DeFiプロジェクトのトークン配布
Podcastを始めてから「DeFi使っているとエアドロップ貰えますか?」という質問をよくされるようになった。当然だが結論、やり方次第で貰える。本記事ではDeFiトークン配布の歴史と直近の動向、今後の展望をまとめる。トークン発行するプロジェクト、エアドロップを狙うユーザー双方に資する内容になれば嬉しい。
今ではエアドロップ考察を行うインフルエンサーもTLに増えたが、そもそもDeFiやインフラプロジェクトがトークン発行してユーザーに配布するのが当然のような認識をされているのはここ3~5年ほどの話だ。多くのプロジェクトがトークン発行してユーザーに配布するようになったきっかけは、2020年のDeFiサマーと呼ばれる時期に実施された、CompoundのCOMPトークン配布、Sushiswapによるヴァンパイアアタック、UniswapによるエアドロップとLiquidity Miningである。CompoundはLending Protocolを代表するものの1つだ。DeFiサマーの時期、CompoundにDAIを預けるとcDAIというトークンを受け取ることができ、そのcDAIを担保にDAIを借りてcDAIを受け取りというレバレッジをかけることができた。その際、Compoundの利用量に応じてCOMPトークンを受け取ることができたため、借入金利-貸付金利<0の状況でも、COMPトークン報酬で利益が出るのであればフルフルにレバレッジをかけてDAIをCompoundで回した方が儲かるという状況が生まれた。もちろんレバレッジをかければかけるほど、清算によって損失を被るリスクも高まるので一概に期待値が高い運用かどうかという断定はできないが、CompoundはTVLを爆発的に伸ばした。
そして同時期、DEXの領域ではUniswapやBalancerなど複数のプロジェクトがアクティブに活動していた。そんな中、UniswapのソースコードをフォークしたSushiswapというDEXがローンチされた。Uniswapで得たLPトークンをSushiswapにステーキングするだけでSUSHIトークンがもらえるという簡単かつ収益性の高い仕組みを多くのユーザーは魅力的に感じ、Sushiswapは大きくユーザーを伸ばした。その後、Uniswapの流動性を引き出してSushiswapへ流動性提供することに対してインセンティブが生じ、UniswapはSushiswapに流動性を引き抜かれてしまう事態が生じた。これに危機感を覚えたUniswapはUNIトークンを発行して既存Uniswapユーザーに高額エアドロップを行い、さらに特定プールの流動性マイニングプログラムを開始した。これまでは流動性提供の報酬はswap feeの分配だけであったため、swap fee+UNIトークンがもらえるということでUniswapは流動性とユーザーの心を取り返す格好となった。
同時期にSolanaなどのイーサリアムキラーと呼ばれるL1チェーンが乱立しており、EVMチェーンではUniswapのコードと上記トークンインセンティブを模倣したフォークDEXが多く生産されることになった。それ以降は2020年の1inch、2021年のdYdXやRibbonFinance2022年のOptimism、2023年のArbitrumやJito、2024年のJupiterなど高額エアドロップが度々見られるようになり、それを期待してプロジェクトの宣伝を行うインフルエンサーや利用するユーザーも爆発的に増加した。そしてプロジェクト側としてはエアドロップをどのように設計してユーザーを集めるかという議論が当然のように行われるようになった。しかし、エアドロップ目当てのユーザーが過剰に増えすぎた結果、TGE後にユーザーが一気に離れてトークン未発行のプロジェクトに資金を移動するという課題に直面するプロジェクトが増えてきている。
プロジェクト側がエアドロップを効果的に利用してユーザー数を伸ばすための施策として、特に2023年後半頃からポイントプログラムを実施するプロジェクトが目立つようになってきた。これは大型調達していたEigenlayerやEther.fiなどがそのバックに入っているVCの信用と調達額を背景に高額エアドロップを匂わせつつ、ポイントを稼ぐためにユーザーにより多額のETHをdepositさせることでトラクションを生み出し、それが更なる高額エアドロップの期待を生んで追加のユーザーを巻き込むという構図だ。twitterフォローやdiscordロール獲得などを効率的に管理するGalxeやZealyなどのツールは以前から存在していたものの、リファラルプログラムの導入も進み、ユーザーがユーザーを呼び込むようになり、一気にポイントプログラムを行うプロジェクトが増えた。
