現代アートコレクター山田裕さん②
現代アートのコレクターであり、「小説の神様」と呼ばれる志賀直哉のお孫さんでもある山田裕さんの収集生活や思い入れのある作品、祖父である志賀との思い出話などについてご紹介するこの連載。
第二回目は、山田さんが感じる現代アートの魅力やアーティストとの交流、最近ハマっている作品、無料で楽しめる都内おすすめアートスポットなどについてご紹介します!
山田さんが感じる、現代アートの魅力とは?
マキ 山田さんは、都内の利便性の良いところに住まわれていて、アートに関するいろいろな刺激を受ける機会も多いと思いのではないでしょうか。
山田 そうですね。都内開催の気になった展覧会やイベントには出掛けるようにしています。
マキ ご自身が感じる現代アートの魅力とはどんなところなのでしょうか。
山田 現代アートの魅力は、それを作った作家ご本人と会って、話が聞ける点だと思います。目の前の作品が生まれた背景とか、作品作りに込められた思いなどを聞くことで、作品の魅力がより高まりますよね。
マキ 最近お会いできたアーティストさんをご紹介いただけますか?
山田 はい。こちらは友沢こたおさんです。彼女は自分の顔など有機的なモチーフにスライム状の液体をかけて写真に撮り、それを描くアーティストです。
山田 次はロッカクアヤコさん。手で直接キャンバスや段ボールに絵を描く独特のスタイルで、カラフルな作品やライブペインティングが注目されています。2022年にはイギリス・ロンドンでのライブペインティングき下ろした作品のエディション作品を、ライブペインティング開始から24時間限定で販売しました。
山田 萩原亜美さんの作品です。 萩原さんはアメリカの60年代〜70年代のロードムービーの雰囲気を感じる 作品を描かれている方です。1枚の絵に映画のコマ割りやストーリーボード のように表現するのも彼女の作風です。
マキ アーティストの方々とのプライベートな交流もあるそうですね。
山田 ユカリアート所属のアーティストさんとは特に親しくさせていただいています。その1人、いしかわかずはるさんは毛糸で作る絵で知られていますが、彼は僕の還暦祝いに似顔絵を絹糸で作ってくれたんです。
山田 同じくユカリアートのメンバーで、様々な光を色彩でリアルに表現し、何気ない風景を映画のひとコマのように描く画家、大畑伸太郎さんや、ガラス繊維強化プラスチックにウレタン塗装を施したはりこ風の作品が注目されている吉田朗さんとも親しくさせていただいています。吉田さんと大畑さんはこのあいだうちにも遊びに来てくれました。
都内には無料でアートを楽しめる場所がいっぱい
マキ アートに触れるには、都内の展覧会やアートフェアなど有料のものもありますが、無料で楽しめるアートスポットもたくさんあるのだそうですね。
山田 ええ。たとえば大手企業などではメセナ(社会貢献の一環として文化・芸術に支出する活動)のためにギャラリーを無料で開放しています。表参道のルイヴィトンやプラダ、銀座のグッチ、シャネル、エルメスにもギャラリーがありますよ。
銀座には、大日本印刷のDNP文化振興財団が運営しているグラフィックデザイン専門のggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)や、資生堂が運営している資生堂ギャラリーがあります。
渋谷のヒカリエ8階のD&DEPARTMENTは47都道府県とロングライフをテーマにしたオープンギャラリーもあり、いずれも無料で素晴らしい展示が楽しめます。
あとGINZA SIXの蔦屋書店では新人のアーティストを多様な形で紹介しています。
表参道のワコールが運営するスパイラル1階のスパイラルカフェを取り囲むようにアートスペース Spiral Gardenがあって、毎回面白い展示をやっているので、スパイラルカフェでのランチがてらそこもよく見ますね。2階のSpiral Marketも楽しいですよ。
それと骨董通りのビリケン商会は、フィギュアを製造販売している小さなお店なんですが、奥がギャラリーになっていて、そこで結構オタクな展示をやっています。オーナーの三原宏元さんと親しくしていることもあって、毎回見に行っていますね。
マキ 買い物や用事のついでや、仕事帰りなどにフラッとアートに触れられるのは嬉しいですね。
山田 無料でアートと言えば‥これも見てください! シャネルの香水「No.5」の、香りを嗅ぐためにもらう紙ムエットが家に4枚あって、かっこよかったので自分で額装したものなんです。
