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誰でもプロの作詞家・作曲家になれる本【2】

第2章 【作詞家 基礎編】作詞家になるために必要なこと
 
 
・作詞家ってどういう仕事?
 
 
 まず「作詞家」とは具体的にどういうお仕事なのか。実はあまり知られていないことなので、最初にご紹介したいと思います。
 また、このことは「作曲家」もまったく同じなので、作曲家志望のかたもぜひ覚えておいてください。
 
 自分で書いて歌うシンガーソングライターは別として、職業としての作詞家の大前提は
 
 他者のプロダクトに「楽曲提供」すること
 
です。そして、多くの作詞家は通常、アーティスト事務所に所属しています。私も、芸能事務所である有限会社エンパシィとアーティスト契約していて、テレビ局や舞台制作会社からのお仕事をマネジメントしてもらっています。企業系のお仕事は、直接依頼を受けることもあります。
 
 簡単にいえば、「頼まれて書く」のが作詞家ということです。
 
 ちなみに、Jポップ界でのアーティストへの楽曲提供の仕事は、メジャーレーベルであっても基本的に収入は印税です。つまり、事務所に所属していようが、コンペに勝って採用され、楽曲が完成して発売され、それが売れるまで収入は発生しません。
 
 大手レーベルのコンペ情報は、事務所経由で入ってきます。誰もが知るアイドルのシングル曲などもそうです。作詞コンペの場合たいていは、楽曲の候補曲が先に完成していて、そこに詞をあてていくことになります。後で説明しますが、これを「詞先(しせん)」と呼びます。
 
 そこで採用され、さらにヒットするというのは、千にひとつぐらいの確率でしょうか。でも、その一曲が売れたら
「〇〇というヒット曲を手掛けた作詞家」
として、今度はコンペではなく名指しの依頼が来ることもあります。そこまでいけるのは万にひとつの確率といっても過言ではありません。いまのJポップ界で名を知られている作詞家(作曲家も)は、エイベックスやジャニーズなどのコンペを勝ち抜き、そのような地位にいるのです。
 
 こう考えると、作詞家としてだけで収入を得るのは、実力と運が必要ですね。
 
 おもしろいのは、最近その様相が変わってきたのが、地下アイドル(ライブアイドル・リアル系アイドルなどと呼ばれる)の台頭です。
 
 いま、全国で、地下アイドル活動をしている人は5500人を超えると言われます。また、事務所所属のアイドルは2000人、ご当地アイドルも2000人。
 つまり日本にアイドルはおよそ一万人もいるのです。すごい数字です。
 その背景には、それだけそのアイドルを応援しているファンが存在します。自分が応援しているアイドルを『推し』と呼ぶこともすっかり浸透しましたね。
 
さて、アイドルがライブをするにはオリジナル楽曲が必要になります。そこで、アイドル達はネットなどで作詞家や作曲家を探し、自身で音源を作ります。レコーディング経費なども合わせ、1曲30万円ぐらいの経費でそこそこ良いクオリティの楽曲を作っています。
 
 この場合、詞や曲は印税ではなく「買い取り」にすることが多いです。
 つまりその後どんなにヒットしても印税は受け取れませんが、楽曲を提供する段階で報酬が得られます。作詞家・作曲家はそれぞれ3〜5万円というところでしょうか。
 金額は作家の実績や実力によって変わりますが、こちらの作る労力を考えると、報酬額としては低いと私は思います。でも、第1章でご紹介したように、サブスクで200万回再生されて印税がようやく3万円ということを考えると、手っ取り早い仕事ということもできますね。
 
 さらに、アイドルにとってCDは「グッズ」です。様々な付加価値をつけてグッズをどんどん売ることが収入源です。アイドル界隈で『推し』に使う平均金額は平均月10万円といわれます。これもまたすごい金額です。
 推しを応援するためにグッズを買ってくれるファンのために、アイドル運営側はどんどんオリジナル曲を作ります。つまり、かなりの量の「作詞作曲仕事案件」がネット上にあるのです。
 アイドルへの楽曲提供を月7〜8件こなして、そこそこ食べていっているフリーの作詞家・作曲家が現れています。
 
 これはほんの一例です。「誰かに頼まれて書くことで、報酬を得る」方法はこれからもいくらでも登場するでしょう。
 今こそチャンスだと私がお話しする理由がおわかりいただけたでしょうか。
 

 
「書いて欲しい」と言われる作詞家になるには
 
 
 おそらく、想像していたよりずっと多くの「作詞作曲仕事案件」が、世の中にはあることがおわかりになったのではないでしょうか。
 しかし、同時に、今やDTMなどで誰でも曲が作れるようになった「一億総クリエイター時代」なので、「自称作詞家」「自称作曲家」も山のようにいるのです。
 
