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THE BLUES!!!ブルースドラミング勉強会&実践編 by drummers.Cafeイベントレポート
drummers.cafe Through Genaration Events
THE BLUESドラミング勉強会&実践編 裏話的イベントレポート
なぜブルースなのか
ドラマーズカフェというサイトを立ち上げて1〜2年。昨年、2024年8月にキッカケがあってイベントをやり始めて、ひょんなことから思いついたのが、ブルースに関するイベントでした。
ブルースってのいうのは、本当に大事なジャンルだと思っています。
しかし、なかなか取り上げられないというか、ドラム関連ライター業30年の私も、ブルースを取り上げるのは容易ではないと感じるところがあります。ただ、やっぱりブルース界隈で音楽を成立させているドラマーは、本当に素晴らしい。
そんなわけで、いつか、ブルースに関することを何かやれたら、そしてブルースというジャンルを演奏するドラマーのエッセンシャルな何かを「伝達」できたらと思ってきてはおりました。
さっちゃん=中崎さちさん
埼玉県に、とある公園がありまして。そこにはよくドラマーが集まっておりました。好き好きにドラムセットをセッティングして、のんびり叩いたり練習したり。パーカッション、和太鼓、サックス...時にはギターの方なども。(今では、ちょっと過剰な演奏が多くなってしまったせいか苦情が来て、集まれなくなってしまいましたが。)
そこで知り合った人達の中で、中崎さちさんという方がおりまして、SNS上でまた見かけたり、大学時代のバンド仲間である金子健七君とセッションホストをやっていたりで。なによりまたヴィンテージな楽器も大好きな方なので、そうした話題もあったり。
1〜2年くらい前に、池袋のイシバシで偶然お会いして、なんかちょっとバックビート界隈の話になったんですが、自分は大阪生まれでもあり、さっちゃんは姫路、関西な話しっぷりに馴染みもあり、世の中の実情と音楽の理想の間で、おもしろいバランスで話をするなぁと思い、楽器店の片隅とか、YouTubeとかでトークショーみたいなのやったら楽しそうだなと思い始めていました。
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Through Generation by drummers.cafe
昨年8月にイベントをやったときにもさっちゃんには見に来ていただいたりして、やっぱなんかやれないもんかなと思ったりしていたのですが、その頃に、ドラマーズカフェのサイトで、当時やっていた「Interview」という企画が一段落して、次は理系的な記事や、あとは歴史的なゾーンに触れる何か...と考えていたときに、世代を繋ぐことをなにかできないかと「Through Generation」というアイデアが出てきていました。
世代を繋ぐといっても、そんな大げさな話ではなく、お年寄りの話を聞きなさい!という堅いものでもなく。なんていうんでしょうか。たとえば自分も、チャーリー・パーカーはこんなことがあって、あの演奏法に至ったんだと知った途端に「この演奏にはこんな意味があったのか」と、俄然聞きまくっていったとか「伝統的なラテンのリズム」なんていう言葉を見聞きしていたものの、そこにはアフリカ人が奴隷として扱われていた時代があって、しかしそれが僕らがワクワクするリズムやビートに至ったと知った時の複雑な気持ちであるとか。
30年近く、若い世代と講師という立場で接してきていると、背景的な情報ひとつで彼等の疑問や迷いが氷解することがあります。そしてまた、そうしたこと題材に話したりしていると、70年代をリアルタイムで見ていたつもりの自分もまた、当時の人生の記憶をバイアスにしていることを、今の世代の見え方から気が付くこともあったりで。
ドラマーズカフェは、ドラムテックの土田嘉範さんが教えてくれた、サンフランシスコの「City Lights」のワークショップの話が基になって自分の中で形になってきたものでしたが、そうしたコミュニケーションのテーマとして、Through Generationという切り口でできることがあるのでは、と。歴史のすべてを理解している人間が真理を語るというよりは、過去と現在の流れから、自分はどんな未来を感じられるのか...その糸口と考えたときに、やれることがありそうだなと。
そして、ブルースならば、さっちゃんとワイワイやれたら、なんだかその実験的なものに近づけるのかもと。
イベント第一弾「ブルースドラミング勉強会」
そうした切り口が見えればあとはスムースなもので、イベントもやってみようということになり、タイトルは「ブルースドラミング勉強会」として、フライヤーも作成。場所は浅草JPC、新宿ロックイン時代にはシンバルカフェというイベントでお世話になった黒澤君の協力で。当初はドラムシティ店頭で数人のお客さんとクローズドでやれたらくらいに思っていたのが、申し込みがたくさん来て、会場を広い地下のスタジオに移し、最終的には35〜36人くらいでしたか。
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さっちゃんが苦心してドラムセットも持参して、それを参加者の方々含めて叩いたり。とにかく会場の熱気というのか、人々の圧というのか、講義とかセミナーとか散々やってきてる私も、ちょっと別の世界に逝ってしまいそうでした。
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そうしてイベントが終了しましたが、いろいろな方からの意見や感想を頂く中で「勉強会」からさらに「実践」があるべきだなという雰囲気がムンムンでした。
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そうして、第2弾の「実践編」に進みます。
第2弾「セッション編」
ここからはさっちゃんがかなり苦悩の日々だったのではと思いますが、会場、ホストメンバーの決定、前回の参加者のみなさんからの反応へのリプライなど。自分もそうですが、ミュージシャンとしてセッションに参加することから考えたら、やることアレコレありすぎな日々。