マキ 素敵な作品! 無料でもらった紙も、センスと工夫でこんなふうにできるんですね。この連載の初回でもご紹介しましたが、山田さんは絵もお上手なんですよね。
山田 会社に入社して7年目くらいの時に、休みの日や夜に細密画を描くのが楽しみでした。ケロッグに旧友がいて、パンフレット用に商品イメージのイラストを描いたこともあるんです。金額は大したことなかったけど、初依頼だったし、描いた絵をいろんな人に見てもらえたのは嬉しかったですね。
日用品も厳選し、暮らしにアートを組み込む
マキ アートを観て、集めて、制作もしている山田さんですが、さらにアートを日常使いすることも楽しんでおられます。たとえば山田さんのお宅にお邪魔すると、いろいろなアンティックグラスから好きなものを選ばせてもらって飲み物をいただけますね。
山田 最近こうして取材を受けたり、来客も多くなり、おもてなしを色々と研究しているところなんです(笑)。
マキ 普段使いの食器などもおしゃれですし、お部屋はもちろん、洗面所やトイレに至るまでアート作品がたくさん飾られています。
山田 気持ちのいいものに囲まれて生活したいので、なるべくアーティスティックなものを選んでいます。それにプロダクトデザインも重要視しています。とはいえもちろん日用品は機能が優先。無印良品とかDAISOで買うことだってありますよ。
ちなみに洗面所のアヒルはオランダーのアーティスト、フロレンティン・ホフマンの代表作『ラバーダック』のミニチュア版です。
フロレンティン・ホフマンは、おもちゃや日用品を巨大な作品に改造する作風で知られていますが、ラバーダックはお風呂に浮かべるあのアヒルをモチーフに、公共の河川や海などの水辺をバスタブに見立てたパブリックアートです。
35年以上前から愛用しているマリスカルデザイン
山田 食器で言うと、こちらのお皿やティーカップは、バルセロナのマリスカルというデザイナーのものです。マリスカルは1992年のバルセロナオリンピックのキャラクターCOBIや犬のキャラクターJulianで知られています。
山田 ちなみにマリスカル作品はバッグから入ったんです。
松屋銀座でバッグが展示されているのを、デザイナーでバッグ好きの友人が、「山田さん好きそうなの売ってるよ」と教えてくれて、見に行って一目惚れ。調べたらマリスカルのデザインだとわかって、それから興味を持ちました。
マキ 旅先で、COBIとの思わぬ出会いもあったとか。
山田 そうそう。ずいぶん前の話ですけれど、名古屋の大須の繁華街に行ったとき、古着屋さんに入ったら、金属製のCOBIの人形が置いてあったんです。価値を知らないフリして、お店の人に「この人形面白いねーいくらですか」と尋ねたら、「800円くらい?」と適当に言われて(笑)。一万円くらいはするかと思ったけど、かなりお得に買えました。重かったけど、買って持って帰りました。
山田 ちなみにルイ・ヴィトンでは世界中アーティストたちが国や都市をテーマにイラストを描いた「トラベルブック」もリリースしているんですが、ロサンジェルスバージョンはマリスカルが絵を描いています。
マキ 山田さんのように、好きなもののことを周囲に話したり、アンテナを常に立てていると、作品に関して周りの方から情報をもらえたり、旅先で偶然の出会いに恵まれたりするんだなーと思いました。
今回もありがとうございました!
山田 ありがとうございました。
※山田さんのプロフィールや活動についてはこちらの動画でも詳しく解説されています。気になる方はぜひ!
「稲村雑談 特別版 ②華麗なる一族!!山田家とは?!」
・山田裕(やまだゆう)さんプロフィール:1951年東京都杉並区生まれ、自由が丘在住。母方の祖父は志賀直哉、父方の祖父は大久保利通の甥で鉱山学者の山田直矢。学習院大学理学部物理学科卒業。総合エンジニアリング会社日揮を経て、日揮・実吉奨学会を退職後、志賀直哉についての発信をしながら、現代アートを収集。志賀ゆかりの地である千葉県我孫子市の白樺文学館に遺品を寄贈している。
・志賀直哉と「我孫子白樺派」について:明治末期から大正時代、志賀直哉、柳宗悦、武者小路実篤が中心となった白樺派の文人たちは、機関雑誌『白樺』を創刊し、国内外の文学・美術・音楽等を発信。特に彼らが印象派を国内に紹介したことは、日本人が芸術というものをより身近に感じられる大きなきっかけとなった。我孫子では、彼らが新婚から子育ての時期を暮らしたことで、この地に「文化」を語り合う空間が創造された。
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