 たとえば『ココナラ』というサイトをご存知でしょうか。
 
 ここは「みんなの得意を売り買いスキルマーケット」というキャッチフレーズで運営されているサービス取引サイトです。
 
 試しに今、「作詞」のスキルを提供している人を検索してみたら、5968人という結果が出ました。ちなみに「作曲」で検索すると、9060人いました。
 
 もしあなたが、今、作詞家としてすぐ仕事を引き受けたいのなら、こうしたマーケットに出品することは可能です。
 しかし、この約6000人の出品者の中で、誰かに選ばれ「あなたに書いて欲しい」と言われるのは並大抵のことではありません。そこを打破して最初の一件の注文を取り、高い評価のレビューを書いてもらい、そこからさらに新規のお客さんの目に留めてもらうためには、何が必要だと思いますか。
 
 答えは、シンプルです。
「いい歌を書く」ことなのです。
 
 ポートフォリオ(製作実績・実例)に掲載する歌で、心を動かすこと。これ以外にありません。そして、もう一つは、お仕事をいただいたら
「依頼してくれた人を満足させる」
ことしかありません。
 
 ところが
「自分は自分の詞を良いと思うけど、他人にとってはそうではない」
ということは、意外と多いのです。自己満足は余計に嫌われてしまいます。
 
 いい歌(歌詞)を書ける人とは、他人に提供して満足させるレベルのものを安定して提供できる人のことをいいます。
 
 せっかく書くのなら誰かの心を動かせる「いい歌」を書きたいものですよね。
 
 では、どうしたら、「いい歌」を書けるようになるのでしょうか。ここからは、私なりに長年の経験の中から、あなたにすぐに役立てていただける視点をご紹介します。
 
 

 
・好きな曲を「作詞家目線」で吟味してみよう
 
 
 まず、準備運動をしてみましょう。
 あなたには好きなアーティストはいるでしょうか。洋楽しか聴かないという人も、できれば、歌詞が好きだなと思う日本語の曲を探してください。
 そして、その歌詞を改めて「作詞家の目線で」吟味してみます。新たな発見があるはずです。
 
 既存曲の歌詞をここに事例として掲載することはできないので、ご自身でピックアップしたその歌をどういう視点で吟味するか、チェック項目をご紹介しますので、ぜひご自身で書き出してみてください。
 
1)      主人公は女性目線?男性目線?。また、実際に歌っている人とその性別は同じか違うか?
2)      自分や相手をどう呼んでいる?(君、僕、あなた、私、など)
3)      語尾の特徴(〜なのよ、〜だわ、〜だよ、〜だ、〜です、など)
4)      自分が好きなフレーズ
5)      なぜそのフレーズが好きなのか
6)      「うまい」と思う表現
7)      それはなぜか
8)      歌詞の中には状況が説明されてないのに、情景が浮かび上がってくる表現はどこか。
 
 あなたが好きな曲について、改めてこれらの視点で眺めてみると、作詞家がいかに、ほんの短い言葉で、情景や登場人物についての情報を詰め込んでいるかがわかると思いますが、いかがでしょうか。
 
 特に、
8)歌詞の中には状況が説明されてないのに、情景が浮かび上がってくる表現はどこか。
 
という視点について、説明しますね。
 
たとえばこんな歌詞があったとします。
 
♪眠れなくて 窓に立つよ
 さっき画面の中では 笑っていたけど
 ベッドの左側 空っぽのスペース
シーツが冷たい 君に会いたい
 涙は流れ星 君住む町へ飛んでいけ
 
 この5行の中にどれだけの情報が入っているでしょうか。
 
 「眠れなくて」ということは、おそらく今は深夜か明け方ですね。そして「画面の中では」で、相手とさっきまでビデオ通話で話していたのでしょう。「ベッド」の左側に今はいないということなので、相手は「恋人」。「君住む町」ということは遠距離なのですね。人称が「君」だけなので、主人公は男性とも女性とも取れる内容です。歌う人によって印象が色々変わりそうです。
 
 これが、歌詞ではなく、普通の文章だとしたら、こんなふうになります。
 
「恋人とさっきまでビデオ通話をしていた。その時は笑ってはいたけど、今は眠れなくて窓辺で空を見上げている。ベッドの左側のスペースが空いていてシーツが冷たい。その冷たさに、君に会いたい気持ちが高まり、思わず涙があふれてくる。それと同時に、まるで一筋の涙のような流れ星を見た。流れ星がこの気持ちを運んで、君の住む町へと飛んで行って欲しい」
 
 どうでしょう。
 日本語って面白いですね。「みなまで言うな」という言葉がありますが、全部を言葉で説明しなくても、伝わる情報が多いのです。
 そして、この言葉のチョイスのしかたが、その作詞家の個性となります。あなたが好きなアーティストの歌には、かならず独特の言葉選びのセンスがあるはずです。
 
 そして、人は誰でも、自分が好きな音楽に影響を受けています。
 ということは、これからあなたが書く詞は、意識的にも無意識的にも、きっとあなたが好きな歌の言葉のセンスに近くなっているはずです。
 
 それは、これから作詞活動をしていく上で、実はとっても大切なよりどころになります。
「自分は、〇〇〇〇さんに多大な影響を受けている」
 そう自覚できるところまで、まずはその好きなアーティストの歌を「作詞家目線」で吟味してみることをオススメします。そうするうちに、自分でも書ける、書きたい、という気持ちがふくらんでくると思います。
 