しかし蓋を開けてみると、こちらも申し込みを順調にいただき、大阪や群馬から参加の声も。そして、できるだけお受けしたいけど、セッションだから一体何人までできるだろうか...結局、セッション参加枠は締め切りにするまで申し込みをいただきました。
なんだかんだで、いよいよ蒲田CATFISH Tokyoで実践編当日。お店の上のファミマでコピーしていたらさっちゃん、そして店長さんも。多少の設営をしつつ、ホストメンバーの畑中イタルさん、金子健七さんも登場。
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この日は5時間の枠を用意して、16人の方とセッション、そして10人の見学参加の方々でした。当初はレクチャーをやってからセッションの予定でしたが、
基礎レクチャー
セッショングループ1
実践的レクチャー
セッショングループ2
応用的レクチャー
セッショングループ3
入り乱れてのセッション
のような形で進めました。このあたりは冷酷非道に時間厳守な私の仕切りで、なんとか概ね時間通りに進みましたが、このレクチャーを分割したのは、苦肉の策ながらとても良かったです。自分のレッスンなんかでも、もっと取り入れるべきだなと、この歳になって思っています。
怒涛のホスト役
イタルさんも健七さんも、ツインドラムで補助して叩いていたさっちゃんも、言ってみれば柔道の乱取り稽古のようなもので、しかしひとりひとり全然違うドラミングに対応して、最後は見学の方々も入り乱れてのセッションとなり、長丁場の演奏、本当にお疲れ様でした。
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今まで、ドラムのイベントとか、合宿なんかもやってきた経験からしても、この5時間は、集まった参加者の方々の温かい「ブルース愛」「セッションへの期待」によって、今までの経験とはまた少し違う、良い時間だったなと感じています。
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そうして、勉強会と実践編をやって思うことは、参加者の方々自身から多く聞かれた言葉ではあるのですが、
「ブルースでこんなに人が集まるんだ」
というものでした。
今回のイベントふたつとも、まずはさっちゃんの集客力はかなりありまして、「さっちゃんの晴れ舞台見に行くよ」という方もいらっしゃいました。そして常日頃からセッション界隈で繋がりのあるブルース好きな方々が多かったです。ドラマーズカフェを知ってくれたり、私のことを知っていてという方もいてくださいましたが、群馬や大阪から参戦していただりと、いやはやブルースすごいっす、と言わざるを得ません。
また、今回は普段は別の楽器を演奏している人が、ドラマーとして参加された方も何人かいたのですが「ドラマーにどう伝えたら良いのか」「ドラマーはどう考えてその演奏になっているのか」というところにも、ずいぶんと解決すべき事柄があるなと感じました。個々の楽器の奏法セミナーはもちろんですが、お互いの都合や事情を知り合うための何かってのはあるべきなのかもしれません。まぁバンド組んで気が済むまで話し合って演奏すれば...とは思いますが、それは昭和的なのかもしれません。
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ブルースの演奏とは
健七さん繋がりで来ていただいたベーシストの草梛 亮さんは「アンサンブルは世界平和だ」とも。人の音を聞いて、そして自分も音を出す、これはもう世界平和そのものだと。
私は、どんな音楽も演奏していて楽しいと思います。聞いてあまり好きになれない曲でも、仕事などである意味仕方なくでも演奏すれば、翌日には鼻歌で歌ったりしています。
ブルースは「うまく演奏できた」という達成感に至るにはハードルがやや高めに感じることはあります。しかしそれは、ある意味サービスに慣れ、インフラという段取りが出来上がっている中で、便利な生活に慣れた我々の、コミュニケーションやサバイバル能力の低下なのかもなと思うところもあります。
譜面的、手順的な情報量としてはそれほど多くないブルースドラミング。12小節の繰り返しという理解しやすい構成で、フィルインも入れずにただひたすら繰り返すことも多くあります。そこに立ち昇る、アンサンブルで組み上がった「音楽」に耳が向けば、奥の深い世界が広がる...いや、野暮なことは言いますまい。
個人的には、むしろドラムセットが入る前、所謂戦前のブルースというものに、私はブルーズというものを感じますが、それはまた別の話として。
演奏をする機会を
また、今回のイベントで「こんなことがありました!名場面!」「さっちゃんはこんな良いことを言ってました!名言!」っていうレポートの感じで書こうかなと思ってたんですが。
言葉の力っていうのは、本質的に信じている自分ではありますが、「その場の文脈や温度、表情やトーンとともにその言葉を見聞きしてこそわかること」っていうものがありすぎて、安易に言葉をひとり歩きさせられないなという気持ちになっています。そして、ブルースを演奏するときに一番必要なものが「言葉のひとり歩き」「解釈の一人歩き」から離れることかなと感じます。
是非、さっちゃんを始め、ブルース界隈の方々の演奏を聞いて、セッションを体験して欲しいと感じます。そうしたことをするのに、現代はなにかしら不安とか現実的な生活や時間の問題などがありすぎるのかもしれません。
楽器を手にした人達が、セッションに行ったりバンドを組んだりして、演奏の中で疑問を抱えて、演奏の中で解決する機会が増えるといいなと思います。そういえば自分は、いろんな先輩が声をかけてくれていろんな曲を演奏したんだよなとも。
先人は、ただ演奏の機会を与えることが、一番の音楽の教育なのかもしれませんね。日々営業されているライブハウスや、セッションを行っている方々こそが、素晴らしい先生であり、素晴らしいイベントそのものだよなと感じます。
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関わったすべての皆様に、御礼申し上げたてまつり候!
ご一読ありがとうございました!
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