Morphoから読み取るDeFiのModular化トレンド
Morphoとは
MorphoはAaveなど他のLendingをベースとしながらもP2Pの貸し借りをマッチングさせることで好条件で貸し借りができるLending Protocol。P2Pで直接貸し手と借り手がマッチングできた場合、借り手にとっては既存のプロトコルを使う場合よりも安い金利で借入ができ、貸し手はより高い金利を受け取れる。P2P”マッチングが成立しない場合でもAave等のLendingを利用することで貸し手は金利を受け取ることができる設計だ。以前Baseの解説をしたツイートでもMorphoが登場しており、Baseに関する復習を希望する方はこちらを参照されたい。
2024年12月現在はEthereumとBase上で稼働しているが、最近複数チェーンに展開するproposalがガバナンスフォーラムに提出され、コミュニティには全面的に受け入れられている。
Morphoの特徴として、比較的実績が積み上がっていないと思われるトークンについても担保として利用可能な点が挙げられる。大手のLending Protocolにおいては、複数のトークンのPoolが共有されているケースも多く、債務超過を防ぐためにかなり実績が積み上がったトークンを厳選して採用する傾向が強い。一方でMorphoは、新興LRTやステーブルコインなど、比較的柔軟さが目立つ。もちろん、リスクが高いトークンを担保にしたレンディングマーケットはその分金利も高くなっている。
Modularアーキテクチャ
そして、本日の本題であるModular的なアーキテクチャについてだが、MorphoはCuratorと呼ばれるDeFi運用・リスクマネジメントのプロフェッショナルが、Morphoのマーケットを自由に使ってVaultを組成できる、パーミッションレスなLending Protocolになっている。現在MorphoでCuratorを行っているのはGauntlet、Re7 Labs、MEV Capital、Block Analitica、Steakhouse Financialといった企業だ。
例えば、Gauntletが管理しているGauntlet USDC CoreというVaultは、ユーザーがUSDCをdepositすることで自動的に最適なUSDCのLending MarketにUSDCをAllocateしてくれて、リスクに対して高い金利を得ることができるように設計されている。USDCを貸し出すPoolで担保となっているトークンが何かというと、このVaultの場合はWETH、wstETH、USDz、weETH、AERO、cbBTC、ezETH、cbETHなど多様である。つまり、特定のPoolが何らかの理由でLiquidationに失敗して債務超過になったとしても、Vault全体としての損失は限定される。
また、Morphoも含め、大抵のLending Protocolの金利の決定式はPoolのUtilization Rate、つまり「どれくらい多くの割合のトークンが借りられているか」によって金利が決まることになっている。PoolのUSDCが全て借りられている場合は、USDCの引き出し対応が難しくなり取り付け騒ぎ的なリスクが高まるため金利が高くなる。逆にUSDCが全く借りられていない場合は借入を促進するために金利は低い水準になる。多くの場合はPoolの利用率が80%付近まで緩やかに金利が上昇し、その水準を超えると一気に金利が上がるように設計することで借入を促進しつつ流動性リスクも低減させているのである。貸付をすることによって金利を得る運用者にとっては、より多くの金利収入を得るためにはUtilization Rateを監視・予測して美味しいマーケットを選び続ける必要がある。しかし、このモニタリングやリバランスはDeFi専業者以外にはリソースやスキルの関係で実装、運用が難しいことと、適切にマーケットのリスクを分散させる必要性もあり、Curatorがその役割を担う構造になっている。こういった金融分野に特化した業務は、もちろんMorphoの運営が担うことも不可能ではないだろう。従来のDeFiプロジェクトは、スマートコントラクトの開発、金融パラメータの設定・管理、他のDeFiプロジェクトを巻き込んだマーケティング(というよりはBizDev)など、超広範なタスクを内製化して苦労してきた。DeFiのExploitの事例を見れば分かるが、スマートコントラクト(コードにバグがないかなど)と金融(清算が間に合うようなパラメータを設定できているかなど)リスクマネジメントは全く別物であり、両方のスキルを兼ね備えている人材はかなり稀であり、チームの組成も難しく、仮にそれができたとしてもスケールさせるのは至難の業だ。しかし、Morphoの場合はプラットフォームとしてのスマートコントラクトの堅牢性を保つことや、強いステークホルダーが集まってくれるようなインセンティブ設計、APIの充実などに注力すれば良い。今後あらゆるものがTokenizedされ、大量のトークンがオンチェーンに存在することになっても、Morpho運営としては自ら清算パラメータやCapの設定などを行う必要がないため、ほぼ無限にスケールすることができるのだ。多くのDeFiでは運営のスキルとリソースがスケールを阻む原因になっているため、これが解消される秀逸なアーキテクチャは増え始めているし、今後も増加すると予想できるだろう。
Morphoと同じLendingのEulerも近い思想を持って構築されている。MellowではパーミッションレスなLSTの発行が可能。Uniswap V4ではhookというコントラクトによってpoolのカスタマイズ性が格段に向上する。
まだこのトレンドを一括りにするバズワード的な名前は普及していないかもしれないが、多くのBuilderたちがこういったアーキテクチャを認識して開発を行なっているのは確かだ。これを踏まえて数年後のDeFiの形を予想することは、事業者としても投資家としても間違いなく役に立つ。