#4再生水の受容度
こんにちは、前回のnoteでは再生水の基本的な情報について説明しましたが、今回は再生水の受容度について簡単にQ&A方式で説明しようと思います。
ここでは再生水の受容度「再生水を使うことをどれだけ受け入れるか」という定義で使おうと思います。
Q1.なぜ再生水の受容度が重要であるか?
非常に簡単に説明すると、コスト面・技術面の課題の解決は進んでいるが、市民の受容度に関する根本的な解決策が考案されていないからです。
コスト面は大量の電力を消費する海水淡水化よりも、再生水の方が有利とされていますが、やはり下水に関しての嫌悪感から市民感情的には海水淡水化が好まれるそうです。文章を書きながらこの部分に関してはもう少し文献を探すべきだと感じたので、修士論文までに適宜追加していこうと思います。
Q2.再生水の受容度はどのような要素に影響されるか?
A2.一つの大きな要素として、用途が挙げられます。
Chadafi(2021)が、再生水の用途と受容度の関係を調査するために、用途別/造水方法別の受容度についてUAEの市民にアンケートを取って調査したという先行研究があります。
図1では縦軸に受容度、色の違う棒グラフは造水方法、横軸には再生水の用途をとっています。(用途については次に言及します)
右のGarden WateringやToilet flushingについては、再生水と海水淡水化の受容度に大きな差はありませんが、左のDrinkingやCookingといった人間に直接接触がある利用方法に関しては、大きく再生水は海水淡水化に対して受容度に水を空けられています。
また、Chadafi(2021)はアラブ首長国連邦のAbu Dhabi首長国にあるアルアインの市民に「再生水の利用を避ける理由は何か? 」というアンケートを実施しました。
図2が調査の結果です。市民は①有害物質②臭気③下水への嫌悪感④病原菌のため水質基準を満たしていても再生水を利用しないということがわかりました。
イスラム教国であるにもかかわらず宗教的な理由が主流ではないことが新しい発見でした。この結果からは、宗教に関わらず受容度向上の施策を取ることができるのではないかという示唆を得ました。
Q3.再生水の受容度が政策実施に具体的にどのような影響を及ぼすか?
再生水の導入に失敗した自治体としてオーストラリア・クイーンズランド州の事例・成功した自治体としてシンガポールの事例を紹介しようと思います。
オーストラリア・クイーンズランド州では2006年に水不足のため再生水の導入を検討されましたが、反対者が非常に多く住民投票で再生水導入の可否を決めることになりました。ここで、反対派が不安を煽る非科学的な根拠や、根拠の薄い代替案を提示するなど猛烈な反対活動をした結果、61%の住民が反対して導入計画が中止になりました。
反対に、シンガポールでは2002年ごろから「再生水は水循環の一部であるという認識をつける」「NEWaterといういいネーミングで印象を改善する」という活動を行うことで再生水(NEWater)の受容度を向上させることに成功しています。
(ここから8/19追記)
クイーンズランドについての論文(Morgan, Grant-Smith 2015)と、NEWaterについての論文(Timm, Deal 2017)について追加しました。
飲料水にリサイクルされた廃水を導入するというクイーンズランド・Toomoobaでの提案は、大きな議論を呼びました。多くの住民は、この計画が市とほとんど、あるいは全く協議することなく強行されたと感じたと述べられています。この計画は、地域、州、連邦政府の3つの層から選出された指導者の大多数から超党派で幅広い支持を得ていましたが、一部の地域住民の反対が非常に強く、この支持は急速に弱まり、著名な選出議員もこの提案に反対するようになりました。
抗議者たちは、下水に含まれる汚水成分と、「下水を飲め」と言われることに対する嫌悪感に明確に焦点をあててプロモーションを行いました。彼らは、Citizens Against Drinking Sewage CADS(汚水を飲むことに反対する市民)という抗議グループを結成した。CADSと再生水案に反対する他のグループは、トゥーンバのコミュニティに再生水計画に反対するよう呼びかけました。彼らは、健康に害を及ぼす可能性を指摘し、すべての不純物を取り除くことは不可能であるため、市と住民は未試験の技術のモルモットか実験動物であると主張したそうです。
シンガポールでは具体的には教育ツアー・NEWaterビジターセンターの設立・イベントの実施などが行われています。2002年の建国記念パレードでは瓶入りのNEWaterが配布され公務員がそれを飲むというパフォーマンスも行われています。多くの肯定的なメディアは再生水の受容度に大きな貢献をしたと指摘していますが、一方で再生水の導入後に輸入ボトル水(いわゆるクリスタルゲイザーやエビアンなどのミネラルウォーター)の売り上げが急増しており、受容度が本当に上がっているか懐疑的な意見も見られています。
この行動は、「再生水を飲むくらいだったらミネラルウォーター買うわ」という心理をもとに行われていると考えられます。
この論文で行われた調査において回答者の大多数は、シンガポールの水の安全保障という目標達成のために自分たちの役割を果たすことが重要であることに強く同意し、回答者の約74%は、一般的にNEWaterを承認していると回答しています。
Q2.再生水の受容度はどのような要素に影響されるか?の部分が自分の研究の大きなReaearch Questionになります。
次回のブログでは、自分の研究の主な新規性である「なぜ再生水の受容度について、アンケートではなく自然言語処理を用いるか」という上の質問に対しての手法の部分について説明しようと思います。
このあたりから水環境系の研究というよりは、心理学・情報学に近い分野に入ってくると思います。その辺りは専攻分野ではないので、学習を重ねていきたいと思います。
長い文章ですが、読んでいただきありがとうございました。
出典
T. Chfadi, M.Gheblawi and R.Thaha ,Public Acceptance of Wastewater Reuse: New Evidence from Factor and Regression Analyses, Water(Switzerland),Vol.13, No.10, pp1-18, 2021
PUB. NEWater. https://www.pub.gov.sg/watersupply/fournationaltaps/newater, 2018, 2021, June accessed
(2022 8/19追加 Understanding the behavioral influences behind Singapore's water management
strategies)
https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/09640568.2017.1369941
(2022 8/19追加 Tales of science and defiance: the case for co- learning and collaboration in bridging the science/ emotion divide in water recycling debates
https://www.tandfonline.com/doi/pdf/10.1080/09640568.2014.954691