『2020年・米朝核戦争 』ひっそりと世に現れていた奇書
発売日は先月5月8日。ひっそりと世に現れていた奇書だ。著者のジェフリー・ルイスは核不拡散と地政学の専門家だという。原題は「米国に対する北朝鮮の核攻撃に関する2020年委員会報告書」つまり2020年に勃発した北朝鮮の核攻撃を3年後に公式報告書にまとめたという体裁をとっているシミュレーション小説だ。
金正恩の核ミサイルで攻撃されたのはソウル、釜山、東京、ニューヨークなどで、合計280万人が死亡したという設定である。軍事小説というよりも政治小説、いや金正恩・文在寅・トランプというおバカトリオ(著者がそう設定しているのだから仕方がない)のドタバタ劇となっている。それぞれの底の浅い思い込みと基本的な能力不足、不毛な政治的ポジションが大惨事を引き起こすというトホホなストーリーである。
でもこのメンバーなら、ことと次第ではありうるなあという、じつになんとも不気味さが残る。小説のなかで北朝鮮が核ミサイルを発射する引き金となったのは、前近代的なレーダーしかもたない北朝鮮軍が、誤って韓国の民間機を撃墜したという設定だ。
文在寅はその事態に直面し、セウォル号事件の朴槿恵のように対応が遅れては自分もヤバくなると判断し、なんでもいいからなんかやると決断する。そこで平壌の金正恩の邸宅を通常弾頭ミサイルで報復攻撃するのだ。もちろん金正恩がいないことを知っていてだ。
避難先の金正恩は携帯電話網が輻輳しているということに気づかず、敵の情報遮断攻撃も始まったと夢想して核ミサイルをバンバン撃つというストーリーだ。まったくアホだがありうる。
そこから引き起こされるトランプ政権内のバカ丸出しのドタバタこそが本書の目玉だ。
とはいえ、2018年までの出来事や発言については、引用付きの事実を元に書かれているので、そこを楽しむつもりで読むと読み応えはある。なかでも笑ったのは過去のトランプの金与正に対するツイートだ。
FOXが米朝協議の決裂を受けて「北朝鮮のイヴァンカか?」というテロップ付きで、金与正が果たした役割を報じたときにトランプは一連のツイートをしていたらしい。
いろんな意味で無茶苦茶でござりまする。
お前は小学生か!
あははは。
冗談抜きに最近の金与正の表舞台への登場は、この一連のツイートがあったからかもしれない。イヴァンカじゃ、ビル爆破できねーだろ、てなものだ。ホントありうると思う。
といういわけで、本書はじつにいろいろ興味深いのだ。ちなみに事後のトランプ後任大統領はマティスになっている。米韓の人物が実名でどんどん登場し、みんなかなりおバカなので(事実そうかもしれない)、やはりトホホなのだけど、日本の総理や官邸官僚は出てこないのでフラストレーションは溜まらないかも。