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名著を読み解く#46 アニメが精神療法に役立つ パントー・フランチェスコ『アニメ療法 心をケアするエンターテイメント』(光文社新書) 

「名著を読み解く」動画がいつの間にか46本になっており、このnoteでも全て紹介していこうと思ったのだが、あまりにも大変でちょっと追いつけなくなってしまった。そのため、これからはリアルタイムで更新に対応するべく、直近の動画をnoteで更新していくことにした。

アニメがメンタルヘルスに役立つ

アニメを観ることがトラウマから回復やメンタルヘルスに大変役に立つ!?そんな仮説を元にアニメの新しい一面に光を当て、新しい鑑賞を提案しているのが『アニメ療法』(光文社新書)である。
筆者は日本のアニメを見て育ったガチのアニメオタクで、イタリア人医師のパントー・フランチェスコ氏。本書は日本語で書かれている。

アニメと冠が付いているが、ゲームやマンガも含んでおり、実際には物語セラピーの一つだ。だが、映画やドラマのような実際に人間が演じる実写作品ではなく、アニメ(や漫画、ゲーム)の方が効果が高いと筆者は主張する。

なぜなら、実写だと己と類似性があるからこそ、心理的な抵抗が生じてしまうからだ。その点、アニメの方が実写よりも表現の幅が広く、実写では不可能なことも容易に表現が可能だ。


「歪んだ物語」の解体

人間には、自分を縛っている間違った思い込みや、不幸な出来事などから自分を責めてしまう「歪んだ物語」がある。セラピストが行うのは、患者が支配する「歪んだ物語」を特定し、人生経験と紐付いている意味を解きほぐし、分析し、患者に内在化されている歪んだ物語を外へ出す外在化していく。このプロセスを通して、患者を支配する歪んだ物語を解体していくのだ。

アニメ療法では、専門家と患者がアニメを題材に、場面を取り上げ。どう思ったかなど詳しいカウンセリングを通して、患者を支配する歪んだ物語を解体していく。

物語を鑑賞することを通して「物語世界を現実世界化のように感じ取り、ストーリーにのめりこみ、キャラクターに共感する。その体験が、自分の生きる現実に新しいヒントを見出す役に立つ」。さらには、「物語が進むにつれて、それぞれの引き出しも更新されていく」というのである。このような物語への没入と、感情移入を経て、自己受容へと到達するというわけだ。

どんなアニメがいいいのかといえば、主人公が成長する教養小説(ビルドゥングスロマン)であるという。もちろん、ヒーローものも効果が高い。主人公の悩みや成長に自分を投影し、仮託することで、自分の心に力を注入していくのだ。

アニメAIによるカウンセリングはシンギュラリティーとなるか?

日本のアニメは、一年間3ヶ月ずつ春夏秋冬とそれぞれのクールに分けて放送される。各クールだけでも70本以上もの新作が放送されている。全てをキャッチアップするのは至難の業だ。莫大な数のアニメが存在するにもかかわらず、意外にも鑑賞者の心理に迫る研究は意外にも少ないのが実情だ。ゲームやアニメも同様に心理的研究が乏しい。また、アニメに詳しい精神科医も決して多くはないことが想像される。

そもそも、若者への心理療法が極めて乏しく、全く足りていない現状がある。精神的にトラブルを抱えても、精神論の押しつけや、「そんなのは単なる甘えだ!とする声高な避難、自己責任という烙印で心の弱さをバッシングする風潮など、枚挙にいとまがない。しかも、実際に勇気を出してカウンセリングを受けたとしても、カウンセラーとの相性で、余計に問題が悪化するケースもある。

そのため、筆者はアニメキャラのAIによるカウンセリングを提案している。これは大変面白い提案だが、AIによるカウンセリングが可能となるということは、シンギュラリティさえ実現していることをほぼ意味するに等しい。はたして、科学技術の進歩が人間を幸せにするかという普遍的な問題が立ち現れてくる。

だが、最もフォーカスしなければいけないのは、病む人間が無限に増加していく社会のあり方だ。アニメ療法は対処法の一つであるが、アニメがかつてないほど膨大に量産されること自体、それだけ心を病んでいる人が増えていることを示唆しているのかもしれない。

アニメを心から楽しむことが第一歩

今後、実際に心のアンバランスを抱えている人たち(それは引きこもりの子供たちだけでなく、仕事や恋愛などに悩むおとなも含む)にどんな成果があるのか、今後のアニメ療法のさらなる研究が待たれる。

だが、理屈よりもまずは、アニメを心から楽しむことだ。
それが療法の一番肝心なところであるのは間違いない。

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