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地方公共団体の財務4表について考える
公認会計士の三浦真です。
先日、鹿嶋市市議会議員の先生方を前に、地方公共団体の財務4表について解説するセミナーを行いました。
財務課ご担当者様も参加頂き、2時間、休憩なしでお話をさせて頂きました。
行政改革推進法第62条第2項により、企業会計を参考にして作成されている財務4表ですが、講師をご依頼いただき、改めてこの意義について、深く考える機会となりました。
財務4表と企業会計の関係
地方公共団体の財務4表は、企業会計をモデルとしながらも、行政特有の観点が加味されています。
企業会計では、株式会社であれば会社法第431条により「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」と定められ、上場企業の公表情報(有価証券報告書等)を参照すれば、共通点、相違点が良くわかります。
行政改革推進法第62条第2項により、自治体の財務4表は企業会計を参考としつつも、公共性などを踏まえた、特有の記載が求められています。
統一的な基準による公会計
総務省が公表している「統一的な基準による地方公会計マニュアル」には、発生主義・複式簿記、資産評価、そして固定資産台帳の作成方法などが細かく示されています。
これらは、自治体が持つ道路、橋、公園などのインフラ資産を正しく評価し、将来的にどれほどの維持コストや更新費用がかかるかを把握するために必要不可欠です。
また、マニュアルには連結財務書類作成の手引きや連結財務書類活用の手引きといった、自治体とその関連団体を含めた全体像を示すための作成・分析方法が記載されています。
民間企業であればグループ連結を行うのと同様に、自治体も連結を行うことで、自治体全体の資産負債の状況を把握しやすくなるのです。
最も大切なのは「どう活用するか」
セミナーでは財務4表、そのものについての解説も行いましたが、最も大切なのは、どうやって活用するかという点を強調しました。
いくらデータを整備しても、それが机上の資料にとどまってしまっては意味がありません。特に、連結財務書類活用の手引きでは、財務情報を自治体経営にどう反映させるかが、詳しく説明されています。鹿嶋市の公表情報によれば、人口減少や少子高齢化の影響が財務4表の数値に如実に表れています。
財務4表を用いた分析のポイント
財務4表を使った分析では、以下のような観点が挙げられます。
資産の状況
資産と負債の比率
負債の状況
受益者負担の状況
行政コストの状況
コストと財源の比率
全て大切ですが、特に私は、行政コスト対財源比率を把握することが重要と考えます。コストの削減だけでは自治体運営に限界があるため、いかに新たな財源を確保するかがカギとなります。
議員の皆様との対話
今回の鹿嶋市市議会でのセミナーには、多数の市議会議員の先生方、そして財務課のご担当者様が参加されました。セミナーに今後どのように議会で財務4表を利用するかについてのフリーディスカッションの時間を多く取りました。
副議長の先生や財務担当の先生、さらには若手の先生方も積極的に課題を共有してくださり、市の将来を見据えた財源の確保策や行政サービスのあり方、また地域活性化の方法など、多角的な視点から話が弾んだのが印象的でした。
会計は「課題を洗い出す」だけでなく、「解決策を生み出すための土台」となることを、改めて実感しました。
コストと財源を両輪で考える
コスト削減の努力は大切ですが、実際は難しいと考えます。そこで必要となるのが、新たな財源の確保や地域の魅力を活かした施策の展開です。
鹿嶋市であれば、鹿島アントラーズの存在や、鹿島神宮、海辺の自然、観光資源、さらには風力発電など、数多くの魅力があります。
民間企業が売上を伸ばすためにマーケティング戦略を立てるのと同様に、自治体も「どのように財源を生み出すか」を考える時代です。
魅力を伝えて企業を誘致して、人口を増やすというビックピクチャーを描くためにも、まずは、会計を理解しましょう。
そして、会計を活用しましょう。
「これより天下のことを知る時は、会計もっとも大事なり」坂本龍馬さんの言葉通りです。
セミナー終了後のアンケートでは、多くの参加者から非常に有意義だったとの声をいただき、私自身もこのテーマの重要性を再確認いたしました。
地方自治体へのさらなる広がり
鹿嶋市だけでなく、他の地方自治体でも同様の課題が山積しています。
人口構造の変化やインフラの老朽化など、早急に対応すべき問題に対して、財務4表の活用は大きなヒントを与えてくれるはずです。
私は今後も、ご依頼を頂きましたら、各地の議会や行政担当の方々に向けて、公会計を切り口としたセミナー、研修を積極的に行いたいと考えています。
次の世代に豊かな日本を継承するために
公会計を通じて自治体の将来を考えることが、強く賢い日本を作り上げる一助となると信じています。
地方自治体の議員の皆様が10年先、20年先を見据えて財政を分析し、解決策を検討していくことで、住民の皆様の生活をより豊かするはずです。
会計情報は「何が課題か」を明確に示すだけでなく、「どのように解決するか」の具体案を検討するための貴重な根拠を与えます。
これからも私は、地方自治体の将来を支えるお手伝いをしていきたいと考えています。
ありがとうございました。
✳︎写真:日本公認会計士協会東京会HPより引用