 

 
・作詞は日記を他人に見せるようなもの
 
 
「よし、書いてみよう!書いてみたい!」
 いよいよそう思ったあなたに、おそらく次の壁が立ちはだかります。それは
「恥ずかしい」
という感情です。
 
 こんな詞を書いてるんだって、みんなに思われたらどうしよう。歌詞なのに、自分自身の事だと思われて
「ふーん、あの人ってこんなこと考えてるんだ」
って思われたらどうしよう。
 恋の歌なんて書いたりしたら、自分の経験談かと思われるんじゃないか。どうしよう。
 そんな想いがよぎりはしませんか?
 私も駆け出しの頃はそうでした。
 
 はっきりいうと、作詞とは、恥ずかしいものです。
 自分の日記を他人に見せるようなものです。だからまずは
「恥ずかしいものだ」
という自覚をしっかり持つほうがいいのです。そして、自分の心の底を見つめて、それを吐露することを恐れないことです。
 
 なんとなくそれらしい言葉だけを並べた詞は、すぐに見抜かれてしまいます。人の心を動かすことなんてできません。心の底にある「想い」を短い言葉でどう伝えるかの真剣勝負。こっちが恥ずかしくてモジモジしていたら、聴いてるほうまで恥ずかしくなってしまいます。
「えーい、さらけ出してしまえ」
という覚悟で飛び込んでみてください。
 案外、味わったことのない快感が待っているかもしれませんよ。
 
 また、「経験したことしか書けないのではないか?」ということも、心配ありません。
 
 私などはミュージカルの場面で歌う曲を書いているので、親を亡くした歌も、恋人が去ってしまう歌も、仕事に失敗し全てを失う歌も、命の危険にさらされる歌もひんぱんに書いています。いちいち経験していたら身が持ちません。高校生男子の歌も書けば、風俗嬢の歌も書きます。中には、宇宙人が宇宙から地球を眺めて愛を歌う場面などもあります。
 
 その詞によって描きたい世界があったとしたら、その情景や設定は、イメージや取材によって補完することができます。自分で何もかも経験する必要はありません。
 
 そして、肝心なのは、情景や設定ではないのです。
 
 その設定に置かれた主人公の感情がどう動くか、何を思い、何を言うかが最も大切なのです。たとえば
 
土手にタンポポの綿毛が飛んでいる
 
とします。なんとなく歌詞によく出てきそうなシチュエーションですね。この一文じたいは見たままが書かれているだけです。
 詞の中に描かれた情景は、その主人公がどういう心持ちだったからそこに目が止まったのか、が描かれて初めて意味を持ち、人の心に作用します。
 
 タンポポの綿毛が飛ぶようすに、主人公は何を見たのか。はかなく風に飛ばされて漂う感じに自分の寂しさを投影したのでしょうか。過去に見た同じような景色を懐かしく思い出したのでしょうか。あるいはタンポポが命を終えたように見えて、また種を飛ばし、いつかは花咲かせることに思いを重ねたのか。そもそも、なぜ土手をひとり歩いているのか・・・。
 
 すべては、心の奥底を表現するための道具なのです。
 自分だったらこうするだろうと思うことを、その世界に没入して想像し、あらゆる言葉を探して伝えます。その時に情景の力を借りるのです。それが、聴く人の共感を呼びます。
 それが「いい歌」誕生の瞬間です。
 
 そういう意味では、実体験したことを詞にするのは、設定を創作するステップを省略することができます。
 でも、実体験をもとにした歌というのは、案外簡単ではありません。なぜかというと、あまりにも主体的な感情を持ちすぎていて
「聴く人の共感を呼ぶ」
ところまで、自分の中で落としこむのが難しいからです。
 
 そのため、うっかり自分にしかわからないことを書いたり、言葉が足りず「ここ、どういう意味?」と言われるような詞になりがちです。それだと「いい歌」にはなりにくいものです。
 
 実体験を書くときには、どこか客観的にそれを分析し、多くの人に
「ああ、そういう感情、あるよね!」
と言われるところまで使う言葉を磨いていく、そんなスタンスがいいですね。『その時の自分を眺めている、もう一人の自分』
を設定してみると、面白いかもしれません。
 
 過去の苦い失恋も、客観的に見つめて歌詞にしてメロディーに乗せて歌ってしまえば、スッキリ昇華されて吹っ切れます。思い残したことがあればぜひ一度、それを題材に書いてみませんか?
 
 
 
 
第3章 【作詞家 実践編】グッと良くなる、作詞の方法
へ続く。


<お知らせ>
現在、「まきりかの『おとだま塾』」として作詞講座・作曲講座を実施しています。
2024年は6月15日開講です。
月1回、全5回、10月5日までに自分だけの「歌」を作って修了します。

2024年は、すべての塾生さんの詞に、まきりかが曲を書きます。
プロを目指すまでではなくても、世界にひとつの自分の歌を作ってみたい。
何かを表現してみたい。あるいは、完成曲の商用利用も可能です。
あなたの想いを形にしてみませんか? お待ちしています!

『おとだま塾』のページ
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