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クララのばか番外編1〜整形外科病棟人間模様〜

ひと月を越えて入院しながら2カ所の病棟で相部屋で過ごしていると、色んな人達と出会う。
正確にはまともに話した事も無い方がほとんどだが、彼らが看護士や療法士やヘルパーさんと交わす会話を、仕切られたカーテン越しに聞くうちに、様々な人間模様が見えて来る。
1、整形外科急性期病棟Aさん
声が大きくハキハキ喋るAさんは中小企業の管理職だろうか?しょっちゅうバサバサと新聞をめくってはノートPCのキーボードをパタパタ打っては昼夜問わずメールを受診している。そして時折激しく咳払いしたり、鼻を詰まらせたりするのは私よりも深刻な睡眠時無呼吸症候群だろうと想像する。はじめは叫んでいるのかと思うくらいに大きな声と共に咳払いして、術後の痛みで眠りの浅い私を起こしてくれた。しかしそれ以外嫌な感じもしないのはスタッフ達への姿勢が高飛車では無いからだったろう。
症状はおそらく私と同じ屈折性膝関節症で「骨切り」術式をしたと見られる。私より10日程度先に進んでいたが両足立ちできるようになってリハビリ専門病院に転院して行った。本人はここに残ってリハビリを続けたがっていた様だが「急性期には3週間が限度です」と退院させられたような形だった。
2、同じく整形外科病棟Kさん
Kさんは73歳。穏やかな語り口の紳士的なおじいちゃんといった感じ。症状は「仙腸腰椎」と「骨切り」入院歴は長そうだが追い出されはしなかった様だ。時々電話がかかって来て取り引きや在庫の回し方など指示していたので、個人経営の会長さんといった所だろうか?
勉強熱心なのか?家から英語の本を持って来させて、周りの迷惑にならない程度の声で読み上げていたり、海外に住む若い友達か、孫か?とスマホを使って英語で会話を楽しんでいた。
お気に入りの療法士がいて、彼女は部屋までやってきて30分ほどずーっと喋りっ放しでマッサージやストレッチを行っていた。
Kさんは転院はせずに退院して通院リハビリする事にしたらしい。
3、同じく整形外科病棟Sさん
Sさんは私より後から入院して来た若い方で遊戯店に勤めているらしい。腰のヘルニアの手術でやって来て、朝手術室へ行ったが帰って来たのは三日後だった。手術後に血栓ができてICUに留まっていたらしい。
身体中に蕁麻疹ができて痒くて眠れないと軟膏と飲み薬と色々試しながら、安定剤(睡眠導入剤)も服用したが、これが凄かった。
地響きの様な物凄いイビキをかくのだ。AさんもKさんもかなり苦戦したらしくAさんの咳払いは更に絶叫みたいになるし、Kさんは杖でベッドのフレームを叩いて注意を喚起しようとするが、安定剤で寝ている人は起きない。
私は家族に頼んで「耳栓」を差し入れしてもらいなんとか凌いでいた。
やがてAさんもKさんも退院して行った。
4、同じく整形外科病棟Oさん
Aさんが退院した所に入れ替わりで入って来たOさんは消防士。数年前に「骨切り」したプレートを外しに来ていた。手術から帰った翌朝には看護士に頼んで尿管も外して歩いてトイレや洗顔に行っていた。
私が車椅子で洗面所に行くと手術着のまま足も圧迫包帯がグルグル巻きに巻かれたまま立って歯磨きしていた。「すごいですね」声をかけると「まぁ痛いけどね」と。
私は尿管外れるのに3日、出血ドレンに5日もかかったし車椅子でトイレに行くのもヒイヒイ言っていたのに、消防士とはかくも頑健な肉体を持つのものか!と感心した。
だが、そんなOさんでも悩みはあった。前述のSさんのイビキだ。OさんはSさんが眠る前に寝てしまおうと努力している様子だったが、やはり夜中に起きてしまって、翌朝洗面所で会った時はグッタリした様子だった。「昨夜はキツかったですね」言うと「全く眠れんかった。」と言うので私の耳栓の予備をあげたら喜んでいた。
その後どうなったのかは、私が急性期整形外科病棟からでて地域包括病棟へ引っ越ししたので解らない。

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