「夕方になった」「犬が吠えた」「いびきがうるさい」をイカします！　＃100日間連続投稿マラソン

　

　「イカ」とは一体・・・？という方はこちらからぜひお読みください(*'ω'*)

「夕方になった」

くコ:彡　くコ:彡　くコ:彡💦ﾋﾟｭｰﾝ

　私の部屋の南向きの窓はちょうど横断歩道のはじまりに面していて、規則的に鳴く電子のヒヨコの声をよく招き入れた。

　ランドセルを背負った男の子たちが走って横切っていった。ひとりが窓の前で止まり、天を仰いで水筒をさかさまにする、氷の詰まる音が響いた。しかし一滴も出てこないで、蓋が乱暴に閉められる。名前を呼ぶ声。最近は変わった名前が多くて、音を聞いても漢字を想像できない。私にあいつとの息子ができたら、絶対「太郎」にすると決めていて、娘なら「桜」で、そのことはあいつに伝えてもある。

　三軒隣りの三崎さんがゆったりした足取りで歩いて行った。右手首に緑の紐をくくっていたので、バビも一緒のはずだ。バビもおじいさんと同じくらいおじいさんで、昔は窓の下のほうに丸い耳やしっぽが見えていたのにもうすっかり縮んでしまった。どーも、と三崎さんが白髭を動かす。いや、もうこの時間だからそんなに暑くはないな、まあでもこれからの季節は、道路が熱を吸っちゃってね、バビが干からびちまうから、朝に切り替えようかなと思っているところよ、姉ちゃんはどうなの、犬、あいつから許可出たの？私が首を振ると、三崎さんは笑って、そうかい、と窓の画面から消えていった。

　太郎も桜もだめなら、ポチが欲しい。昨日の夜の私の言葉に、あいつは回鍋肉のたれで唇を光らせながら首を振った。おい、何で、昨日も回鍋肉だったじゃん、犬はだめ、俺アレルギー。

　また電子ヒヨコが泣き始めた。私は部屋の電気を灯して、カーテンを引いた。口を開けて最後の苦い一滴を受け取ると、缶をつぶしてゴミ袋に放り込む。

　今日も回鍋肉にしてやる、と私はつぶやいた。

「犬が吠えた」

くコ:彡　くコ:彡　くコ:彡💦ﾋﾟｭｰﾝ

　三崎さんは窓枠に肘をつきながらかれこれ三十分はしゃべった。新しい感染症のこと、都知事選のこと、フードの値上げ、彼の不満の一番はこれで、やっと買ったフードをバビが残すのがまたいけない。三崎さんの黄ばんだシャツの左腕はカーテンの裾を巻き込んでいて、反対の腕は緑の紐につながれている。

　これはどうも、三崎さんが誰かに頭を下げた。

　どうも、と返事。

　三崎さんは少しあわてて、下向きに声を放った。

　ほら、やめないか、バビ！これ、ほうら、うるさい！バビ！バビ！これ！この、バカ！ほら、やめ！やめだ！うるさいんだ！バビ！

　三崎さんが窓の下に消えた。バビの長い口が三崎さんの両手で挟まれる(見えないけど、三崎さんはいつもそうするからきっとそうだ)。と同時に、玄関が開いてあいつが転がり込んできた。

　うへぇ、だから俺犬嫌いなんだよ。

　あんたが嫌いなんじゃなくて、犬があんたを嫌いなんだよ。

　犬なんか誰にでもしっぽ振るだろ。

　お前振られてないじゃん。

　三崎さんはカーテンと風景の隙間から手を振って、消えていった。バビの爪が道路に当たる音がかわいく鳴りはじめ、すぐ小さくなって聞こえなくなった。

「いびきがうるさい」

くコ:彡　くコ:彡　くコ:彡💦ﾋﾟｭｰﾝ

　時計を見ると、目覚ましのアラームまではまだ三時間近くある。

　となりでは膨れて爆発しそうな腹をTシャツから出している夫が、あおむけで目をつぶり、大きな口を半開きにしている。呼吸とともに唇をぶるぶる振動させる。窓の外は紺色で、天井は黒くて、酒の匂いが充満している。

　私は左脚を持ち上げた。夫の腹の上に振り落とそうとして、しかし敷布団の優しい感覚。

　耳を塞ぐ。

　しかし何も防げない。

　もう一度、腰をひねった反動で脚を持ち上げて落とす。

　んん、と彼が漏らした。

　私は毛布を頭まで被って、壁を向いて目をつぶった。

　

　

　

　

 ＃100日間連続投稿マラソン 2日目でした！お付き合いいただきありがとうございました(*´▽｀*)

　今日は3つの例文を私、三崎さん、夫の同じ世界でつなげてみました。

　いかがだったでしょうか？

　みなさんも、イカしてみたらぜひコメント欄で教えてくださいね！楽しみにしています！

大感謝(*'ω'*)　

　この記事やイカマガジンで使わせていただいているイラストは、おくちはるさん  https://note.com/09chiharu が描かれたイカさんたちです。

　みんフォトで「イカ」と検索した瞬間、おくさんのこのイラストが目に飛び込んできました。「絶対これだ！！！」と思いました。かわいすぎて、イカすぎた。

　おくさん、このイラストを100日間連続で使用することを快諾してくださいました。お優しすぎます。。本当にありがとうございます！

　では、また明日お会いしましょう(*'ω'*)