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DeFiの収益源の変遷とGammaswapのYield Token

Ethereumが誕生してから2025年1月現在に至るまで、DeFiにおいて様々収益獲得方法が生み出されてきた。本稿ではDeFiにおける収益源の変遷を振り返りながら、新たに登場するGammaswapのYield Tokenの可能性について述べる。

2017~2019年頃に登場・流行したのがBalancerやUniswap等のDEXにおける流動性提供だ。TradFiではオーダーブック型のDEXが主流であり、当初開発されたDEXもオーダーブック型のものも散見されたが、結局Ethereumの取引コストや処理速度とオーダーブックの相性が悪かった他、流動性の問題を解決することができていなかった。そこでPoolにペアでトークンをdepositしていつでもトークンをswapできるAMM型のDEXが誕生し、ユーザーはLPで収益を稼ぐことができるようになった。しかし、Ethereumにおける取引コストの高さ、全価格帯に流動性を配置する資本効率の悪さ、インパーマネントロスリスクという課題が浮き彫りになった。

2018~2020年頃にはCompound、Aaveなどのレンディングプロトコルが登場・流行した。ユーザーはレンディングプロトコルを使って、単純に1つのトークンをdepositすることで借り手が支払う金利を獲得できるようになった。Compoundが貸し借り額に応じてCOMPトークンを配布する施策を行ったことでぐるぐるレバレッジをかけて貸し借りを何周もするユーザーが増え、さらに金利が上昇するというバブル状態も経験した。DeFiにおけるレンディングの課題としては、過剰担保であるために資本効率が低くなってしまうことや、現実世界に比べて借り手の需要が限定的であること等が挙げられた。

2019年~2020年頃にはdYdXのようなPerpetual DEXが登場・流行した。Funding Rateの存在によって、CEXなしでもデルタニュートラル戦略でFRを稼ぐという運用手法が取れるようになった。ただ、依然としてEthereumのガス代の高さ、Perp DEXの流動性の低さによる取引コストの増加などが課題として挙げられた。同時期にEthereumキラーと呼ばれる高速格安L1チェーンが台頭し、特にSolanaが躍進したことでDeFi運用の障壁が大きく低下した。この時期までのDeFi運用は、基本的に分散性の観点では優れているものの、資本効率の面で課題が残るものが多かった。

2021年春にはUniswap v3がローンチされ、ユーザーは自身が流動性提供する範囲を選択できるようになった。これにより資本効率を高めることは可能になった一方、流動性レンジの設定と管理の難易度がほとんどのDeFiユーザーにとっては高すぎるものであり、またリバランスの手間もかかるという欠点もあり、資本効率が改善された割にはTVLが伸び悩んだ。

2021年夏にはEthereum L2であるArbitrum、Optimismのメインネットがローンチされ、さらにDeFiの利用障壁が低下した。Arbitrum上にはPerp DEXであるGMXがローンチされ、トレーダーのカウンターパーティとなる流動性Pool(GLP)にトークンをdepositすることでユーザーは収益を獲得できるようになった。これは「トレーダーのP/Lが長期的に見てマイナスになる」という前提が正しければGLPホルダーが儲かるという性質のもので、ユーザーに高い利回りを提供してTVLを大きく伸ばしたものの、スリッページ0の裏側にある脆弱性を突かれてExploitが起きたこともあった。トレーダーにはいつでもどんな大きさのポジションでもLPが取引相手になってくれるからスリッページなしですぐに約定するということで好かれていたのであったが、「流動性にはコストがかかる」という金融の原則を歪ませた結果がExploitにつながってしまったのだ。とはいえ、この失敗を糧にGMX v2では取引金額のcapの設定や、スリッページを再現するような手数料の導入によりユーザーからの信頼をある程度取り戻した。SynthetixはGMXと思想が似ていて、SNXトークンステーカーがSynthetix上の合成資産のトレーダーの取引相手となることでSNXステーカーが収益を獲得できる仕組みだ。Perpetual Futuresについてはこちらの投稿でまとめている。

2022年にはTerraUSDが大きくTVLを集めた。これはUSTをステーキングするだけでAPY20%稼げるということを掲げたパッケージだったが、実際にはUSTとLUNAを支えるロジックが破綻しており、2022年5月にUSTが大きくdepegしてクリプトマーケットをしばらく冬眠させる元凶となった。
TerraショックとU.Sの金利引き上げ以降のクリプトマーケットはほとんど人がいなくなり、レンディング、デルタニュートラル、AMM LP、Perp LPのどれも収益を獲得しづらくなった。そんな環境下で、相対的に米国債で5%を稼ぐという運用戦略の旨みが増し、Ondo FinanceやBacked Financeなど、米国債をトークン化するプロジェクトが多額の資金調達をして次々とローンチされた。これは、ほぼ確実に現実世界からの利回りをユーザーに提供する(法がバックにあるので)ものだが、検閲耐性が0という座組であった。RWAについては過去の投稿でまとめている。

