![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50152404/rectangle_large_type_2_7e95006669cf56a9ff1e00bf1d5290f7.jpeg?width=1200)
「連れ去り」被害者にならないために
はじめに
元プロ棋士の橋本崇載八段が「連れ去り」の被害に遭ったことをYouTubeで告発してから、「連れ去り」の問題に世間の関心が一挙に高まったように思う。
私は、『子の最善の利益』という観点から、『離婚後の共同親権』と『未成年の子のある夫婦の別居に法的ルールを』ということをTwitterでたびたび訴えてきた。家族法制の全般的な見直し作業も進められ、今後は『共同親権』導入の方向に進んでいくものと確信しているが、今年は総選挙もあり、また、コロナ問題と、おそらくそれによってもたらされる深刻な経済問題などの困難な問題が山積しており、家族法制の見直しがなされるとしても1年以上は先のことになるのではないかと思っている。
しかし、そうしている間にも「連れ去り」被害に遭う子どもや親は確実に発生し続ける。私は、そういう被害を防ぐ一助になればと考えて、本稿を書いた。なお、本稿はもっぱら被害者となるのは「父親」であり、私自身が父親であることから、父親側の視点で述べたものであることを初めにお断りしておきたい。また、本稿は【子どもを真剣に愛し】、【子育てにも積極的に】関わってきた父親を念頭に書いた。もし、自分がそれに当てはまらないと思うなら、そっとページを閉じてほしい。
「連れ去り」とは何か
私が「連れ去り」と呼ぶのは、子どもに対する虐待や配偶者に対するDV防止法上のDVが存在しないにも関わらず、一方配偶者が勝手に子どもを連れて別居を開始することである。
別居を開始する以上、夫婦関係が深刻な危機にあることは疑う余地はない。もちろん、別居後に話し合いで円満解決するケースもあるが、多くのケースはそのまま、離婚に至る。そして、離婚後は父母のどちらか一方を親権者としなくてはならないという日本の絶対的単独親権制度(民法819条)の下では、子どもを現実に監護養育している親が圧倒的に親権者に選ばれる。また、別居開始から離婚まで連れ去りをした親から「婚姻費用分担請求」をされ、離婚後は子どもの「養育費」を(請求を受ければ)支払わなければならないが、子どもに関することがらに関しては【実質的に無権利】の状態に置かれる。
現行の法律制度及び家庭裁判所の実務傾向から、このような状態に陥った人に対しては、残念ながら【有効な救済手段はない】。連れ去られた子どもを自力で取り戻せば【未成年者誘拐罪】で警察に逮捕されるおそれがあるし、家裁に「連れ去り」の不当性を訴えても、『現実の子どもの監護・養育状態』に問題がなければ、まず取り上げてもらえる可能性は低い。
だから、「連れ去り」被害者にならないために、正しい知識を持つことが大切だ。
「連れ去り」被害に遭わないために
「連れ去り」について、『ある日、突然、妻と子がいなくなりました』という場合がある。しかし、私は実際にはそのようなケースは稀だと思っている。前述したように、夫婦の別居の背景には「婚姻関係の危機」があるケースがほとんどだ。だから、たいていの場合はその「予兆」がある。
「予兆」として、代表的なものを挙げれば
◇夫婦間の口論が多くなり、和解できないままわだかまりが残る
◇夫婦間の会話(コミュニケーション)が非常に少なくなる
◇夫婦間の性生活がなくなる
◇何らかの原因により、家庭の経済事情が悪化する
などがある(2つ以上当てはまる人は要注意)。ここで気をつけてほしいことは、『あなたが考えるよりも相手の不満度は大きい』かもしれないということ。相手が内向的な性格の場合、不満を表には出さないまま、鬱積した感情が突如、爆発する場合もある。
それでは、こうした予兆を感じ取った場合、どのようにすればいいのか。
★ 妻とのコミュニケーションに努める
たいていの場合、妻(母親)も『子どものために家族は必要だ』と考えている(と信じたい)。だから、まずはきちんと夫婦で話し合って問題の解決をはかるべきであろう。(なお、この話し合いをする場合、万が一、その後に「連れ去り」をされたときに備えてボイスレコーダーなどで録音しておくことを推奨)
★ 子どもとのコミュニケーションをさらに密にする
子どもが学齢期以上の年齢であれば、子どもと話をすることで、母親の様子を聞ける可能性がある。このとき、気をつけてほしいのは、【子どもから聞き出すのではなく、子どもとの信頼関係を作って子どもから話すのを待つ】という姿勢を貫いてほしいということ。子どもにあれこれ問いただすのは、その後に離婚が避けられなくなったときに子どもに自責の念をもたせるおそれがあるので、絶対にするべきではない。
★ 家庭裁判所の活用
上記でも不安が拭えない場合には、家裁を利用して相手の行動に法的な縛りをかけるのが有効だ。
例えば、「子の監護に関する保全処分」を申し立てて、子の居所を勝手に変更されないようにする。これは、弁護士を依頼しなければ難しいので、弁護士に依頼せずに済ませたい場合には、「夫婦関係調整調停」を申し立てて、その中で「子の監護」についてきちんと取り決めをしてもらうという方法もある。ただ、この段階まで考えざるを得ない状況ならば、一度は弁護士(できれば、家事事件に詳しい人)にきちんと相談すべきだろう。
(性生活に関しては、私は専門外なので、専門のカウンセラーなどに聞いてくださいネ😘)
「連れ去り」加害者にもならないために
ここまで、妻の側が離婚を望む場合という前提で述べてきたが、夫の方が離婚を望む場合もあるだろう。妻の浪費や精神的DVなど、話し合いで改善が望めなくなった場合、離婚もやむを得ないと思う。
しかし、その場合でも子どもを連れて勝手に別居すべきではない。きちんと家裁に離婚調停と子の監護に関する調停を申し立て、そこでルールを決めてから別居をすべきだと思う。
どうしても、別居を先行せざるを得ず、子を残していくこともできずに子連れ別居に至る場合には、別居後ただちに、家裁に「子の監護」についての調停申し立てを自らなして、母親と子との親子交流の機会を作る努力をすべきだ。(ただし、児童虐待がないというのが前提。子の面前での夫婦喧嘩も「児童虐待」という人もいるけど、そんな議論は論外なので)
『自分は被害者なのに、なぜ、妻のためにそんなことをしなくてはならないのか』と思う人もいるかもしれないが、ここに書いたことはすべて、『妻のため』ではなく、『子どものため』に必要なことなのである。