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the Odyssey その7

2022年1月
 1月20日に、ケイタロくんとあだちさんと、3人でベーシックの録音をした。起こった出来事全てを書き起こすことはできないが、この日は可能な限りそうしたいと思う。
 前回の記事に書いたように年末、家族が先に地元に戻り、自宅に一人で過ごしていた時に、まだ録音スタジオの予約をしていない事に気がついた。もともとがそそっかしい性格なので、多少のうっかりは気にしなくなったのだが、この時はさすがに肝が冷えた。年始の営業開始は8日から。公共施設の音楽室なので開館日も遅い。予約は電話のみ。予約が取れなかったら・・リスケジュール・・みんなに謝らなきゃ・・他のスタジオ探さなきゃ・・でもきっとなんとかなる、大丈夫・・でも・・と感情がきく揺れ動くお正月だった。最終的には、そんな自分の状態に笑えてきてしまい、もうどうにでもなれぃ!と居直り、子供たちと合流してからはたわいもない事で爆笑して機嫌良く過ごした。

 1月8日、9時〜21時で無事予約完了。身体中の空気が全部抜けるような安堵のため息。
 1月19日、ケイタロくんに甲府まで来てもらい、収録予定曲の打ち合わせ。4曲のためにベースを4本も5本も持ってきてくれる。曲のイメージ、パートごとの役割など共有。ベースの音色で曲の感じがガラリと変わる事に驚く。人に自分の曲のことを伝えるとき、その人の曲の解釈を妨げたくなかったので、かなり言葉を選んで話す。地団駄を踏んでいます、とか引きこもています、とか抽象的な話ばかりになってしまった。それにしても二人とも、曲を自分のものにするのがすごく早い。目の前のことを我が事として捉える、生きる姿勢の現れだと思う。

 当日、あだちさんと7時半ごろ出発。録音機材、ドラムセット、ギターアンプ、ギター4本を積んで車はパンパン。録音の順番やセッティングの位置などを打ち合わせながら移動。
 9時半ごろ到着。男3人で詰め込まれた機材をせっせと下ろし、スタジオ内にセッティング。音楽活動を始めてそこそこ長いが、初めてドラムセットを組み立てる。パーツが多く、どれも金属製で重たい。ハイハットの仕組みが全く理解できない。演奏するまでに費やす労力がギターと全然違う。ドラマー同士仲がいい理由がわかった気がした。大変な苦労を分かち合ってるのだ。その後ギターのセッティング、5分ほどで完了。最後にそれぞれの楽器の音が他のマイクに被ってしまわないように、おそらく日本舞踊などに使うであろう思われる畳を、パーテーションがわりにそれぞれの楽器の近くに立てる。さながら子供の秘密基地である。
 楽器のセッティング、録音レベルの調整など終えたところでちょうど昼頃だったので一旦休憩。近所の無化調ラーメンを狙うが休業日。近所のローカルスーパーに向かい、おはぎと唐揚げとビスケットを購入。ケイタロくんとあだちさんは刺身を食べていた。こんな山の中なのに大丈夫かと一瞬頭をよぎる。
 4曲録音。録った順番ははっきり覚えていないのだが、なるべくドラムのセッティング交換が少ない順番で録ったと思う。ケイタロくんが5時ごろ別の現場へ移動するため、少し焦りもあったが問題なく録了。いいテイクが録れた。今回は経験豊富な良いメンバーに助けられたと思う。レコーディングはリーダーの判断力が試される現場だなと思った。どれくらい粘るのか、どのテイクを生かすのか、いつ休憩するのか、時間とメンバーの体力と現場の雰囲気と、バランス感覚と俯瞰力。いつも全体を把握している必要がある。今回は3人で1日だったが、もしこれがもっと大勢のスタッフが関わって、何日も続く作業だったら、一つ一つの選択がより繊細で洗練されたものになる必要がある。責任も大きいが、感動や達成感は今回の比じゃないくらい大きいのだろう。次はもっと大勢で録音したい。
 5時にケイタロくんが離脱。残った時間で自分のギターの重ね録りをした。前作で経験したのだが、一人で録音しているとプレイとチェックと操作と3つの作業を同時に進めるので、だんだん視野が狭くなり、欲が出てしまう。キャンバスの隅だけピカピカになっている事に後から気がつく。しかし操作してチェックにも協力してくれる人がいるとものすごく楽で、一つ一つのジャッジに自信がつく。2曲分、アコースティックギターとエレキギターを一気に録った。本来鍵盤楽器で演奏したほうがしっくりくるパートもあったのだが、レコーディングできるほどの鍵盤の腕前がないのと、ギター独特のタッチで演奏されてるのも面白いと思い、今回はギターで録音した。
 予定されていた録音を一通り終えて1時間ほど時間が余ったので、のんびり片付けができると思っていたら、あだちさんから、歌も録音したら?とのこと。提案されたら、yesと答えるしかない。急遽、yoru(仮)のボーカル録音。この曲は前作にも収録したのだが、生楽器で演奏したかったのと、1番だけしかなかったので、今回2番を作って再録した。15分だけ仮眠をとらせてもらい何テイクか録る。歌録り用に事前リハーサルもしてなかったが、素の状態で歌ったのがこの曲に合っていたと思う。過飾と嘘がない。
 その後機材を撤収、車に積み込み再びパンパンに。2時間ほど運転、あだち宅で荷下ろししてから12時半ごろ帰宅。残っていた味噌汁を温め直す。普段全く飲まないのだが、さすがに酒が飲みたいと思った。丸一日、自分の中にある経験と能力を総動員した1日だった。体は疲れているが、充実感でいっぱいで、毎日こういう気持ちで寝られたら幸せだなと思った。布団に入った次の瞬間を覚えていないくらいすぐに寝入る。

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