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「処暑」の風が運ぶ、ひと夏の思い出



処暑とは何か?

日本には季節の移り変わりを繊細に感じ取る文化があり、その象徴ともいえるのが「二十四節気」です。
その中でも「処暑(しょしょ)」は、夏が終わり、秋の訪れを感じさせる時期を指します。

処暑は8月22日頃にあたり、厳しい暑さが少しずつ和らぎ、朝夕にひんやりとした風を感じるようになる季節です。
まるで、夏の終わりを告げるかのように静かに吹く風が、私たちに夏の思い出とともに、これから迎える秋の準備を促してくれます。

夏休みの終わりと切ない気持ち

子供の頃、夏休みが終わる頃に感じた「あの切なさ」を覚えていますか?
宿題が終わっていない焦りや、楽しかった夏休みが終わってしまう寂しさ。そんな複雑な感情が入り混じる季節、それが処暑です。
しかし、処暑の風はどこか優しく、そんな気持ちをふんわりと包み込んでくれるのです。

祖父母の家で迎える処暑

私の祖父母の家は田舎にあり、夏休みになると家族で毎年訪れていました。祖父母の家には広い縁側があり、そこに座って庭を眺めるのが、家族の毎年の楽しみでした。
特に、処暑の時期に吹く風は心地よく、家族みんなで縁側に集まり、夕涼みを楽しんだものです。

祖母はいつも、夕方になると自家製の麦茶を用意してくれました。
ひんやりと冷えた麦茶は、どんな高級な飲み物よりも美味しく感じられ、それを飲みながら、今日の出来事や思い出話に花を咲かせたものです。

処暑の庭仕事と祖父の教え

処暑の頃になると、祖父が庭の手入れを始めるのも恒例でした。
祖父は庭の木々や草花を丁寧に整えながら、
「この時期はね、夏の疲れを取って、秋に備えるんだよ」
と教えてくれました。

祖父の手は、長年の農作業で少しごつごつしていましたが、触れる植物たちはどれも優しく、まるで一つ一つを大切に愛でているかのようでした。
その光景は、今でも私の心に残る温かな思い出です。

夏の終わりを迎える心の準備

ある年、私は祖父に手伝いを頼まれ、庭の掃除をすることになりました。
祖父の指導のもと、箒で落ち葉を集めたり、雑草を抜いたりしました。

最初は退屈に感じていた作業も、祖父の穏やかな声や処暑の風の心地よさに包まれて、次第に楽しく感じられるようになりました。
ふとした瞬間、祖父が
「こうやって夏を見送ることで、秋が気持ちよく迎えられるんだよ」
と言った言葉が、今でも忘れられません。

夏の終わりをきちんと感じることが、次の季節を大切に迎える準備になると教えてくれたのです。

処暑がもたらす温かな風景

夕方になると、庭には風鈴の音が響き始めました。
その音色は、夏の名残を感じさせるものであり、同時に秋の訪れを告げるものでした。

祖母が麦茶と一緒に出してくれたスイカを頬張りながら、私は
「また来年もこうして過ごせるといいな」
と心の中でつぶやいたものです。

処暑の風は、ただ暑さが和らぐだけではなく、私たちに大切なことを教えてくれる存在です。
季節の移り変わりを感じながら、過ぎ去った夏の思い出を振り返り、そしてこれから訪れる秋に心を向ける。
この静かな時間こそが、私たちにとっての癒しであり、未来への希望をつなぐ瞬間なのです。

あれから年月が経ち、祖父母の家に行く機会は少なくなりましたが、処暑の頃になると、ふとあの時の風を思い出します。

そして、同じように麦茶を飲みながら、家族と過ごしたひと夏の思い出に浸るのです。

夏の終わりに感じる少しの寂しさと、次の季節への期待。
それが、処暑という季節のもたらす温かな風景です。

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