建築事務所のいろいろ_転職 その時が来た!③ ポートフォリオ
転職活動に一番重要なのがポートフォリオ。学生のころから何度もつくってきたけれど最近大事にするのはストーリー性だ。どんなプロジェクトに携わって、建築家としてどんな影響を受け、何に興味をもち、これからどんな仕事をしたいのか、まるで物語を語るように構成する。前回書いたように規模は小さくても丁寧にディテイルをデザインしたい。この原点となったのはアメリカの大学を卒業後就職した黒川紀章設計事務所での経験だった。アメリカの大学では技術的なことよりもデザインのコンセプトが中心だったため、当時の私は建築のディテイルなど全く無知だった。黒川事務所の建築家たちがかく詳細図を見た時、衝撃を受けた。「こんな風に詳細図が描けるようになりたい!」と思ったのを覚えている。今回のポートフォリオは私がどのようにディテイルに関わってきたかを語るものとなっていった。
その一部を紹介したい。まず1ページ目は一目でどんなプロジェクトに携わったかが分かるように、目次のような構成とした。またプロジェクトもスティーブン・ホール事務所とBIGだけに絞った。一番上のグレーの帯に事務所名、それからそれぞれの写真の下にプロジェクト名、用途、完成年、大きさ、クライアント名、場所、係わった設計段階を記載した。この目次は面接で役にたったように思う。大まかに自己紹介をすることができ、プロジェクトの説明の順序も面接官の希望があれば、そのプロジェクトからスタートすることもできた。
次にスティーブン・ホール事務所でのプロジェクト。スティーブンや事務所の先輩からディテイルについて本当に多くを学んだ。建築のファサードはもちろんのこと、カスタムの建具や家具、照明、それからランドスケープに至るまでありとあらゆるディテイルのデザインに携わることができた。スティーブンが水彩画にこめた建物のコンセプトが、ディテイルにまで息ずくべきこと、すなわちディテイルは単に防水などのテクニカルなことだけではなく、デザインの一部であることを知った。黒川紀章時代からの自分の目標に少し近づけた8年であった。
次にBIGでのプロジェクト。ここで盛り込んだのは、コンセプト段階のレンダリングがどうやってディテイルに至るまでデザインされ、現実的な建築として完成していったかが分かるものにした。例えばGoogleプロジェクト。これはデザイン・ビルトだったため、基本設計の図面とレンダリングをもとに施工者が製作図を起こした。ファサードは複雑なシェーディングデバイスで覆われるデザインであった。荷重要件、カーテンウォールとの取り合い、シェーディングとしての機能など多くの要件を配慮しなくてはいけない。施工者から最初に出てきたものはボッテリと重い印象で軽快さが失われていた。その後何度も何度もやり取りをして、結果的に見た目、パフォーマンス、そしてコスト的にも納得のいくものができた。そしてここでもスティーブンから学んだ様に、建物のコンセプトがディテイルまで表現されることに努めた。
最後はこちら。とある面接の前日、ふと思い立って付け加えた手書きのスケッチだ。コンピューターの図面やレンダリングは芽生えはいいが、なかなか個性が伝わらない。それにディテイルをデザインするプロセスとして自分が普段からやることを知ってほしい。そんな思いでスケッチブックを写真に撮った。こういったものはなかなか新鮮なようで、面接官には好評だった。アナログなもの、ぜひポートフォリオにお勧めだ。
さて、転職活動、どうなりますか。
つづく
追伸:以前はポートフォリオというときっちりと印刷、製本するのが普通でしたが、今はスクリーン上でのプレゼンが主流になったため、ポートフォリオ自体も面接する相手に合わせて臨機応変編集が楽になりました。ちなみに以前は観音綴じで製本していました。アメリカには観音綴じなどありませんからボンドで自作。面接に行く度に「これはどうやって製本したの?!」とかなり興味をもたれ、爪痕をのこす(大げさ!)にはいい手段でした。
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