遊女桐花
同じ頃、摂津国の神崎に隆盛を極めた遊女閣があった。その遊郭の人気遊女に桐花という者がいた。
桐花は元は下級貴族の出で、父親の放蕩による没落で借財の形に取られて遊女となったが、その容姿や教養が人気で、豪商や貴族を中心に引き手数多だった。
しかし当の本人は借財の元となった商人や出自を知る貴族との閨を嫌い、敢えて民との交わりを求める、遊女には珍しい女であった。
桐花がのきふさと名乗る男と出会ったのはそんなある夜のことで、一見目立たぬ姿の男が衣を脱ぐと全身鋼のような体に数多の傷があるのを見るや、今まで出会うことの無かった世界への渇望を伴って激しく求める、客と遊女の間を越えた情けを交わすに至った。
のきふさが猪狩りで多少の財を成していた事、桐花が主人の求めに応じず上客を取りたがらない事などから身請け話がすんなり進み、桐花はのきふさの嫁となった。
嫁入りしてしばらくは山間ののきふさの家で暮らしたが、口塞がない村人や、桐花に未練を持った男達が覗き見をする様になり、二人は村を離れ熊野の奥のさらに山奥の谷間に小さな庵を結んで隠れ住んだ。