手紙
備前の独白。
―――― 懐かしいものを見つけたな。
そうして備前友春は、 手の中にあるぼろぼろの封筒から手紙を一通取り出した。
それは少々歪んだ筆跡で、所々滲んでいる。
インクは掠れ、紙は劣化しているが……それだけだ。
ここに込められた想いは、きちんと生きている。
少なくとも備前にはそう感じられていた。
差出人は、自身の兄である。
光一を預け行方を眩ました彼が、果たして今も生きているのかどうか、備前には知る由も無い。
ただ、手紙の中で彼は自身の息子を預けるほど信頼に足る人物は弟である友春だけであること。
もう二度と、会うことは出来ない事。
どうか、お前たちだけは幸せにと、願ってやまない事が書いてある。
其処に「何故」や「どうして」が滑り込む余地は無い。
最後に書かれた「もう自分は死んだものとしてくれ」と言う一文に、堪らなく腹が立った。
両親が不遇の死を遂げ、奇異の目で見られ、追いかけ回されていた時、兄の存在を近くに感じて居たかったのに、と悔しく思った事も有った。
だがそれも、もう昔の事である。
ふと、視線を反らし卓上を見遣る。
僅かばかりに飾られた写真の中に、遠い昔に撮影した家族写真と、光一が成人した時に二人で撮った写真がある。
「どうだ、兄さん。光一は立派に成長したぞ。自分の夢を叶え、歩んでいる」
少し誇らしげな気持ちは、叔父としてではなく、父としての気持ちに近いなと笑って、備前は手紙をまた仕舞い込んだ。
机の引き出しにそっと入れ、それから溜息を吐いた。
「……当時は調査も出来なかったが。いい加減に調べてみようか。もう俺が居なくても光一は一人で生きて行けるしな」
調査と言っても何処から手を付けて良い物か分からないが、それでも。
あの時の兄の足取りを追ってみるの良いかも知れないと、そんな事を考えていた。
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