ぴえん充電(毎週ショートショートnote)
これ見よがしに長い脚を組んで隣に座った女は、新作のブランドバッグを持っていた。充電を終えた私は、コードを抜き立ち上がる。
女の涙は武器と言うが、さめざめ泣いては重いし、わんわん泣いては色気がない。コツはぴえんと泣くことだ。勿論そんな泣き方は演技に決まっているので、エネルギーを使う。出勤前のぴえん充電は必須だった。
ドレスに着替えると早速ご指名。今日こそあのバッグを買わせてやるんだから。
ねえ欲しい物があるの。贔屓の嬢の、チワワのように潤んだ大きな目に、男はたじろいだ。つい先ほどイライラエネルギーを放出したところなので、怒りの感情が沸くことはない。一時期はアンガーマネジメントなんて言葉も流行ったが、イライラ発電技術が確立されて以降、個人の努力は不要となった。掌サイズの発電機を握れば、イライラは瞬時に吸収される。
因みに、このエネルギーは業者に回収され、ぴえん充電スポットに給電される。
かくして、世はうまく回っているのだ。