How I manage a patient with MRSA bacteremia
Joshua S. Davis, Neta Petersiel, Steven Y.C. Tong
(Clin Microbiol Infect 2022;28:190)
MRSA菌血症の治療に関するnarrative reviewです.
MSSA感染症の治療では積極的な感染巣のコントロールと適切な抗菌薬選択と投与期間の設定が大きな原則ですが、その病像は症例ごとに異なるため、アルゴリズムではなく症例に合わせたアプローチが必要です.
治療の科学的根拠を強固なものにするためにさらなるRCTが必要です.
このreviewでは、リアルワールドでのMRSA菌血症の症例を提示し、重要な治療な決定を下す上での著者らの思考プロセスを論じています.
以下のような症例に対しどのように治療を行うか、根拠とともに著者の考えを述べています.
臨床経過
57歳の無職の男性が3日前からの発熱と右足関節の腫脹を訴え救急外来を受診した
男性は無職で、長くアルコールを多飲している
最近手術を受けたり、外傷を負ったりしていない
受診時、体温 40.1度、血圧 85/50mmHg、脈拍 120回/分(sinus rhythm)
右足関節は腫脹、熱感、圧痛を認めた、心音は異常がなかった
血液検査:クレアチニンは正常で、血小板減少(95/μl)、肝酵素上昇(AST=120IU/mL、ALT=70IU/mL)を認めた、ビリルビンとプロトロンビン時間は正常、CRPは360mg/L
足関節の穿刺で明らかな膿を認めた
膿のグラム染色では多数の塊状になったグラム陽性球菌を認めた
その後最初に採取された血液培養検査が陽性となり、塊状になったグラム陽性球菌を認めた
【黄色ブドウ球菌が疑われる場合の初期治療】
患者の状態は敗血症性ショックであり、黄色ブドウ球菌の関与が疑われる(確定はしていないが).
MSSAとともにMRSAの治療が必要である.よってバンコマイシンとフルオキサシリン(欧米と豪州で使用されるブドウ球菌治療のためのペニシリン系抗菌薬)を使用する.
初期治療でMRSAをカバーするかどうかは、「その地域で黄色ブドウ球菌菌血症全体(MSSA +MRSA)に占めるMRSAの割合」と感染症が重篤かどうかで決める.つまり、1. MRSAの割合が25%より多い場合(非重篤と重篤な患者全てに対して)、2. 10%より多い場合(敗血症や重症感染症の患者の場合は)、MRSAをカバーするとしている.
※この治療の閾値は、「著者らの考えに基づく(arbitrary)」とされている
我々のアプローチは原因微生物が特定されるまで、バンコマイシンとブドウ球菌治療のためのペニシリン系抗菌薬を併用しMSSAとMRSAをカバーするが、その後は抗菌薬の毒性を防ぐために直接的な治療(directed therapy)を行うことが重要である.
CAMERA2 trialではバンコマイシンとフルオキサシリンの併用により(3-5日の治療後に)腎障害の出現が多かった.
CAMERA2 trialでは約10%の患者にバンコマイシンとセファゾリンが投与され、この併用群で腎障害の増加は示されなかった(バンコマイシンとセファゾリンの併用治療は現在大規模RCTで検証されている).
MSSAはinoculum effectによりセファゾリンへの感受性が低下する可能性が指摘されているため、ブドウ球菌治療用ペニシリンはMSSA菌血症の治療においてセファゾリンより好ましいとされる薬剤である:しかしながらこれは今なお議論されている話題であり、現在進行中のRCTで検証されている(SNAP trial and CLOCEBA).
○ 臨床経過 Day 2
血液培養でMRSAが同定された.オキサシリンに耐性であったが、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ゲンタマイシン、ST合剤に感受性が保たれていた(non-multiresistant MRSA).
【MRSA菌血症に対する直接的抗菌薬治療】
著者らは、MRSA菌血症(MRSAB)に対して、患者の実体重を元にして25-30mg/kgの初期用量のバンコマイシンを開始することを提案する.
バンコマイシンは、投与に関する副次反応のリスクを最小限にするために、60分以上かけて、あるいは10-15mg/min(1000mgにつき1時間以上かけて)の速度で投与する.
バンコマイシンはヨーロッパのガイドラインではMRSABの第一選択薬であるが、米国のガイドラインではダプトマイシンも同様に第一選択薬となっている.
バンコマイシンはMSSA菌血症の治療ではバンコマイシンに劣り、組織移行が悪く、腎毒性のリスクがある.
MRSA菌血症の治療薬は、ダプトマイシン、リネゾリド、セフタロリンなどがあるが、いずれもRCTでバンコマイシンに勝る結果は示されていない.
ダプトマイシン(6mg/kg)はRCTでバンコマイシンに非劣性であったが、この研究ではMRSABの患者は64名しか含まれておらず、ダプトマイシンで治療失敗に至った患者の約1/3から分離された細菌は、ダプトマイシンの感受性が低下していた.
セフタロリンは魅力的な代替薬であるが、RCTはない.観察データでは、MRSAによる感染性心内膜炎の30%、菌血症を伴う肺炎の28%で、セフタロリンで治療した場合に治療失敗に至った.
黄色ブドウ球菌菌血症におけるセフトビプロール(MRSA活性を有する他のセファロスポリン)とダプトマイシンの効果を比較したRCTが進行中である(NCT03138733).
ST合剤は(菌血症を含む)重症のMRSA感染症の治療においてバンコマイシンに非劣性が示されなかった.
ダルババンシンとオリタバンシンはMRSAに活性を示す新しいlipoglycopeptideで半減期が非常に長く、週1回かそれ以下の間隔で投与できる.しかし非常に高価であり、MRSABの治療効果に関するデータは限られる.現在黄色ブドウ球菌菌血症に対するダルババンシンの効果を評価するRCTが進行中である(NCT04775953).
これらのデータを踏まえ、豊富な使用経験があり、代替薬と比較して低コストであるバンコマイシンがMRSABの標準治療薬としての座を奪われることは現時点ではない.
【どのようにバンコマイシンの量をモニターし調整するか】
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