見出し画像

「心で向き合うおもてなし」 創業300年の歴史ある旅館を営む 熊本・黒川温泉旅館「御客屋」女将 橋本栄子さん

10年ほど前に旅行情報誌の編集者から女将に転身し、当時インターネットの口コミ評価が26件中、下から2、3番目だったという旅館「御客屋」を生まれ変わらせた、女将 橋本さん。今や「御客屋」の口コミ評価は5つ星が並び、その細やかで心のこもったおもてなしに、リピーターが後を絶たないそうです。今日は、そんな橋本さんにお話を伺いました。

◼︎プロフィール

出身地:熊本県経歴:OL、公務員、銀行、情報誌会社、企画会社勤務など経て、平成19年に、黒川温泉の老舗旅館「御客屋」へ、外部より女将として入社座右の銘:初心を忘れるべからず

「私が笑っていれば、みんなも笑っている。自分から変わることが、変化の第一歩」

記者:橋本さんはどうして今のお仕事をしようと思われたのですか?また、老舗旅館の女将への転身に不安などはなかったですか?

橋本:実はもともと祖母がこの近くの杖立温泉で旅館をやっていて、小さい頃からスリッパを並べたり、お客様をお見送りしたりしていたんです。その時から相手の心を察するのが、私の得意分野だったんですね。

勉強には興味ないけど、お客さんを喜ばせることには興味があった(笑)。だから転身のお話は、やりたかったことがここにあった!という感じでしたね。

それに「御客屋」は、血のつながりはなくても、「ここで働く人はみんな御客屋家族だ」という文化があって。大女将も「御客屋の神様があんたを呼んどるけん。あんたは娘やけん。」とあったかく受け入れてくれました。

記者:御客屋家族、素敵ですね。女将になってからは、どんな取り組みをされたんでしょうか?

橋本:はい、全てを「お客様第一」に切り替えました。化学調味料は一切使わず、清掃も隅々までしっかりと手を抜かない。お祝いで訪れたお客様には、手づくりのケーキやアコーディオンの演奏も用意しました。皆さん特別な思いで来て下さっているから、感動を届けたいって思ったんです。そのおもてなしこそが私たちの仕事じゃないか、と。でも、スタッフに「忙しい時に、なんでわざわざそんなことをするんですか?」と言われることもあったり、浸透させるのにはとても時間がかかりましたね。

記者:思った通りにはいかないことも多々あったんですね。

橋本:はい、特にスタッフが20代〜70代と幅広い年代で、価値観の違いもあるので、皆で同じ方向に向かうことがすごく難しくて。以前のスピード感ある職場に慣れている私からすると、「すぐにやればいいのに」と思うことがなかなか進まなかったり。最初は、お客様からのクレームやお叱りもたくさん受けて、心が折れそうになることもありました。

橋本:そんな中である時、「自分自身が本当に相手をわかろうとしていなかったんだ」って気づいた事があったんです。それまでは上手くいかないと「なんでこの人、わからんとね?」と思っていたけれど、自分から積極的に現場に入って皆に近づくことで、「一人ひとりが何を思って、どうしたいのか?」が分かり、コミュニケーションがしやすくなりました。笑顔で過ごせる時間も増えたと思いますね。

記者:なるほど。御客屋の変革のプロセスには、そういった女将さん自身の気づきがあったんですね。「御客屋」のおもてなしは、お客様の満足度がとても高いと評判ですが、どんなことを意識されていますか?

橋本:一言で言うと、お客様に対する「目配り・気配り・心配り」ですね。これがおもてなしの基本だと伝えています。一人のスタッフが厨房、接客、フロントなどいろんな仕事に携わり、物事をいろんな角度で見る目や、コミュニケーション力をつけてもらうこと。それによって、働く仲間同士もスムーズに協力し合うことができ、良いサービスにつながっていると思います。

「目の前のお客様と心で向き合い、笑顔と感動の物語をつくっていきたい」

橋本:実は、最近はクレームというのはほとんどなかったのですが、ちょうど昨日、台湾人のスタッフが中国のお客様にかなり強い口調でお叱りを受けたんです。お料理の質にも気をつけていたので、最初は理由が分からなかったのですが、お肉を良質の少しかみごたえのあるものに変えたのが、お口に合わなかったようなのです。

そういった事態にもスタッフの連携をとりながら、また彼自身もお客様と心から真摯に向き合うことで、帰り際にはご主人が「彼は本当に素晴らしいスタッフだよ」と仰ってくださり、それまで一度も笑わなかった奥様も笑顔を見せて帰られました。

今の仕事は日々変化があり、物語があります。毎日大変な事もあるけど、そういう感動があるとまた頑張って行こうと思えるんですね。

そして、もうひとつ意識しているのは、スタッフ間で何でも話せる環境を整えること。縦社会の文化がある中でも、それぞれが思ったことを安心して言える職場づくりを心がけています。

お客様に満足していただくのは当たり前。それだけではなく、働く自分たちが感動したり、笑ったりできることを一つでも多く増やしていきたい、そんな想いがあります。


記者:素晴らしいですね!目の前のお客様と心から向き合い、また自ら楽しむことを忘れないことが、感動の物語を生み出すんですね。では、最後にこれからのビジョンを聞かせてください。

橋本:はい。これから大事にしていきたいのは、やはりおもてなしを楽しむこと、そして経済循環を生み出すことです。山や畑、田んぼの体験など、ここでしかできない体験を味わってもらい、その感動をお客様と分かち合うことで、「御客屋があるから、黒川に来たい」と思われるような宿にしていきたいですね。

そして、今の御客屋があるのは、黒川がある、南小国町がある、この地域の農業があって、皆がいるからだということを忘れずに、この地域全体が活かしあえるような流れをつくっていきたいと思います。

記者:「心で向き合うおもてなし」の精神は、 AI(人工知能)が登場し、人間にしかできないことが問われる今の時代に、とても必要とされるものだと感じます。

2020年の東京オリンピックで、日本が世界から注目されていくにつれ、日本のおもてなしの心もますます注目を浴びていきそうですね!本日は、貴重なお話をどうもありがとうございました。

    ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼

「御客屋」の詳細情報 はこちら

●HP:http://www.okyakuya.jp/about/●Facebook:https://www.facebook.com/kurkawaokyakuya/

◼︎編集後記

記者を担当した、黒田と牧野です。私たちも今回「御客屋」に宿泊させて頂いたのですが、夜にロビーで電話をかけていたらスタッフさんがそっとメモを差し出してくださったり、その細かい心配りにとってもあったかい気持ちになりました。

更なる御客屋の発展と、橋本さん、スタッフの皆さんのご活躍を応援しています^^

     ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼

この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?