早くおおきくなるといい
早くおおきくなるといい
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
駅前の線路をまたぐ陸橋の上からホームに立つママを見送って
列車より早く出発するよう僕を小突くとき
靴をもつ僕の左手をとって
泣きやまないまま下駄箱までつれていくとき
体を震わせ抗いながら避けえない別れへとすすむ姿は
どんな年齢にも重ねうるもの
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
眠気と失敗で泣きだす顔で
戦友の墓を掘る顔が見える
自転車の後ろに座って別れるまでを待つ顔で
平和ならかかる必要のないマラリアで見捨てられ死を待つ顔が見える
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
満州事変が起きたとき出征することになる学徒は小学校に入りたてで
原爆に焼かれるとも知らず工場へ向かった少女は生まれてもいなかった
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
まだ法律もないのに
徴兵を拒否するように願う
私を非国民だとなじる声の大きさは
自転車をこいでいる間に後ろをふりむくことはできないだろうというツッコミとおなじくらいのもの
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
知らないうちに命の使い道をきめる
常識の軽さに気づく
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
泣き声が自分の運命を変えられるよう
早くおおきくなるといい
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
本当は なにがしあわせかをわたしが迷う必要のないくらい
早くおおきくなるといい
保育園で別れた息子を思い出すとたどりつく
徴収令状が彼に届く午後
それまでのあいだ息子を死に売ることのない世界を
わたしは作っていければいい
保育園で別れた息子を思い出す午後
わたしもおおきくなるといい
早く