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山田尚子が撮らないことで逆説的に浮かび上がる鎧塚みぞれの内面

山田尚子監督のキャラクターの撮り方について、キネマ旬報のインタビューがXで話題になってます。
該当のXのポストはこちら。

気になったところを抜粋します。

彼ら・彼女らの尊厳を踏みにじらない。見られたくないと思うような瞬間に、わざわざ正面に回ってアップにするようなことはしない。興味本位で撮らない。
でも、そこは人が見たいと思う部分でもあるので、ちゃんと香らせるような演出をする。

キネマ旬報 2024年8月号 No.1946

ここを読んだとき、思わず「あ、あそこだ!」と思ったカットが思い浮かびました。
それが映画『リズと青い鳥』冒頭の冷水機カットです。

『リズと青い鳥』冒頭の冷水機カット

1.希美が冷水機で水を飲む
2.みぞれもその冷水機で水を飲もうとする
3.急にカットアウトされ次の場面へ!!!

学生時代なら誰しも経験のある、前の人に続いて冷水機を飲む時のあの何か関節キスになっているかのようなむずがゆい感覚。
このカットはそれを視聴者に思い起こさせてきて、映画を見ている時とても面白いなと思いました。そして(果たして希美の後に冷水機を飲むみぞれは何を思うのか~~~)と視聴者が思いを巡らせようとする瞬間に、「これ以上は見せぬ」とばかりに急にカットアウトされ次の場面へと移ります。

このカットアウト、映画を見たときから何かずっと心にひっかかっていました。

インタビューを踏まえて解釈

あの印象的なカットアウトは、山田尚子監督のインタビューを踏まえると次のように解釈できるのではないでしょうか。

【解釈】
希美が水を飲んだ水冷機で自分も水を飲む行為は、みぞれにとって見られたくないと思う瞬間なのである。
だから山田尚子監督は、わざわざ正面に回ってアップにするようなことはしない。興味本位で撮らない。尊厳を踏みにじらない。
でもそこは我々視聴者が見たいシーンでもあったりするので、ちゃんと香らせるような演出をする。

カットアウトから逆説的に浮かび上がる内面

繰り返し述べますがみぞれが希美に続いて冷水機で水を飲む場面は、急にカットアウトされて描かれていません。

このカットアウトが入ったことで、逆説的にここがみぞれの思う(と山田尚子監督は思っている)カメラに映してほしくない場面であることが顕著に浮かび上がってきます。

すなわち、希美が水に口を付け飲んだ冷水機で水を飲む時のみぞれの表情とそこから読み取れるであろう心の内面は、触れてはならないセンシティブ領域であることが、描かれないことによって逆に強く主張してきていると言えます。

描かず撮らず香らせるだけでより描写の重みを増す見事なテクニック。
いや~映画って本当に面白いものですね。



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