2023年4月、EthreumのShanghaiアップデートによりステーキングの引き出しが可能になり、LidoのstETHやRocketpoolのrETHなどのLST価格が安定化し、LSTを担保にしたステーブルコインなどのLSDプロジェクトが大量に立ち上がった。ユーザーは以前よりも安定してLSTを保有するだけでETHのエクスポージャーを持ちながらステーキング報酬を得られるようになった。
2023年末、Eigenlayerとそれに関連したLiquid RestakingプロジェクトであるEther.fiやpuffer finance等のポイントプログラムが本格的に普及したことにより、ポイントにレバレッジがかかる施策を行ったPendleが躍進し、PendleのPTを保有するだけでAPY60%といったものも登場した。Pendleで取り扱われているアセットは比較的運用実績の短い原資産が多く、さらにPendleのリスクも重なるためPTで高利回りを狙うリスクはステーブルコインの単純なレンディング等と比較すると大きいが、それでもポイントの加熱具合によってはこれまでになかった高収益となるケースがあり、2025年1月現在でも有用な運用選択肢の1つとして広く利用されている。

同時期に、Hyperliquid、dydx v4、Aevoなど、オーダーブック型のperp DEXと独自チェーンが台頭した。Hyperliquidでは運営がユーザーの資金を代わりにオーダーブックのマーケットメイキングに利用して稼ぐHLPというVaultが大きくTVLを集めた。マーケットメイカー出身である運営をユーザーはトラストして資金をdepositし、本稿執筆時点でもAPR25%ほどを出している。dydxもHLPに似たマーケットメイキングvaultの提供を開始したが、ローンチ直後に大きなドローダウンを記録したことを忘れていないユーザーも多いだろう。また、複数のオーダーブックDEXのマーケットメイキングVaultを提供するElixirも、エアドロップ期待も含めて大きくTVLを伸ばした。
2024年2月には、CEXの流動性を活用したデルタニュートラルステーブルコインUSDeが本格的に一般ユーザーに公開された。これは分散性や検閲耐性といった観点では従来のデルタニュートラル戦略、そしてあらゆる暗号資産担保型ステーブルコインやアルゴリズム型ステーブルコインに劣るが、CEXの大きな流動性を活用しているためポジションサイズをあまり気にせず運用でき、さらにsUSDeを担保に他のトークンを借りてレバレッジをかけて運用したりなどの選択肢も豊富にあるため、主に資本効率の観点で多くのユーザーから支持を得ている。しかし、やはり規制リスクとFR下振れリスクが常に存在する点は注意が必要だ。

上記のようなDeFiの収益源/運用方法の変遷があり、Gammaswapが新しくローンチ予定だと発表しているのがgeUSDC、geETH等のYield Tokenである。これらは、スマートコントラクトが流動性を特定の範囲(例: WETH/USDCの±8%)に提供し、GammaSwapのポジションを利用してILをヘッジし、スポットエクスポージャーを維持しながら、レンディング市場やYield Tokenization Protocol等で利用可能なトークンのことである。Gammaswapについて調べたことがない方はこちらの記事を参照されたい。

GammaswapのYield Tokenは、要はAMM のLPは収益性が高くなりやすいけどILリスクも高くて使いづらいので、gammaswapでLPを借りることでILリスクをヘッジして純粋にAMMのfeeを稼げるようにしたポジションをトークン化すれば、EthenaのsUSDeよりも収益性も分散性も安定性も優れたトークンになるのではないかという新しい実験である。本稿執筆時点でのsUSDeのAPYは20~30%程度で推移しているが、仮にgeETHやgeUSDCが30%以上のAPYを安定して供給できると分かった場合は、多くのユーザーがこのトークンに乗り換えることになるだろう。実際、ILリスクをヘッジするプロトコルはこれまでも存在したが、多くのユーザーにとっては仕組みが複雑すぎるものが多く、そこまで目立ってTVLを伸ばしたものはあまり見られなかった。しかし、そもそもILリスクをヘッジして収益を獲得できる状態でトークン化してしまえば、デリバティブに馴染みのないユーザーも「ただトークンを購入するだけ」で済むことになり、デリバティブ特有のユーザーを限定してしまう欠点も克服できる。さらにこのYield Tokenを担保にステーブルコインを借りるレバレッジポジションが生まれたり、PTを発行してそれを担保に他のトークンを借り入れたりなど、あらゆるDeFiに組み込まれていくことにもなるだろう。まだ実際にどれくらいfeeが稼げるのか、ILヘッジが適切にできるのかなど、公開されていない情報も多くトラクションもない状態ではあるが、ユーザーとして現在の運用手法よりも収益性も高く安定しているトークンを見てみたいのは確かだ。



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