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『複業を語る』その6:どんなリスクがあるの?

さて、企業内診断士の副業・複業の実態について語る、シリーズ『複業を語る』。今回も副業・複業の実態を赤裸々に語っていきたいと思います。

ここまでは、副業・複業の良い面ばかりを語ってきましたが、今回は「どんなリスクがあるのか」という話に触れたいと思います。

1)競業避止義務違反
労働契約法は第3条第4項で、「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない」と定めています。この規定により、我々従業員は「所属する企業との競業行為を避ける義務」があると解釈されています。

これを「競業避止義務」と言います。

例えば、僕はITベンダで働いているわけですが、同じようなソフトウェアの開発会社を副業として設立し、中小企業をお客様としてIT導入を推進したりすると、「所属会社との競業行為」にあたるとして、この競業避止義務に違反しているとみなされる可能性があります。

さすがにここまで極端なことをやる方は、そうたくさんはいないでしょう。

ただ、「この所属する企業との競業行為」という観点をもうちょっと広げて考えると、また、事情も変わってくるのかなと思います。

所属会社の勤務によって得たITのノウハウを活用して、企業を対象にしたIT導入の支援セミナーを開催して売上を上げ、その結果、(間接的に)所属会社の売上を減らしたと見なされれば、競業避止義務に違反していると判断されても、おかしくはありません。所属会社での経験を活かして同業他社の経営支援を行い、その企業が成長をし、その結果、IT産業における所属会社の成長を、(間接的に)妨げたと見なされれば、競業避止義務に違反していると見られる可能性はゼロではありません。

「所属会社で得た知識やノウハウを活かして・・・・・」とは、一見効率のいい副業・複業ですが、「所属会社との競業行為になっていないか」常にチェックする必要があるると思います。

2)契約範囲
中小企業さん相手の仕事ですと、どこからどこまでがお仕事の範囲なのか、明確でない事例に出くわすことがよくあります。そもそも、お金になるかわからないけど、とりあえず始めてみようか、的に仕事をはじめ、なんとなく軌道に乗ってきたものの、今更、お金くださいとはいいにくいな~なんて経験は、皆さんもあるのではないでしょうか?

例えば、ここ数年増え続けている「補助金の取得を支援する」お仕事、皆さんも一度はやったことがあるのではないでしょうか?

実は、補助金を取得するまでにはおよそ三つの段階があります。

そして、どの段階においてもそれなりの作業量はあって、中小企業さんであれば、それなりの支援が必要です。

1)申請採択(申請内容が補助金の審査要件を満たしたという通知)
2)交付決定(申請に基づく具体的な交付額の決定)
3)確定検査(実績に基づく交付額の最終決定と支払い)

よくあるのが、「作業は、1)までだと思っていたら、2)までだった。」、「2)で終わりだと思っていたら、支払いは3)の後だった」、なんてやつですね。

中小企業相手だと明確な契約を交わして始める方がまれなケースと思います。できれば、メールでも構わないので文書にして、そして事後でも作業項目と作業範囲は確認しておくのが望ましいですね。

3)訴訟
通常、何らかの組織に所属している我々は、例えば、ちょっとやらかしても、その組織が守ってくれます。多少やらかしても上司が、一緒に「ごめんなさい」と言いに行ってくれます。最悪、訴訟リスクは組織が引き受けてくれます。よほどのことでない限り。

ん??守ってくれそうにない??それは、別の意味で、いろいろ見直した方がいいかもしれませんね・・・・(笑)

もちろん、そう簡単に訴訟に発展するわけはないのですが、絶対大丈夫とは言い切れないのが、この社会。

例えば補助金関係で、支援先の決算書類を受け取り、電車の中にうっかり忘れたために情報漏洩で訴えられても、誰も助けてはくれません。支援先の支援がうまく行かなくて、先方のビジネスがとん挫し、機会損失で訴訟に発展しても、一人で法廷に行かなければいけません。

最近は、そんな事態に備えて、こんな保険も用意されているようです。

【中小企業診断士賠償責任保険】

お世話にならないことを祈りつつ、転ばぬ先の杖、ということで備えておくことも、必要かもしれません。

今回は、副業・複業をするのにちょっとネガティブなお話をさせてもらいました。もちろんリスクがあるから、「副業・複業をやるのを辞めましょう」というつもりはありません。リスクを理解しつつ、適切な対応をとって、楽しく副業・複業にトライできたらと思います。


ITベンダに勤務する、中小企業診断士です。得意のITを活かしつつ、常に楽しく前向きに、中小企業の方々と一緒にいろいろ考えていきたいと思っています。