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エネルギー政策の困難さ
公認会計士の三浦真です。
本日は、日本経済新聞、「洋上風力、日本も試練 三菱商事が損失522億円」を読んだ感想について、書きたいと思います。
日本のエネルギー政策の難しさについて考えてみたいと思います。
特に、洋上風力発電の現状と課題、そしてそれを推進する三菱商事の挑戦について取り上げます。
グリーンエネルギーの必要性と現実
世界がカーボンニュートラルを目指す中、日本も再生可能エネルギーの拡大が急務となっています。脱炭素化を進めるには、風力発電の整備は欠かせません。
しかし、日本は地形的な制約が多く、陸上風力の適地が限られているため、洋上風力発電が主力電源として期待されています。
政府も2030年までに洋上風力の導入を進める方針を掲げています。
ただし、洋上風力発電にはコストの高さという大きな課題があります。実際に、日本の大手企業である三菱商事が進めるプロジェクトでも、収益と費用のバランスが取れず、大規模な損失が発生しています。
洋上風力発電の高コスト構造
洋上風力発電は、設備投資が巨額で、採算性が極めて厳しい事業です。
風車の調達コストは過去4年で1.5~1.8倍に上昇
事業費の過半を占める建設コストや資材費が高騰
円安や地政学リスクの影響で調達費用がさらに増加
特に、インフレの影響を受け、洋上風力発電の事業は世界的に厳しくなっています。
米国や英国、フランスでは、すでに撤退や延期が相次いでいるのが現実です。
三菱商事の損失計上と固定資産の減損
こうした状況の中、三菱商事は国内3海域の洋上風力発電プロジェクトで522億円の損失を計上しました。損失の背景には、
事業コストの急上昇(建設費、部品価格、物流費の増加)
入札時の売電価格が低すぎた(リスク管理の甘さ)
市場環境の急変(世界的なエネルギー価格の変動)
などが挙げられます。洋上風力発電は、初期投資が大きく、減損リスクが高いビジネスです。今回の三菱商事の決算は、日本の再生可能エネルギー政策全体に影響を与える可能性があります。
それでも洋上風力発電を進めるべきか?
これは経営判断が必要です。
損失が発生したとはいえ、日本のエネルギー政策において、洋上風力発電の重要性は変わりません。その理由は以下のように考えます。
1. エネルギー安全保障の確保
日本は化石燃料の90%以上を海外に依存しており、国際情勢によって供給が不安定になります。エネルギーの安定供給のためにも、国内で発電できる再生可能エネルギーの拡充が不可欠です。
2. 脱炭素社会への対応
カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの導入拡大が必須です。原子力発電の再稼働も議論されていますが、洋上風力の導入は長期的なエネルギー政策の柱となるはずです。
3. 産業競争力の維持
欧米では洋上風力発電が拡大し、多くの企業が国際市場で競争力を高めています。日本が遅れを取れば、将来的にエネルギー関連産業での競争力を失うリスクがあります。
三菱重工の国産航空機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」を思い出す
この状況を見て、私は三菱重工の三菱リージョナルジェット(MRJ)の件を思い出しました。「国産航空機の復活」を掲げたMRJプロジェクトは、度重なる納期遅延とコスト増で頓挫し、最終的に計画は白紙になりました。
技術的には優れたものの、国際市場での競争に負けた結果、三菱重工は多額の損失を計上しました。この失敗から学べることは、
どれほど技術力があっても、事業の採算性を見誤ると成功できない
国家プロジェクト級の投資でも、競争環境次第では撤退せざるを得ない
という厳しい現実です。
公的支援と国民負担のバランス
洋上風力発電を成功させるには、政府の支援が欠かせません。欧米では、価格保証や補助金を活用し、産業競争力を維持しています。
英国は、電力販売価格の上限を66%引き上げ、事業者が採算を確保できる環境を整備
米国のニューヨーク州では、既存プロジェクトの売電価格を見直し、事業者を支援
日本でも政府が新たな支援策を検討していますが、電気料金の上昇など、国民負担とのバランスをどう取るかが課題となっています。
三菱商事には頑張ってもらいたい
今回の三菱商事の損失計上は、日本のエネルギー産業にとって大きな試練です。しかし、三菱商事ほどの企業がこの事業に挑戦しなければ、日本の洋上風力発電は前に進まないでしょう。
コスト管理の重要性を十分に理解していますが、それでもこの事業を諦めるべきではないと考えています。国産航空機のMRJが失敗に終わったように、日本の企業が「できない」と判断すれば、この分野での競争力は完全に失われてしまいます。
だからこそ、三菱商事には何としてもこの壁を乗り越え、洋上風力発電の未来を切り拓いてほしいのです。
持続可能な未来のために
日本が洋上風力発電を本格的に導入するには、政府、企業、国民が協力して取り組む必要があります。課題は多いですが、長期的な視点で適切な支援策を整備し、成功モデルを確立することが重要です。
エネルギー政策は短期間で成果が出るものではありません。しかし、今から動き出さなければ、未来の日本のエネルギー供給は危機的状況に陥るでしょう。
三菱商事をはじめ、この分野に挑戦する企業には引き続き応援の声を送りたいと思います。この挑戦が日本の未来を切り拓く一歩となることを願っています。
ありがとうございました。