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招き猫

 世の中には、招き猫、と呼ばれるような客となって店に来る人々というのがいる。
 有栖と将生は、二人で街に出てお店に入ると、それまで閑散としていた店内が急に賑わい出す、ということが実に沢山ある。
 電車で繁華街に出て、二人はバリスタに入った時は空席も目立ち、注文して腰掛けて喫茶をしていると、周りが賑わい出して、満席となる、ということもしょっちゅうで、ごはんを食べに料理屋に入ると、それまで閑散としていた店内がにわかにざわつき、店はてんてこ舞い、ということになっていく。
ある日、二人は、バリスタを出て、蕎麦屋に入ると、やはり賑わい出してきた。
「我々、招き猫なことが多いな」
「そうやな」
 招き猫、ということは二人が寄り付かない店でしばらくするとおなくなりになっていた、という店も結構あって、二人はおなくなりになった店の閉店告知を見掛けると、二人合掌して店を慰霊する。
 一軒裏道にあったごはん屋が閉店告知を下げており、そういえば、この店は数回食べに行ったが最近はさっぱり寄り付かなかったなあと、将生が言うと、有栖は、諸行無常やのうと合掌してからそう言った。
 招き猫は猫なので居心地の良い所を敏感に嗅ぎ分ける。店が長くまわっていくには居心地の良さは必須で、二人が居心地良く居る店は、かなりの人間が居心地良いと感じる所が多いということであろうか。
 そうして有栖と将生が居る店には、二人が招き猫となって賑わっているので、長くその街でやっていっている。だからかもしれないが、どの店に行っても二人は優しく遇されて、居心地良くその店に居る。