間として負の印象を残してしまうかもしれない。それは将来的な出世や異動にも響くことになる。何なんだ一体。

 しかし、嘆いていても事態は良くはならない。心を決めて国際金融部の岩野に電話をかけ、現状を説明する。返ってきた反応は予想通りのものであった。
「こんな簡単な説得すらできないんですか?いい加減にして下さいよ」
 いい加減にして欲しいのはこっちの方だ、という言葉を飲み込み、そこを何とかお願いしますと藤岡はいった。
「何度も言わせないで下さい。我々はこんな案件を対応する暇はないんですよ」
 岩野はいつもの傲慢な口調でいった。藤岡はここで諦めるわけにはいかないので食い下がる。
「し、しかし、金融庁のガイドラインでも少額の個別案件の場合、リスク対応の簡素化の対象として速やかに対応するように言及されていますよね。今回の送金は対応してあげても・・・」
 言った瞬間、しまったと思った。急激に空気が凍り付いていくのが分かった。無言の電話口から岩野の怒りが伝わってくる。
「―ほう、支店の人間が我々本部の仕事の進め方に口を出しますか。面白いですね。対応についてはそちらの支店長とよくよく話し合わせていただきます!」
 それで通話は切られた。
 
 夕方になって藤岡は副支店長の高槻から呼び出しを受けた。空いている会議室に入り、扉を閉めると高槻はいった。
「お前、いったい何をやらかしたんだ?」
 どうやら話に尾ひれどころか背びれや胸びれまでついて伝わってしまったようだ。
 藤岡はこれまでの状況を高槻に説明した。
「そういうことだろうとは思ったが、面倒なことになったな。岩野さんはかんかんだったぞ。次の顧客対応には岩野さんも来ると言っていた」
―岩野の野郎、支店営業がやらかしたせいで自分が対応しなきゃいけない事態になったとでも本部で騒いだに違いない。わざわざ現場に出てくるところが本当に嫌味な奴だ。
「今後の顧客対応は俺が引き継ぐから。次の面会は俺と岩野さんで行ってくる。お前はもう来ない方が良いだろう」
高槻はそれでいいなといった。藤岡は承諾するしかない。
「岩野さんから今週金曜日の夕方17時に先方に面会のアポイントを入れておいてくれということだ」と高槻はいった。
 顧客の都合を確認せずに、自分の都合を優先して押し付けてくるところが、本部の人間の特徴といえるかもしれない。平良は一体、この岩野に対してどんな反応をするのだろうか。
高槻はふうっと息をついて続ける。「それから、お前な、あんまり本部とぶつかると仕事がやりにくくなるぞ」
 好きでぶつかっているわけではない。こんなに頑固な顧客な顧客対応をしたのは初めての経験である。
 藤岡は平良に架電し、面会のアポイントを取り付けた。
 
 3月4日、高槻と岩野は平良の自宅マンションを訪れた。3人はロビー横の面会スペースのソファに机を挟んで腰を下ろす。金曜日の夕方のロビーは立ち話をする住人や学校帰りの子供たちの声で賑やかだ。スーツ姿の金融社員二人の姿は、平和なマンションの光景の中で不穏な雰囲気を醸し出している。
 受け取った名刺をしげしげと眺めながら、副支店長と国際金融部の人間が出向いてくるなんて、今日は一体どんな話があるというのだろう、平良は首を傾げる。不安と警戒感を抱え、平良は岩野とまっすぐに対峙していた。
  

つづく

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(参考資料)

※実際の人物・団体などとは関係ありません。

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