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夫婦が育児を巡ってぶつかる本当の理由
『自己奉仕バイアス』と『返報性の法則』について理解を深め、夫婦間の衝突を避ける方法について解説します。
「取るだけ育休」と言われてしまう男性
男性の育休も広がりつつありますね。
しかし一方で、夫が何もしてくれない「取るだけ育休」という声をよく耳にします。
本当に何もしていない場合もあるかもしれませんが、その感情の奥には色んな要因があるかもしれません。
本稿では、その辺りの「パートナーが育児に貢献してくれない問題」をテーマに考えていきます。
※写真はイメージです。
ヒトの認知は正しいとは限らない
上の2つの図形、線の長さはどちらが長く見えますか?
これは有名な『ミュラー・リヤー錯視』で、一度は目にしたことがあると思います。
同じ長さだということが頭では分かっていても、何度目をこすっても、Bの方が長く見えますよね。
ヒトの認知は正しいとは限らないということです。
しかし、多くの人が『ミュラー・リヤー錯視』を知っているので、この認知の誤りに簡単には騙されないですよね。
これが育児と夫婦関係にどう結び付くのでしょうか。
自己奉仕バイアスを理解する
人が時間をかけるのは、要領が悪いから
自分が時間をかけるのは、丹念にやっているから
人がやらないのは、怠慢だから
自分がやらないのは、忙しいから
言われていないことを人がやるのは、でしゃばりだから
言われていないことを自分がやるのは、積極的だから
人が出世したのは、運がよかったから
自分が出世したのは、頑張ったから
『「人を動かす人」になるために知っておくべきこと』(ジョン・C・マクスウェル 著)より引用
自己奉仕バイアスとは、「人の業績は過小評価する一方で自分の業績を過大評価する」という認知バイアスの1つです。
例えば、こんな事例があります。
集団生活をしている3人の学生に、自分がごみ捨てを行っている頻度を質問したところ、こんな回答が返ってきました。
「2回に1回は自分が捨てている。」
「3回に1回は自分が捨てている。」
最後の学生はこう答えました。
「ほとんど、僕が捨てているよ。他の二人は何もしない。」
何組かの夫婦に対し、
「あなたは家庭に対して何%の貢献をしていると思いますか?」
と質問したところ、夫婦の回答の合計はいずれも100%を超えていた。
『Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法』(ロルフ・ドペリ 著)より引用
これはどういうことでしょうか?
つまり、「ヒトは自身の貢献度、他人の貢献度を正しく認知できない」ということです。
冒頭の『ミュラー・リヤー錯視』を思い出してください。
どんなに正しく認知しようと意識しても、認知できないものは認知できないのです。
この認知バイアスに騙されないためには、ミュラー・リヤー錯視と同様、「正しく貢献度を認知できない」ということを知っておくことが有効な対処法となります。
自己奉仕バイアス自体は問題ではない、本当の問題とは
例えば、組織の中で「自分はチームに貢献している」という意識を持つことは決して悪いことではないですね。
むしろ、良いチームといえます。
これが夫婦間でうまく機能しないとすれば、何が原因なのでしょうか?
実は、もう一つのヒトの特性を理解する必要があります。
返報性の法則(Give & Take)
『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ 著)でよく知られている、返報性の法則について説明します。
シンプルに言えば、「ヒトは与えることと受け取ることのバランスを取りたい生き物である」ということです。
「えっ…、当たり前じゃないの!?」
と、思われた方もいるかもしれませんが、もちろん不変的な法則ではありません。
このバランスを取りたい性質を持つヒトは「マッチャー」と分類されています。
実はこの「マッチャー」が問題になります。
つまり、自己奉仕バイアスとマッチャーが組み合わさった場合、
「自分はこんなにも子育てに貢献しているのに、相手は全然やってくれない。もっと相手もやるべきだ(イライラ)。」
となるわけです。
さぁ、問題の本質が見えてきましたね。
では、どうやって解決していけば良いのでしょうか?
問題解決への道
この場合、認知行動療法が最適な解決方法だと私は思います。
認知行動療法とは、現在生じている問題を具体的にし、考え方や行動などの変えやすい部分から少しずつ変えていくことで、問題の解決をめざす心理療法のことです。
つまり、自己奉仕バイアスがかかっていることを自覚することが第一歩となります。
具体的には、「相手の貢献度を正しく認知しようと意識しても、認知できないものは認知できない」ことを夫婦で理解し受け入れることです。
ここでは、話し合いは意味を成しません。
『ミュラー・リヤー錯視』を思い出してください。
どんなに話し合ったとしても、Bの方が長く見える認知の誤りは未来永劫変わりませんよね。
話し合うのではなく、事実として受け入れることが肝要です。
次に「マッチャー」問題について考えます。
そもそもマッチャーはなぜバランスを取りたいのでしょうか?
それは、「テイカー」と呼ばれる恐ろしい存在がこの世界にはいるからです。
テイカーは常に、与えるより多くを受け取ろうと行動します。
マッチャーがバランスを取らない限り、テイカーは際限なく搾取し続け、テイカー以外が犠牲になります。
そういう意味で、マッチャーはとても重要な役割を果たしています。
しかし、家庭内ではこのマッチャーの性質は問題になるわけです。
「あなたのパートナーはテイカーですか?」
恐らく答えはNoですよね。(そう願います)
テイカーではないのであれば、バランスを取らなくてもあなたが搾取されることはありません。
パートナーを信じて、バランスを取ることをやめませんか?
パートナーを信頼できないのであれば、一緒に子育てするのは無理です。
パートナーを心から信頼しましょう。
シンプルですが、大切なポイントです。
まとめ
問題点
・自己奉仕バイアスによって「相手の貢献度を正しく認知しようと意識しても、認知できないものは認知できない」。
・返報性の法則にしたがって、バランスを取りたくなる。
解決策
・「相手の貢献度を正しく認知しようと意識しても、認知できないものは認知できない」ことを夫婦で理解し受け入れる。
・バランスを取りたくなる自分の心の動きを自覚し、これが「返報性の法則」であることを理解し、相手を信頼することでこれを克服する。
編集後記
男性の場合は、PMS(月経前症候群)による女性のメンタルの変化にも注意が必要です。(※その辺は、また別途記事にしたいと思います。)
「自己奉仕バイアス」「返報性の法則」「PMS」が重なった場合、男性はひどく追いつめられることになります。
この記事が追いつめられた男性の救いになれば幸いです。
この記事に「なるほど!」って思った方は、夫婦でこのテーマについて考えてみてはいかがでしょうか。