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実家の片づけシリーズ~祖母のルーペンダント

「ちょっと手伝いに来い」と、実家から呼びつけられた。
 母がサービス付き高齢者住宅に移るので、今住んでいるマンションを引き払う、ついてはモノの処分とその他もろもろの雑事を手伝え、ということだ。

 モノの処分とは言え、もともと私が生まれ育った一軒家は随分前に処分している。その時にかなりのモノを整理して今のマンションに引っ越したのだから、そう多くはないはず……と思ったのが甘かった。

 よくぞここまで、というほどに溢れかえった服と、<コレクション>として集めた陶磁器やらガラス器、さらにはあまり使っていない家電に、健康器具、もらいものと思しき大量のタオル類。趣味の旅行の際に買ったお土産品に旅行用品、撮り溜めた写真……。引き出しを開ければ、アクセサリー(いわゆるコスチュームジュエリーと呼ばれる貴金属としての価値のないもの)と、宝飾品と鑑定書がごっちゃに入り混じっている。

 洋服とアクセサリー類は、クロゼットに収まりきらないため、母の前に全部広げて、ひとつひとつ本人確認を行い、「絶対に必要」判定が出たもの以外は処分、ということになった。

 ざっと並んだアクセサリーは、主に80~90年代アクセサリー流行史を物語るのにぴったりだ。

 しかし何点か、かなり古いものが混じっている。
 祖母の遺品だ。

 そのうちの一つが、写真の「ルーペンダント」。

 ルーペ + ペンダントで、ルーペンダント。
 グラナダ版「アガサ・クリスティーのミス・マープル」で、ジェラルディン・マクイーワンがこんなのを持っていたような。

 近くでよく見ると、結構、細工が細かくて美しい。

 亡くなった祖母がたまに身に着けて姿が頭をよぎる。

 大正生まれの祖母は、漆器の生地職人の家に生まれ、尋常小学校しか出ていないが金を稼ぐ力だけはあった祖父と結婚、戦争中は満州でそこそこ良い暮らしをしていたらしい。
 そんな祖母が身の周りに置くものや身に着けるものは、品のよいデザインのものが多かった。

 母が「不要」判定を下したそれを、私は貰って帰った。

 実家から戻り、一息ついた後、祖母を思い出して、首にかけてみる。

 しかし――。

 祖母が身に着けていたのは、ロングサイズのペンダントだった。確かに、ルーペは胸元に揺れていた。
 が、縦にも横にも体格の良い私が身に着けると、まったく違うものになる。

 これは……アレだ。

 ドッグ・タグ。

 アメリケンでネイビーでクルーカットのガイズが身に着けているアレのサイズ感だ。

 Oh my god!  ペンダント感、ゼロやないか!

 鏡の前で、自分の姿に思わずツッコむ。

 しかも、首にかけたまま使おうとするとチェーンの長さが足りなくて、首がぐんっ!ってなるし。

 あぁ、ルーペンダント。ルーペンダントとして使えないルーペンダント。

 しかし、見た目が美しいので手放すのも惜しく感ぜられ、どうしようかと思い悩んだ末に、結局引き出しに仕舞い込む。
 引き出しの中は、既にほかのモノたちで溢れているのに。

 結局、私も母の血を引いているようだ。

(終わり)


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