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「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題するアイデアに関して…①

 先日、内閣府が全職員を対象に「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」を実施し、その中で「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする。」と題する応募アイデアが「優勝アイデア」として大臣から表彰されました。

全国社会保険労務士連合会は、中小企業の労務管理の実態 に即した適切な相談指導を行ってきた観点から、当該アイデアについては、労働時間及び社会保険料の捉え方に問題があるとして声明を出しました。

https://bit.ly/46S8jFa

このテーマについて労務と税務の観点からお話ししたいと思います。

1.労務の観点から

(1)問題のアイデアについて

そもそもこのコンテストは今年の春闘で高い賃上げ率が示された中、「賃金上昇が当たり前」となる社会の実現を目指し、賃上げを幅広く実現するための政策アイディアを募集するコンテストを開催しました。

このアイデアで主張されているのは下記のとおり。

  • 労働者に終業時刻以降の残業を禁止するとともに、労働者は終業時刻以降に個人事業主として残業相当分の業務を受託する。

  • 企業は社会保険料や残業代支払いのコストを削減できる。

  • 労働者は終業時刻以降の業務について社会保険料及び所得税の控除を免れることとなることから手取りの増加につながる。

企業側は残業代や社会保険料の支払いを減らせる一方、社員も社会保険料や所得税の支払いが減り、収入増加につながるというものです。

(2)労務上の問題点はなにか

問題点の1つ目。
労働者が使用者の指揮命令下で働き、勤務時間内に業務が完了せずに発生した時間外労働を、「労働契約に基づく労働」と「業務委託契約に基づく業務」として時間で切り分ける行為は、労働基準法が定める割増賃金の支払い義務を回避するための手段と見なされ、法の趣旨に反するものと考えられます。

問題点の2つ目。
事業主が社会保険料を「コスト」と捉え、その負担を回避するため、または労働者が手取りの給与額を増やす目的で業務委託契約を用い、社会保険の適用から除外しようとする行為は、制度の趣旨に反するものです。

冒頭の全国社会保険労務士会連合会の声明の最後には「当会としては当該アイデアについては、以上に指摘した重大な問題 が存するものと考えるところであり、国民の誤認を招くことのないよう、相当の配慮 がなされるべきと考える」としております。

今回のアイデアについては「問題があると捉えられるので、企業側および労働者側に誤解を与えないように対応してくださいね」という感じでしょうか。

今回は労務の観点からのお話をいたしましたが、次回は税務の観点からお話しをしたいと思います。




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