はじめては一度だけ〜ナミブ砂漠250kmマラソン完走記その3〜
「マラソンは、準備が大事」
砂漠250kmマラソンも、例にもれずだ。
砂漠を250km走りきるまでには、いくつかのハードルが待ち受けている。
まずひとつめのハードル。
「なにをどう準備すればいいのかわからない」
そう、、、これである。
そもそも砂漠マラソンて、、、なんですか?
250kmを7日間かけて走るってことくらいしか知らん、、、
どこでやるんですか?
サハラってどこですか?
なにをどう準備すればいいんですか?
ていうか僕はホントに申し込んだんですか?
バカなんですか?
いや、、、バカなんですか?
だいたいみんなそうだと思うんだけど、少なくとも僕は、
砂漠250kmマラソンがどんなものなのかよくわからずに申し込んだのだった。
それが確か、レース本番の8ヶ月前くらいだったと思う。
そりゃあもちろんさ、4Desertsのホームページ(英語)を読めば全部書いてあるわけだけども。
英語のサイト読み込んどけや!
という指令は、
英語力マイナス8万2千の僕にとってはベルリンの壁よりも高く分厚いハードルなわけで。
結局、TOEIC920点(※本人より、930点だと訂正が入りました)を誇る友達に翻訳してもらったりしてなんとかしたわけだが。
よし、1つめのハードルクリアだ。
しかし、砂漠マラソンに出場するためには、
その後も侍ハードラー為末大さんがごとく次から次へと跳躍を繰り返しハードルを飛び越えなくてはならない。
そこで、全てのハードルを一挙紹介。
・レース期間の休みを確保(2週間弱)
・エントリーフィーを払う(4200ドル)
・フライトを予約
・現地の空港から集合場所までの移動手段を手配
ここまで大前提。
ここからが本番、、、
・32項目の持参必須アイテム(EQUIPMENT LIST)をすべて用意
↑
まだまだこんなもんじゃない、、、
・必須項目以外にも必要なアイテムが多々あるのでそれも用意
・医師の署名入りの砂漠マラソン参加許可書を用意
・英語でいろいろなエントリー時アンケートみたいなのに答える
ここまで事務的なヤツ。
さらに、、、
・砂漠用のシューズを用意
・シューズに砂が入らないようにするための特殊な加工をする(素人じゃムリ)
・すべての上着の両袖に国旗と4Desertsロゴのワッペンを縫い付ける(ダウンジャケットも)
・食料が14000kcal以上に達しているかどうかを計算して1日分ごとにパッキング
・食料を試食してベストを選ぶ
・ウエアやシューズやバッグなども同様に試してベストな組み合わせにしていく。
・練習する(12kg背負って走る)
・練習する(12kg背負って仕事の打ち合わせに行く)
・練習する(12kg背負って高尾山登る)
・練習する練習する練習する
・集合場所に無事たどり着く(複数の乗り継ぎフライトを制覇せよ)
砂漠マラソンに出場して無事完走するには、
ざっくりこんなハードルをクリアする必要があるのだ。
そもそも休みを2週間弱とるという時点で難易度レベル45だが、
その後の容赦なきコンボにより、
経験値0の僕はもはやレース前にリタイア寸前である。
ただし、もちろん初参加仲間は全員同じ。
これは全員が通る道なのだ。
僕は幸運にも、砂漠マラソン大先輩方の集いに参加させていただいたり、
初参加仲間数人と砂漠会議を開いたりして装備の情報交換ができたりしたので少し気をラクにすることができた。
そして、大先輩の話を聞くことで臨場感が増し、いよいよ砂漠が楽しみになってきた。
↑
グランドスラム(4大砂漠制覇)を成し遂げた砂漠大先輩の完走メダル。すごい!
人生初の、砂漠マラソン。
人生初の、7日間250kmレース。
人生初の、アフリカ大陸。
僕はことあるごとにこんな風に思う。
はじめては、一度だけ。
これは言われてみれば当たり前すぎる話だが、
意識していないと日常的には欠落しがちな感覚ではないだろうか。
はじめては怖いし、不安だし、わけがわからない。そして大抵が上手くいかない。
でも、その「はじめて」は、この人生でもう二度とない。
絶対に、ない。
はじめては、一度だけ。
だから怖くて不安でわけがわからず上手くいきそうもないけれど、
最高の「はじめて」にしたいじゃないか。
じつは当時は起業と第一子誕生というイベントが重なり休みなく必死な毎日を過ごしていたが(今もそう変わらない)、
そんな想いを込めて何とかして準備と練習を進めていた。
それが2014年秋のことである。
え?
2014年?
そう、僕が当初エントリーしたのは、じつは2015年のサハラレースだった。そしてそのために最高の準備を積んでいた。
当時はまだサブスリーに準じた走力を維持していたので、あわよくば上位入賞も狙うなどと身の程知らずの発言をしていたほどだ。
そして2015年のサハラレース開催中止のメールが来たのは、開催予定日の約3週間前のことだった。
数多くのハードルを必死になって飛び越え、モチベーションを最高潮に上げきった僕は、最後のハードル=無事集合場所にたどり着く。を越えることができなかった。
この世界には自分ではコントロールできない物事が存在し、この世界のほとんどがそれらで構成されているというわけである。
僕は、砂漠マラソンに出場することができなくなったのだ。
それはつまるところ、
人生はじめての彼女とのクリスマスイブデートの約束が当日ドタキャンされたに勝るとも劣らないインパクトを僕に残していった。
聖なる夜にプレゼントとアレを用意し店を予約、息巻いてお洒落カマしていた男が急遽ひとりぼっちイブ確定となった瞬間を想像してほしい。
当然、埋め合わせ予定もなければ僕らの輝かしい未来もない。
あなたが僕と同じようにモテないダメ男かどうかはさておき、2015年当時の僕の傷心具合が5%は伝わっていることを願うばかりだ。
砂漠の教訓その3
一度だけのはじめてを、迎えられないひともいる。