一般基準 3 正当な注意と懐疑心
監査計画の策定から監査意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在するおそれに常に注意を払わなければならない。
◇正当な注意の行使を確保するための方策
①監査実施者が監査の基準に準拠する。
能力や独立性を保持した監査実施者が、リスク・アプローチに基づいて監査を実施し、適時に監査調書を記録し、意見表明のための基礎に基づいて意見表明する等、正当な注意を具現化した監査の基準に準拠する。
②監査実施者が監査の基準に準拠しているか監視する。
◆職業的専門家としての正当な注意
監査人が職業的専門家として通常払うべき注意、または社会から当然に期待される注意であり、民法上の「善良な管理者の負うべき注意」、あるいはそれよりやや高い程度の注意を意味する。
求められる注意水準は固定的なものではなく、時代や場所により変化する相対的なものである。監査に対する社会的期待の変化や監査技術の進歩等を反映したものになる。
正当な注意は、公認会計士の監査機能に関する社会の期待や監査技法の発展を受けて、一般に公正妥当と認められる監査の基準の改訂に応じて変化するものである。
監査人は、財務諸表の適正性に影響を及ぼすような重要な虚偽表示については、監査の過程においてこれを見逃すことなく監査意見を表明しなければ、正当な注意義務を払ったことにならず、監査責任を問われる。
◆財務諸表利用者が財務諸表監査に期待すること
財務諸表利用者は財務諸表監査に対し、「正当な注意が払われ、財務諸表の重要な虚偽の表示を看過しないように実施され、全体として重要な虚偽の表示が含まれないことについて合理的な保証を得て監査意見が表明されること」を期待している。
監査人が正当な注意義務を行使せずに監査を行い、財務諸表の適正性に影響を及ぼすような重要な虚偽表示を監査の過程において看過して監査意見を表明した場合、/財務諸表利用者の期待に応えていないことになり、監査責任を問われる。
◆正当な注意と職業的懐疑心の関係
職業的懐疑心の保持は、「監査のあらゆる局面で経営者が誠実であるかどうかについて予断をもたず、監査証拠を鵜呑みにせず批判的に評価する」という監査人の姿勢を基礎とする。
監査人が職業的専門家としての正当な注意を払って監査業務を実施する上で懐疑心の保持は不可欠であり、懐疑心は正当な注意の一部を構成するものと考えられる。(2011)
監査人は経営者の誠実性について予断を持ってはならず、質問に対する経営者の回答だけでは十分かつ適切な監査証拠を入手したことにはならない。
■論点整理
二 総論 3 監査の役割 (1)
職業的専門家としての正当な注意を払い、財務諸表の重要な虚偽記載を看過することなく監査を実施することが求められており、このような監査人の責務を強調していくべきである。
三 一般基準 3 監査人の注意義務
重要な虚偽記載が存在する徴候に関して、監査人が適切に対応しなければならないとの趣旨を明らかにするため、/少なくとも、「正当な注意」には職業的懐疑心をもって監査に臨むべきことが含まれることを明確にすることが必要である。
■監査基準の改訂2002
監査人としての責任の遂行の基本は、職業的専門家としての正当な注意を払うことにある。その中で、監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、職業的懐疑心を保持すべきことを特に強調した。
■不正リスク対応基準
一 1
各国において、職業的専門家としての懐疑心の重要性が再認識されている…。
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