「Familiar」全曲解説その5
折り返しましたね、それでは5曲目「偏西風」です。
今回のアルバムを作るにあたって、ずいぶん助けられた漫画がありまして、入江亜季先生の「北北西に雲と往け」という作品です。
僕の場合、行き詰まる時って大抵焦ってる時で、この曲のメロディーも作らなきゃだし、別の曲の歌詞もまだできてないし、メールの返事もしなきゃいけないし、もうすぐ子供達帰ってくるし。そういう時にページを開くと、一コマ一コマ丁寧に描かれた絵に励まされていました。そうか一歩ずつしか進めないんだよな。
創作の姿勢は、大きく影響を受けている自覚はあったのですが、出来上がった曲を見てみると作中の景観や質感も影響されてたんだなと分かります。
曲の内容は結構怖いことを歌ってると思います。「首筋に触れている他人の両手」とか。
成熟した大人へ成長するにあたって、いろいろくぐり抜ける関門があると思うんですが、例えば素直にごめんなさいと言うとか、嫌なことにはNOと言うとか。そんな中の一つが「振り向かない」だと思うんです。これは過去に思いを馳せるな、と言う意味ではなくて、例えば走り幅跳びする時、振り向くと当然ジャンプ力が減退しますよね。キャリアアップする時、環境が変わる時、集中が必要な時、ここ一番の人生の局面において、振り切ることが重要だと思っています。
音楽的な話をすると、AメロからBメロにかけてさりげなく転調しています。世界を変える方法は、ついつい強大な敵を打ち倒すことを考えてしまうんですが、現実の世界線のシフトってこれくらいひっそり行われるんじゃないかなと思うんです。歌詞の通り、ドアを開けて外に出る、当たり前のことのようだけど、今日は何か少し違う。誘われるように外に出ると、今まで経験したことのないような出来事が次々に起こり始めます。最初は目を閉じて闇雲に走っていても、目を開けて恐れていたものを直視することで、ようやく過去の自分を追い越せるようになります。個人的にはかなり気に入っているラストシーンです。最後にサビを2回繰り返そうか迷ってんですが、1回にしてよかった。
バイオリンはパレード同様、イガキアキコさんにお願いしました。いくつかキーワードでリクエストを送ったんですが、予想のはるか上の回答が送られてきて腰を抜かしました。ほんとに。口ずさめるくらいメロディアスで、フレーズの繰り返しが全然なくて、3パートに分かれてて、マジで変態的に全力投球なんだなこの人。いや、ホントはわかんないすよ、サラッとつくってかもしれないけど、でも少なくとも僕は、ペン先が潰れるくらいの筆圧を感じました。負けてらんねーと思って、ギターソロを作ったんですが、全然弾けなくて30回くらい録り直しました。単独ライブで歌いながら弾けるように練習しています。
シャレてるように聴こえて、その裏でプレイヤーやエンジニア、関わった人たちの筋肉が唸りを上げてるところがすごく気に入っています。アルバムの推し曲にあげてくれてる人も多いようで、嬉しい限りです。
Gt,Vo 牧野容也
Rhose 谷口雄
W.Ba カナミネケイタロウ
Dr あだち麗三郎
Vln イガキアキコ
録音 原真人、牧野容也(牧野Vo,Gt(Left),Guitarsolo)イガキアキコ(Vln)
ミックス 原真人
牧野容也「偏西風」
https://music.apple.com/jp/album/%E5%81%8F%E8%A5%BF%E9%A2%A8/1754539051?i=1754539365