新型コロナの時代に想うこと(6)・・・東京マラソンと東京オリンピックはどうなるの?

東京マラソンは?

少し時期が戻るが、1月末に武漢からの帰国者や感染者の話題が盛り上がっていた頃、周囲からは「東京マラソンはどうなりますか?」という質問が向けられたことがあった。職場では一応私はマラソンランナーと認識されており、2019年の東京マラソンでは日本記録保持者の大迫選手にも勝っていたので(ただ大迫選手はリタイアして私が完走しただけですが😅)。今年の東京マラソンはMarathon Grand Championshipで決着の着かなかった男子3人目の代表が決定する高速レースが予想されており、もし開催されないとすると代表選考では物議を醸すだろうな、と思った。しかし、状況を直視するならば3万5千人のランナーが走るマラソン大会は感染対策としては最悪である。その時点では「三密」なんて言葉はなかったし、正直どのような状況で新型コロナウイルスが感染するのかについての情報はなく、何となく飛沫感染が起こるらしいということしかわからなかった。それでも東京マラソンの場合スタート前に確実に他人と体を接するような状況が発生するし、走っている最中にも他人の汗や呼気、更には唾などに接することも十分想定できた。エイドステーションやゴール後のメダル・タオル配布のボランティアの確実に我々の飛沫を浴びる環境にあると思う。さらに、完走後のマラソンランナーはほぼ免疫力ゼロの状態といえる。そういったことを知っている者からすると、1月末の段階の知識でも市民マラソンとしての東京マラソンを開催するのは正気の沙汰ではない、と感じた。したがって、私の予想としては東京マラソンはエリート向けのレースのみ開催し、市民部門は中止とするしか選択肢はないように思った。実際の経緯も、最初は中国人のみ参加自粛要請をしていたが、結局市民部門の中止で落ち着いた。そして大迫選手・井上選手が素晴らしいレースを見せてくれたのはご存知の通りである。

東京オリンピックは?

では、東京オリンピックはどうだろうか。東京マラソンは今年は抽選に外れていたので個人的な利害はなかったが、東京オリンピックはいくつかの競技で観戦券が当たっていたので、できればやってほしいと思った。しかし、中国での感染拡大、さらに日本国内、特に北海道での感染者の発生を見ていくとプランBが必要だと感じた。ここで気になったのは、ほとんどの議論が日本における感染の話にとどまっていたことである。単にライブが行われるとか、あるいはラグビーWorld Cupのような代表チームが訪問して戦うというだけでなく、各国からオリンピック選手が様々な競技で参加するのだから、彼らの自国での活動も考えなければならない。したがって仮に感染が拡大した場合には、日本はうまく抑え込むことができたとしても、世界の他の国の状況次第となることは明らかであり、それは日本がどうこうできるものではない。東日本大震災の時に「日本は危険」という風潮があったのとは状況が全く異なることはほとんど議論されていなかったと思う。典型的には、2月の後半には「ロンドンで代わりにオリンピックをやってあげても良いよ」というロンドン市長の発言が報じられたが、全く想像力の足りない笑い話だと思った。いろいろな状況を総合すると、東京オリンピックについては即刻中止決定という選択肢がないのであれば、1ー2年延期するというオプションしかないように思えた。(ワイドショーではオリンピアの歴史から延期はあり得ないということを声高に叫んでいる専門家が居たが、既に冬季オリンピックは4年周期から外れているのだし、延期後は登場しなくなったので何だったのだろう。)

結局、東京マラソンについては市民部門中止でエリートによる選考レース実施、東京オリンピックについては1−2年延期、というのが2月初旬時点での最初の質問に対する私の答えだった。これに対し、周囲の質問者からは「えーっ、そんなこと言わないでください。縁起でもない。」というリアクションが返ってきた。「じゃあ聞かないでよ」と思うのだが、日本では口に出してしまうと実現してしまう、という言霊信仰があるのだろう。みんな薄々感じているのにそうなって欲しくない、という願望も込めて議論の俎上に上げてこない。そしてそれがあるところからは考慮する選択肢から排除されてしまう。言い換えれば想像力に限界を設ける結果となる。新型コロナウイルス対応のような、未曾有の状況においてはこのような対応は好ましくないと思う。実際には門外漢の私よりも先にオリンピックの関係者は様々な可能性を模索されていただろうし、実際に延期の決定に時間が掛かったのはIOCとの交渉や、世論形成、様々な要素を踏まえて森会長や小池都知事が立ち回っておられたのだろうと思う。この問題は思ったより少し時間が掛かったが、妥当な判断に落ち着いたと思う。

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