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【超短編小説】あれが初恋だったと大人になって気づいた
幼稚園の年少のときには既に好きな人がいた。
幼稚園の担任の先生だ。
だが、年長にあがると、新しい担任の先生が好きに変わっていた。実に軽薄だ。
そういえば、近所のかわいい子にラブレターも書いた。その子の家のポストに投げこんだ。
なかなか怖いもの知らずな園児だったんだ。
だけど不思議なもので、いま想い返しても、相手の顔が浮かんでこない。かわいいから好きになったのに、結構いい加減なものだ。
その頃のテレビといえば、女性の裸なんて当たり前。昼間から濡れ場も放送されてた。
小さな頃から、昭和のテレビを観て育った自分。
そんな幼少期を過ごした自分も、初めて女性というものを意識したのは、意外と遅かった。
それは中学一年の夏休みのこと。担任の先生ととても仲が良くて、自宅へ遊びに行くことになった。
自宅を訪ねると、先生の奥さんがホットパンツをはいていた。そして、自分は奥さんのフトモモに釘付けになってしまった。そう、それが初めて受けた衝撃だった。初心だったんだな。
初心な中学生は、友達から「初体験すませた」と武勇伝を聞いてもピンとこない。とある裏ビデオを観ながら友達が「疑似じゃん!」と怒ってたけど、意味がわからなかった。
もちろん彼女なんてできるわけもなかったし、そもそも欲しいとも思っていなかった。彼女という概念がなかった。
当時、学校で流行っていたことがある。
好きな人から校章を貰う。そして貰った校章を自分の制服の裏に隠すようにつける。ということだ。
好きな人から貰う。その意味がわからない中学生だった自分。
そんな自分の校章を欲しいと言ってくれた女子がいた。
自分は深く考えることもなく、その子に渡した。
その子はとてもかわいくて、大人びてて、美人だった。そして優等生だった。その子は、いつもうれしそうに制服の裏に自分の校章をつけてくれていたらしい。
そのまま何も起きることなく卒業し、お互い別々の高校へ進学した。
ある朝、偶然、駅でその子に会ったんだ。「あっ」だけで、会話もできなかった。
でも、自分を見つめるその子の眼が輝いていたんだ。
高校が逆方向で、そのまま会話もなく別れた。
そして、それ以降、偶然会うことはなかった。
あれから、何十年も経っている。
いまでも、はっきり覚えている。
彼女の眼が頭の中に思い浮かぶ。
いまならわかる。
あれが恋する女性の眼だということが。
そして、今でも彼女の眼を覚えている自分こそ、彼女のことを好きだったのだと。
あれが初恋だったと大人になって気づいた・・・