ユーリ、4才。
ユーリ、4才の誕生日が来たね。
おめでとう。
と言っても、キミは野良猫だったから、本当に生まれた日は分からない。
キミと出逢った時、そして保護すると決めた時、名前と誕生日を決めなくてはならなかった。
それで主たる飼い主に指名されたイズミさんの誕生日に合わせようとなった。
拾われた状況と獣医さんの診断から考えて、イズミさんの誕生日、2月10日からきっちり2か月あとの日付けにしたんだ。
──それから4年間、キミはイズミさんの部屋ですくすく育った。
早いものだね。
キミが赤ちゃんだった時は「もふもふ犬まみれ!」が始まる前だった。
犬のマンガ連載を始めた頃、ボクたちは猫の飼い方も学び始めていた。
思えば、苦しい連載期間、そこからの開放、体作りのやり直し、再びTELLERで毎週連載、また体を壊し…
マキとナルセの歴史からすれば…作った作品計122本を並べたら…しっかりとした時間が経過したのは自覚出来る。
なのにキミと過ごした日々は、何故だかあっという間のような気がしてならない。
キミが一人前、いや一匹前の猫になれたなんて、夢のようだ。
「誕生日を継承させた」自覚があったのかどうか、イズミさんの献身はとても手厚く情に溢れるものだった。
キミは病弱で、腎機能も低下させやすく、それは死に直結することさえある、猫につきまとうやっかいな症状だ。
イズミさんは何よりそれを怖れた。
ちょっとした変調でもキミを病院へ連れて行った。
血液検査や注射を打つ時はボクも同伴した。
ユーリが暴れたりして事故が起きないよう万一のためだった。
キミは概ね診察台の上で震えていたが、暴れたりすることは一度もなかった。
ボクは注射する時、キミの正面に回って少しずつ鼻先に息を吹きかけるようにしていた。
するといつもキミは震えずじっとしてくれていた。
数値が良くなったり、悪くなったり。
太ったり、痩せたり。
トイレが悪いのか、水が悪いのか、運動不足なのか。
キミが変調になる度、イズミさんは奔走した。
この前イズミさんは言っていた。「ユーリの備品代が100万を超えてしまった」と。
キミは何をおいても、イズミさんの判断と観察眼に運命と身を委ねていた。
イズミさんはボクたちの中では一番鼻っ柱が強い性格だ。
皆を凍りつかせるような喧嘩腰をかましてきたり、怒って部屋から出ていくことが数限りなくあった。
その癖、涙もろく、映画を見ても音楽を聴いても泣いてしまったりする。
芯が強いけれど、自分の気持ちを制御出来ないところがある。ボクはそう考えていた。
ボクがグミによって変わったように、イズミさんにも変わってほしい部分があった。
しかしボクの観察が当たっていたとしても、それが的確だろうと、説得力があろうと、言葉では頑なな人間を変えられらないこともある。
イズミさんが弱き命と向き合うことは、この上ない経験になると思えた。
それはキミにとってもとても素敵な時間の訪れだった。
キミはレイラのようには抱っこを好まないし、ノマドのようにボクらに体を擦り付けてくることもない。
でもイズミさんにだけは、彼女の頭の上で一緒に寝ていたり、彼女が不在の時、彼女の枕の上で寝ていたりするのだ。
それはボクたちには決してやらないアクションだよね。
キミとイズミさんとが特別に積み上げた絆だ。
ボクはそれを誇らしく思うし、彼女が確かに内なる変化をしたと感じている。
生き物は、命は、重く尊い。
一緒に生きていくことには、とても意味がある。
イズミさんが自分の時間を削ってキミに向き合ってくれたことに感謝している。
さて、ボクとキミとの関係はといえば、少しユーモラスなものになってしまう。
「お尻ぽんぽん」マシーン。
昨年からだが、ボクは全くその役割のままなのだ。
ボクがメゾネットの上へ上がっていくと、キミは「にゃー」と広角を上げて鳴く。そして近づいてくる。
そうして凹凸のあるオモチャの凹みに自分の体をはめ込んでお尻を向ける。
ここがキミのお気に入りの場所だ。
ボクがお尻を撫でたり叩いたりすると「にゃん」と小さく鳴き、体を転がす。いや、ごろごろ転がり続ける。
お腹を向けることさえある。その時は両前足は頭の上。まるで盆踊りだ。
やがて手で叩かれるのに飽きると不満の意を示して、一旦タワーへ駆け上がる。
その時はちょっと怒ったような鳴き方になる。
でも3分以内にはまた駆け下りてきて、また凹みにはまる。
するとボクは今度は猫じゃらしを出してきて、それでお尻を叩く。
これだけでもう30分近くが経過する。
ノマドやレイラのことも見なければならない。
が、キミは分かっているのだろう。分かった上で「ボクを一番にしてね」というアピールなのだ。
一年ごとにレイラが来て、ノマドが来て、キミは胸が張り裂けそうだったろう。
今現在だって心安らかでない時もあるだろう。よく許容してくれた。
だからワガママで全然構わない。思う存分ワガママでいてほしい。
キミは美しいプリンスのようで、ルックスも二枚目の方だと思う(親バカかもしれないが)。
それなのに、妙にひょうきんで愛らしいキミの性格、キミの動きはボクらに笑いと憩いを呼んでくれる。
ボクは夜中の0時ちょうどにノマとレイを抱えて2階に上がる。
そこで三匹をセッションさせる役割だ。
マキナル・フィールズそれぞれみんなに役割がある。昼にセッションさせる者もいる。主に撮影ばっかりしている者もいる(マキさんだ)。
ボクはグミのために、殆どその一時間しかいられない。
それなのに、猫たちはちゃんと仲間と思ってくれて、それぞれの甘え方をしてくれる。
銀がいてグミがいて、キミがいてレイがいてノマがいる。
今が一番幸せな時期なんだと思う。
この時間をありがたい恵みだと思って生きていきたい。
ユーリ、これからも好きなだけ転がって、好きなだけ注文をつけておくれ。
ボクは応え続けるから。
誕生日おめでとう。ユーリ。