J信用金庫 v.s. MBA交流クラブ vol. 11
3月7日
「この馬鹿野郎!」
J信金本部の三階、国際金融部のフロアに黒岸の怒声が響く。今にも殴りかかりそうな血走った目で岩野を睨みつけた。
国際金融部の次長職を務める黒岸は体が大きく迫力がある。黒岸は大学時代、アメフト部で主将をしていた経験があり、J信金に就職した後も猪突猛進の行動力で周囲を押し分け、今の地位まで上り詰めた。「部下の手柄は上司のもの、上司の失敗は部下の責任」を地で行く男であり、ましてや部下の失敗とあっては、烈火の如く怒りを顕にした。
その横で監査役の野嶋は、ニヤニヤと笑みを浮かべながら岩野の様子を眺めている。
岩野は顔から血の気が引き、脂汗が額に浮かぶ。棒立ちのまま、デスクに置かれた一通の内容証明郵便から目が離せずにいた。何かを言おうと口を開くが、言葉にはならない。
「どう責任を取るつもりなんだ!」黒岸は拳をデスクに叩きつける。
「せ、責任と申しましても・・・」
頭が真っ白になり、弁解の言葉が出てこない。平良の野郎、内容証明なんて汚い真似をしやがって・・・。
岩野は怒りと恐怖で全身を小刻みに震わせている。
「なんで!その場で!処理を完了させなかったんだ」黒岸は血走った目で岩野を睨みつける。
本人の目の前で電話をかけ、指示を出し、処理を完了させてしまえば、何か言ってきたとしても後の祭りであり、こんなことにはならなかったはずだ。タイミングを図ったような内容証明、いや、タイミングを図ったに違いない。岩野は屈辱で顔が紅くなる。
「い、いや、五月蝿い顧客で、あれこれと言い訳を聞いているうちに、営業時間を過ぎてしまい・・・」
こんな失態を晒してしまうことになるとは、舌打ちしたいのを我慢してぐっと奥歯を噛み締める。
「いやいや、黒岸さん。特に問題はありませんよ」無言でやりとりを聞いていた野嶋が口を挟む。「なんせ、この顧客は組み戻しに同意していたんですから。そうですよね、岩野さん」
岩野は唖然とした表情で野嶋の顔を見た。口元は笑っているが、目は全く笑っていない。
「たちの悪いクレーマーが、あることないこと難癖を付けてくる。よくある話ですよ。そうなんですよね、岩野さん」野嶋は言った。
岩野は、はっとした表情で媚びるように言う。「その通りです!野嶋さんの仰る通り!確かに顧客はこの組み戻しに同意していました。金融に疎い人間だったので、何か勘違いをされている部分があるようですが、組み戻しには確かに合意していました」
黒岸と野嶋は目配せをして、小さく頷いた。
黒岸は不敵な笑みを浮かべ、「なるほど。それなら我々には何の落ち度もない…ということになるな。顧客の勘違いでこんな紙切れを出されたんじゃあ、迷惑千万ですなあ」と言った。
「とはいえ、同意書の確認もなく処理を進めた支店の担当者の違反行為は無視できません。査問の上、然るべき措置が必要でしょう」野嶋は内容証明郵便を手に取る。「この顧客にも対処が必要でしょうな。私と黒岸さんで明日にでも伺うとしましょう。MBA交流クラブとは、何かのサークルですか?実に頭の悪そうな名前だ。まったく、こんな悪戯で我々の貴重な時間を奪うとは。顧客とはいえ、厳重に注意しましょう」
J信金の本部ビルは設計が古く、フロアの面積に対して窓が小さいため、昼でもどこか薄暗い。天井に取り付けられた蛍光灯の明かりでは、国際金融部の陰々滅々としたフロアには不十分であった。
つづく
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(参考資料)
※実際の人物・団体などとは関係ありません。
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