一個売りのりんご

予定まで時間があったのでスターバックスに入った。

昔、3週間ほどカナダへ渡航したことがあった。

バンクーバーのダウンタウンには沢山のスターバックスがあって、歩いていれば次のスターバックスに着くという立地体制にすごいなあと思った。

アンジェラはジュニアスクールのティーチャー。

僕はそのとき、ジュニアスクールで日本の文化を教えるというミニ授業をさせていただいた。藍色の着物姿で挑んだ。

皆で、だるまさんがころんだをグラウンドで楽しんで子供達は全力で走り回り、時には息を潜め、微動だにせずに時を待ち走り出す。かなりの時間、僕たちはゲームを楽しんでいた。

バンクーバーにはスターバックスと同じくらいにクレープ屋さんがあり、日本のクレープよりも遥かに美味しく感じた。とても大きなクレープ。

日本から贈られたというチェリーブラッサム、桜が丁度満開の季節で街中を彩っていた。

日本のソメイヨシノよりも遥かに濃いピンクカラーでお国柄に似合った桜だと思った。

日本も世界もスターバックスやファミリーレストランのような同じシステム、同じマニュアルのスタイルが今では主流。

ハズレがない分、ついつい、ネームバリューのあるお店を選んで安心してしまうことはある。

本来、僕はチェーンスタイルのショップが好みではなかったというのに。

作家としてデビューしたての頃、敬愛する大先輩、大御所のクリエイター、心では師と慕う方から「一個売りのりんごになれよ。一山いくらにはなるなよ。」という言葉をいただいたことがある。

この言葉は今も僕の作家としての一本の指針になっている。

スーパマーケットで山のようになってごろっと売られるりんごではなくて、丁寧に作られて桐箱に入れて売られるような一個売りのりんご。

今の僕がこんなことを言うと思い上がりでしかないとしても、いまだにこの思いに変わりはない。

一個売りのりんごとして、そして、一個売りのりんごを作る農家のような心。

スターバックスは確かにトータルバランスに優れている。

店員さんも感じがよく、気さくに話しかけてくれて笑顔も良く和ませていただける。

十分に価格以上の価値がある。

普段はスターバックスでコーヒーを味わいながらも、焙煎にこだわる渋い顔をしたマスターが淹れる燻銀なコーヒーが飲める時、至福を感じることもある。

何が正しいということはないけれど、真心を込めて作られたものには価値がある。

丁寧に、気持ちを入れて、礼節を持って作られたものは人の心を感動させるに値する。

一個売りのりんごが今の時代に合うのかどうか、88円で売られた方が皆、飛びついて買うのではないかという現実もありながら、表現をする者、クリエイターとして。やはり一個売りのりんごでありたい。

スターバックスのチェーン展開でありながら磨き抜かれたサービス。

そして老舗焙煎店の燻銀なドリップコーヒー。

極めたお店は価値を生み出し愛される。

心を込めて、礼節を込めて生み出されるクリエイション。

その先を見つめ続けていたい。

迷いの時代の中で、本当に大切なことを見失いがちなときもあるけれど、

常に自分の最高を更新し続けるならきっと少しづつまた価値に見合った結果は生まれ続ける。

時代の甘い罠に惑わされず、信じた道を行こう。

あなたも。きっと。

Makoto ATOZI

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この記事を書いた人

作詞家　Makoto ATOZI　プロフィール

平井堅「楽園」より作詞家としてのキャリアをスタート。以後、ジャンルの枠を超えて様々なアーティストの音楽制作、レコーディングに参加。
現在は歌を書く喜びを伝えたいという志から、ソングライティングセラピー作詞教室を主宰。

歌詞提供アーティスト

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