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J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 4

前回のつづきです。
vol. 3はこちらhttps://note.com/male_childcare/n/na3f403f52fc8

一方的に通話を切られた藤岡はデスクで大きなため息ついた。
「本部の奴ら、ほんと無茶苦茶言いますよ。」藤岡はわざと周りの同僚に聞こえるように口に出した。
藤岡が勤務する新田西支店の営業部には5人の職員がいる。30歳の藤岡が最年少であり、平均年齢50歳のチームの中にいると、まさに超高齢社会の縮図だと感じる。その上、営業部は全員が男性、窓口に立つ事務方は全員女性という、実に分かりやすいコントラストは、令和という時代においても変化がみられない。大手の金融機関では是正されつつあるらしいが、地方の信金では誰も気にする様子もない。築50年になる新田西支店には、建物だけでなく、その内部においても、昭和の空気が色濃く残っている。
 
「本部からどんな回答だったんだ?」隣のデスクに座っていた営業部係長の佐伯が言った。
「今回の送金は組戻せとのことです。マネロンリスクの確認なんて名ばかりで、結局は門前払いってことですね。顧客を何だと思っているんですかね、本部の奴らは。」藤岡はいら立ちを露わにした。「こういう確認業務をしないのは国際金融部の怠慢じゃないですか?おかしいと思いませんか?」
佐伯は落ち着いた様子で、「まあ、こういう対応はうちの本部じゃよくあることだよ。納得いかないのは分かるけど・・・」と言った。
「今回のような少額の案件、常識的に考えてマネロンのリスクなんてほとんど皆無ですよ。それすら対応しないなんて、どういうつもりなんですかね。」藤岡の怒りは収まらない。
「本部の意向には従うしかないよ。特にうちは国際金融部が強いからね。」
「そこも納得いかないですね。顧客に一番近いのは支店の我々でしょう。本部の連中は現場のことなんて何も分かっていませんよ。なぜ、あんなに偉そうにしていられるんですかね。」
「お前も知っているだろう。国際金融部は大口の取引を仕切ってるからな。ちょっと位大きい顔をしていても、周りは何も言えないさ。うちの金庫全体の利益額からしても大きなウェートを占めているのも事実だ。」

60歳間近の佐伯は、常に穏やかな表情を崩さない。まるで悟りを開いた僧侶のようだ。そこにはある種の年月を経た諦観が窺える。
「その大口の得意先ってK産業のことですよね。中国資本とはいえ、業態はパチンコですよ。そもそも、支店で扱う案件でしょう。なぜ、本部の国際金融部が担当しているんですか?おかしくないですか?」
藤岡の言葉に佐伯の表情は一瞬凍り付いたように見えた。しかし、いつもの穏やかな表情で、「まあ、色々事情があるんだよ。あまり気にするな。」と言った。「その顧客に説明に行く時には俺も一緒に行くから。説得して組戻してもらうようにしよう。」
 
金融業界ではこのような理不尽ともいえる顧客対応をしなければいけないケースは多々ある。そのような場合、上司が同行することになる。2対1という数的優位を築きつつ、わざわざ2人で対応しているという姿勢を示すことで、説得し易くするためである。特に信金の場合、顧客は商店街の自営業者が多く、このような上司同行で相手の面子を立てる戦略はある程度の効果がある。
 
数日おいて、藤岡は平良に電話をかけ、面会のアポイントを申し入れた。
電話口で「入金の件はどうなりましたか?」と詰められたが、「面談の際に直接説明させてください」と伝え、アポイントの日時を決めた。
 
1月27日、佐伯と藤岡は平良の自宅マンションへ向かった。
 
つづく

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(参考資料)

※実際の人物・団体などとは関係ありません。

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