フェードアウトする
先日、久しぶりに救急車に乗った。
人生で2度目である。
一回めは29歳の時、激しい腹痛を覚え、2時間ほど耐えたのだが(その間、温めたら良いのでは、と風呂に入ってみたり、トマトジュースを飲んだら治るのではと飲んでみたりした。今覚えばなぜトマトジュースなのかわからない)
どうもこれは無理だと思い、救急車を呼んだ。
結果、腸閉塞で一週間ほど入院した。
激痛で意識はかえってクリアで、周囲を観察していた。
で、今回である。
今覚えば、予感はあった。
日中、どうも背中が痛かった。
その後、体重を測ったらなぜか急激に3キロも減っていた。
そして豚キムチを単品で近所の店で食べていたら、どんどん具合が悪くなってきた。視界が狭くなってきて、意識がフェードアウトしてぼんやりとしてきた。
暗闇に蝶が舞った。
幻である。夢を一瞬見ていたのだ。
「あれ、これはやばい感じがする」
と思い、水を飲んだ。ところが、水を体が受け付けない。
汗がどんどん出てくる。
氷で冷やした手拭いで首を冷やした。
少し落ち着いては来たが、お店の人が救急車を呼んでくれていたので、救急車に乗った。
意識は少し戻ってきていたので、また観察していたが、血圧と脈拍と体温を測ってくれている救急隊員の方が「とれません!」みたいなことを言っているので少しビビる。
測れないほど、どうにかなっているのか。
結局少ししたら「とれました!」ってことになり、無事血圧と体温と脈拍が測れた。
血圧は上が90で下が60くらいで、体温は35.9みたいな感じだった。
普段わたしは130から100くらいなので40ずつ低い。
体温も36度はいつもあるので低い。
よくわからないがさっき測れなかった時はもっと低かったのかしら。
そんなことをやりながら、別の隊員さんはあちこちに電話をかけてくれているが、三つの病院に断られていた。
断られるたびに、「断られました。次に近い病院に電話しますね」と声をかけてくれるのでなんだか申し訳ない気持ちになった。
電話をかけてくれている隊員さんも「自動音声じゃなくて対応してくれた病院が一件だけだ」みたいなことを言っている。
わたしもよく色々なサポートセンターに電話をかけて自動音声でナビゲーターさんに繋がらなくてイライラするのだが、まさか救急の病院の対応も自動音声とは。
30分ほどして、やっと受け入れてくれる病院が見つかり、移動することになった。サイレンを鳴らして「右に曲がります」などとスピーカーから流しながら走っていく救急車。
これも申し訳ない気持ちになる。
なんのかんので救急車に乗ってから病院に着くまで40分ほどかかった。
救急隊員さんも病院もきっと悪くないのだろうけど、少しうむー?とはなる。
点滴を打たれ、体温を測られ、心電図を取られ、血圧を測られ、血液を抜かれた。血液検査が終わるまで点滴をするとのこと。
点滴をされているうち具合はまともになっていく。
お医者さんに飲んでいる薬について聞かれた。
名前を忘れたので、「シートが青くて、錠剤は丸いです」みたいなことを言うと、画像を見せてくれた。
chatGPTで調べたとのこと。AIは医療現場でも活躍している。
隣のベッド(カーテンで見えないが)にいる女性が泣いていた。痛いらしい。かわいそうだ。
隣のベッド(こちらもカーテンで見えない)にいる男性は「実は医療従事者なんです」「え、何ですか?」「放射線です」みたいな会話を看護師さんとしている。
点滴が80%ほど終わったところで血液検査の結果がでた。
とりあえず異常なものはないとのこと。
おそらく急激な脱水症状からの低血圧だったのでは、とのことで、帰って良いと言われた。
会計を待ちながら、スマホを開く。
会計を済ませて外に出た。
救急車で運ばれたのでどこにいるのかわからない。
マップを見ると最寄り駅までだいぶある。
タクシーもバスもいない。
歩いていくしかないようだ。
腸閉塞の時はとにかく痛かったが、今回は意識が薄れていった時に夢のようなものさえみた。
もしかしたらあれは走馬灯の冒頭だったのではないだろうか。
汗で濡れて乾き切っていないセーターは冷たかった。