そしてPendleFinanceではプロジェクトのポイントとリステーキングのイールドが獲得できるYTと、固定金利部分のPTの取引ができるプラットフォームとして爆発的にトラクションを伸ばした。ポイントが一般化しすぎてその取引をするプラットフォームが儲かるという構図だ。Whale MarketではUSDCやETHでポイントの売買をすることも可能になった。少し脱線するが、AevoやHyperliquidなどのPerpetual DEXではTGE前のトークンの先物を取引できるようになった。このような状況下で、プロジェクトはリファラルプログラムとポイントプログラムの導入だけでは他のプロジェクトとの差別化を行うことが難しくなった。
ここからは、プロジェクトがエアドロップと今後どう付き合っていくべきか考察したい。まず私が提案したいのは、エアドロップはクリフ、ベスティングによる長期コミットを求める必要性があるということだ。ポイントプログラムやエアドロップ自体が悪だとは思わない。しかし、ポイントプログラムとエアドロップをただ流れ作業のように実施して、TGE後にユーザーが離れてしまっては、トークン価格もユーザー数も下がってプロジェクト側もユーザー側も悪い体験をすることになってします。クリフやベスティングだけでなく、CurveのveTokenの仕組みだったり、ユーザーが長期的にプロジェクトを応援するメリットが大きくなるような何らかの設計は必要だろう。プロジェクトにとって最も重要なことはそのプロジェクトが最終的にトラクションを出すことであり、エアドロップやポイントは期待値の前借りであり、手段に過ぎない。確かにクリプトユーザーは自身で調査する能力が高い傾向があり、リスティング広告やテレビCM等の従来のマーケティング手法などよりも有識者のスレッドを読んだ方が成約率は高いのかもしれない。BASEのようにポイントやTGEを匂わせずにトラクションを積み重ねているところもある。自身のステークホルダーを洗い出し、プロジェクトのゴールを書き出して、時間軸を決め、どういう人や組織をどういうタイミングでどれくらいの量巻き込む必要があって、そのためのインセンティブや認知獲得方法として何が必要なのかということを、クリプトの固定観念を捨てて書き出してみるといい。
そして、ユーザー視点でどうすれば多額のエアドロップを獲得できるかについても考察する。PendleやWhaleMarketが躍進するような状況で、もはやユーザーは「エアドロップ獲得のための活動をしている」だけではアルファを出せなくなった。結局自身の取るリスクに対して妥当な水準のトークン報酬がもらえるという構図である。例えば2024年2月に一般公開したEthenaは、一般公開前や公開直後にステーブルコインの流動性提供を2ヶ月間していれば、入金量以上のENAトークンを受け取ることができただろう。しかし、4月のTGE後に始まったSeason2から参加したユーザーは、5ヶ月間お金を入れていてもまとまった額のエアドロップをもらうことはできなかったはずだ。プロジェクト側の視点に立てばこの結果は当然で、「まだ全然トラクションがなかった頃にリスクをとって大金をdepositしたり、自身の信用を担保にtwitterのスレッドで広めてくれたりしたユーザーには感謝の気持ちを伝えたい」と思うわけだし、逆に「既にトラクションが出ている状態で少額だけ入金して wen airdrop? と質問してくるのはやめてほしい」となるわけである。つまり、エアドロップという名前は3年前と変わっていないかもしれないが、実態としてはベンチャー投資のような様相を強めており、「将来爆発的に伸びるプロジェクトをいかに早期に発見して大きく貢献するか」というゲームになっている。したがって、少なくとも情報インプットアウトプットが迅速なインフルエンサーが言及したプロジェクトの中で「これだ!」というものがあれば後回しにせずすぐ利用すべき。pre-seedの調達プロジェクトでまだ有識者にあまり言及されていないプロジェクトであればそこそこ良い。可能であればPitchDeckしかない時点からプロジェクトファウンダーの壁打ち相手として振る舞うことが理想だ。もちろんプロジェクトの初期になればなるほどスキャムリスクもプロジェクトピボット・中止リスクも増えるので注意は必要だ。また、貢献度については、例えば自分自身がインフルエンサーで多くの人にプロジェクトを広められるとしたらプロジェクトは嬉しいし、お金持ちで多額のETHをdepositできるとしてもそれは嬉しいだろう。自分が他のユーザーと比べて得意な貢献の形を見つけることと、早期にプロジェクトに貢献することの2つが多額のエアドロップを獲得する上で重要だ。
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