VTRの職人vsノンリニア(TBC21)
テレビでゴルフ中継をご覧になった事がありますか?
優勝を争う複数のプレイヤーがそれぞれ違うホールでプレーしていて、1人が打ち終わると別のホールでもう1人が打つ。大きな大会だと14番〜18番までの上がり5ホールくらいをカバーして放送されます。
でも考えると不思議ではありませんか?
ゴルフをプレイした経験のある方ならわかると思いますがゴルフは打つよりもはるかに長く歩き続けるスポーツです。A選手が17番でティーショットを打ってボールが止まったタイミングで14番でB選手がセカンドショットを打つ、なんてそんなに上手くタイミングが合うものでしょうか?
実は同時進行しているプレーを裏で録画してタイミングを測って再生して乗り換えるという事をしているのです。これはVTRマンと呼ばれる職人業でして、同時に行われているプレーから一番近そうな選手を選択して録画しながら他のホールも気を配り、必要なプレーを次々と録画しては巻き戻して再生するという離れ業なのです。
どの様な構成でどの選手のどのプレーを放送するかはディレクターが決めますが、その映像があるかどうかはVTRマン次第なのです。
経験の浅いディレクターはあれもこれも全部欲しがって放送したがりますが、熟練のVTRマンは順番やコースレイアウトを頭に入れていて破綻しない様にコントロールします。「これ出したら軸に戻れなくなるよ解除します」ってな感じです。
しかしそんなVTRマンにも弱点があります。VTRは(VideoTapeRecorder)文字通りテープレコーダーなので、ストップしたり再生したり巻き戻したりしている間は録画できないし、録画中は再生できません。
新進気鋭のB社のツケいる隙がここにありました。
ノンリニアVTR。
ノンリニアとはnon linearの事で長手方向では無い、つまりテープでは無くてディスクに録画する機械です。
ディスクに録画しながら、別のヘッドで同時に再生できるので録画を止める事なく再生できて、再生しながら録画を続けられるのです。
私達は日本中のノンリニアを見てまわり、全てのメーカーにデモンストレーションを依頼して素材や環境を持ち込みテストしました。
当時一番流行っていたノンリニアはAvid社のメディアコンポーザーでしたが、これは編集を目途として作られた機械で、編集室1部屋分の性能が一台のMacに詰められていました。
しかし求めている性能はそうではない。
デモを依頼した中にオシロスコープや波形モニターのメーカー、ソニー・テクトロニクス社のノンリニアがありました。名前はProfile。
大容量高速ワークステーションに複数のビデオ入出力ボードと複数のオーディオ入出力ボード、高速ハードディスクを内蔵したマシンをアメリカのTektronix社が開発し、日本での代理店ソニー・テクトロニクス社が販売・アプリ開発を行なっていました。
私達が出した結論はソニー・テクトロニクスのノンリニアでした。何より画質が素晴らしい。Avidなどは一見綺麗に見えますが、
基準信号などを入れて再生すると角が溶けて丸くなっていて、これは映像のキレが無くなった事を表していました。これに対しProfileの映像はキレッキレ!さすが波形モニターメーカー!解っていらっしゃる。
私達はProfileを購入して、ゴルフ中継や野球中継の現場に持ち込みました。