「実験動物」をイカします! #100日間連続投稿マラソン
今日も船石和花さんからいただいたお題をイカします(*´▽`*)
「実験動物」
くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン
「ネズミを殺す仕事をしてるよ」
近況を尋ねると、浩太はそう答えた。
周囲の会話が消えて、視線が彼に集まる。でもそれは一瞬のことで、再び波のざわめきのようなおしゃべり。彼は氷の音を鳴らしてレモンチューハイをあおり、グラスを置いた。心なしか乱暴な音。ゴツゴツした指の関節が背景から浮かんで見えた。
「駆除の業者さんってこと?依頼を受けて、お宅に出向くみたいな」
「ううん、こう言ったほうが分かりやすいかな」彼は首を掻いた。「実験用マウスを殺す仕事」
その瞬間、浩太の目の奥が光った。
和美はすっかり驚いてしまった。たった三か月前、同じ店のこのカウンターで、同じレモンチューハイを飲んでいた彼は、白い歯を見せて目元をしわくちゃにしながら笑う人で、手指の感触からは想像がつかないほど動作が優しく、言葉が丁寧で、となりで飲んでいたおじさんと仲良くなって肩を組みながら一晩中米津玄師を歌っていた。
目はこんな色じゃなかった。眉間に濃い線を残して、唇が青くて、一口あおってはテーブルにグラスの底を打ちつける。和美のグラスはいっこうに減らなかった。
「和美ちゃん、ネズミってどうやって殺すか知ってる?」
「ううん」
「しっぽをね、引っこ抜くだけなんだよ」
浩太が言うには、ネズミはしっぽを引き抜くことで安楽な最期を迎えるらしい。ただし、思いっきり勢いをつけて、一気に。怖がって力を緩め、中途半端に引っぱると苦しんでしまう。なぜそれであの子らが死んでしまうのか、やり方だけそう教わって、その理由までは聞かされなかった。彼の推測では、しっぽは背骨とそのまわりを通る神経につながっていて、引き抜くことで背骨の位置がずれ、すべての神経が千切れてしまうのではないか。
「こういう風にね」
彼の手が和美の背骨をスっとなぞった。
和美は思わず声を上げた。
「ごめんて」
低い笑い声。氷とグラスが当たる音。
「製薬会社に入ったってこと?」
「入れるわけないじゃんか。ただのバイト」
「バイトにマウスを触らせるの?」
「うん。ただ、」彼はまた首を掻いた。「僕にも管がついてるけどね」
促されて覗いてみると、彼の首筋に赤紫の跡があった。長時間何かで挟んでいたときに見られるような色。腕の内側と左手の人差し指にもある。指先で触ると、くすぐったがって逃げた。それは蛇に噛まれたときの傷口を想起させた。そう、もう何年も前、通学路の脇の竹林で遊んでいて、和美を襲い、浩太に噛みついた黒色の蛇。ふくらはぎの出血。
「あと、頭に管がいっぱいついてる帽子を被ったり、変な眼鏡をかけたりする。赤っぽい水の薬を飲んだこともあったよ、あれが甘くてさ、気持ち悪くなるくらい。それで、毎日僕があの子たちを殺して、先生とかが何か記録してる」
彼はまたグラスを傾けた。
「これじゃあ、どっちが実験の対象か分からないな」
和美は浩太の背中に手を置いた。手と同じようにゴツゴツしている。Tシャツを通して体温が伝わる。湿っぽい。彼は小さくお礼を言って、和美の手をどけた。また首を掻く。和美はまた背中に手を伸ばした。
彼はうつむいて、一粒涙をこぼした。
#100日間連続投稿マラソン 29日目でした!お付き合いいただきありがとうございました(*'ω'*)
急に暑くなってしまった!!それはそれで、、うう(; ・`д・´)
みなさん体調にお気をつけくださいねーー🌞✨
それでは、また明日お会いしましょう(*´▽`*)/