山雅が攻撃的サッカーを目指した方がいい理由
今回は、僕が考える「山雅は攻撃的サッカーを目指すべき」理由について書いていきたいと思います。
これを書いている時点で、松本山雅は福島ユナイテッドに敗れ、J3の中で20チーム中10位に順位を落としています。今年から霜田監督を招聘し、それまでとは違う「ボールを自分たちで持ち、能動的に攻撃する」サッカーを志向していますが、なかなかにうまくいっていません。
やはりうまくいっていない時は批判が出るのはつきものですが、それらの中で一番引っかかるのは「山雅は反町サッカーでJ1まで上がっているのだから、ああいうサッカーを今後も目指すべき」という意見(意訳)です。確かに、結果だけを見れば2度のJ1昇格を果たしたサッカーですし、J3で同じことをすればJ2に上がれるだろう!と考えることは不思議ではないと思います。
ただ、僕としてはそれに真っ向から意義を唱えたいのです。すなわち、「山雅は今の攻撃的サッカーを突き詰めてJ2昇格・J1昇格を目指すべき」と言いたいのです。今までその理由を色々と考えてきましたが、今回こうして文字にすることで、自分の中の考えをまとめておきたいと思いました。
主に3つに分けて紹介したいと思います。
2度のJ1残留失敗
反町監督時代の山雅は主に「3-4-2-1」のフォーメーションを使用していました。守備時にはWBがSBする、「5-4-1」となるため、この表記の方が実際には正しいかもしれません。
戦い方としては、いわゆる「堅い守備からのロングカウンター」「セットプレー」を主な武器としていたと思います。実際2018年はJ2最小失点(34失点/42試合)で優勝の栄誉に輝きましたし、いわゆる「ウノゼロ」の戦いを得意とするチームだったと思います。その一方攻撃力は高くなく、2018年は54得点(10位)にとどまっていました。いかに守備に軸足を置いて勝ち上がってきたか、というのが分かる気がします。
しかし、特にJ1に上がってからは、特にJ2で培ってきた「堅守」が全く通用しませんでした。
2015年にJ1の壁に一度跳ね返された山雅ですが、その後も反町体制でJ1昇格を狙うことを決めます。反町監督自身も「自分たちでボールを動かす」ことを目的としてチーム改造に取り組みますが、結局2018年に昇格した際には元々の「堅守速攻」「セットプレーからの得点」が光るチームでのJ2優勝となりました。
そして2019年にJ1を戦いますが、2度目の降格となります。ここでも「堅守速攻」を主とする山雅の戦い方は通用しませんでした。
J2とJ1ではアタッカー・ディフェンス双方の質が段違いです。J2で培った「堅守」も、J1の攻撃陣にはまるで通用しないんだな、というのが素直な感想でした。そして、守備陣が頑張って0点に抑えても、元々得点力が高くなかった攻撃陣が得点を取ることができず、勝ち点0を1にすることはできても、1を3にすることはできませんでした。
(まあその中でもアウェー浦和戦なんかは勝ち点0を3にできた稀有な試合だったわけですが…)
結果、失点の数はそれなりに抑えられました(40失点/38試合、8位)が、最小得点(21得点/38試合)での降格となりました。
そして、もう一つ印象的だったのが、2018年に共に昇格した大分トリニータの存在でした。
山雅がJ2最小失点という「守」のチームとしてJ1に昇格したのに対し、大分は片野坂監督のもと、J2最多得点という「攻」のチームとしてJ1昇格を決めました。そして迎えた2019年、山雅はJ2に降格し、大分はJ1残留を決めました。
反町山雅の弱点、それは慢性的な「得点力不足」でした。そこに目をつぶり、2015年の降格から4年かけて守備という最強の盾を磨き、山雅は再びJ2を勝ち上がってきました。しかし2度目のJ1に上がっての戦いで露呈したのは、「守備は通用しても、点を取れなきゃどうしようもない」ということでした。この時に「山雅がJ1残留を果たすためには、守備的なサッカーを磨くより、攻撃的サッカーで昇格するしかない」と思ったのです。
守備・攻撃、どちらも昇格するためには必要な要素です。では昇格を果たし、上位カテゴリーで通用するのは一体どちらか。過去の実例から、僕は「攻撃」だと考えます。これが1つ目の理由です。
ちなみに、実際攻撃力が高いチーム(得点数が多いチーム)は、守備力が高いチーム(失点数が少ないチーム)よりもJ1残留の可能性が高いのか。
「得点力が高いチームほどJ1に残留しやすい」「失点数の大小はJ1残留に関係がない」という仮説をたて、J1自動昇格チームの得失点数、そして翌年のJ1に残留できたかどうかを、山雅が初めてJ1昇格を決めた2014年から、2022年まで調べてみました。
もちろんJ2とJ1の2年間でチーム編成が異なるため、一概に比較することはできません。という前提で。
結果としては、自動昇格2チームのうち、得点が多いチームがJ1に残留したケースが2件、そのいずれもが山雅が関わっている年度(2014・2018)でした。また、失点数が多いチームがJ2に降格したケースは3件(2014・2017・2021)でした。
その一方、得点数がリーグ1位・2位に入っているチームがJ1に残留したケースは16チーム中7チーム、失点数がリーグ1位・2位で少ないチームがJ1に残留したケースが16チーム中5チームでした。
ここから、「得点が多いチームは必ずJ1に残留する」とまでは言えないものの、得点が多い攻撃的なチームはJ1に残留できる可能性が高いこと、また、失点が少ない守備的なチームがJ1残留できる可能性は低いこと、がわかりました。
正直、2018年の山雅と大分が対照的すぎて、そこの印象に引っ張られすぎているな…というのは、データを整理していて感じました。ただ、J1に昇格する時に、「攻撃力をウリにするチームは残留しやすく、守備力をウリにするチームは降格しやすい」とは感じています。
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「面白いサッカー」を
僕が山雅の試合を見ている時に、去年までは常に頭の中で「危なっかしい」というワードがつきまとっていました。特に反町監督時代は、ウノゼロの勝利を積み重ねられるだけの力を持っていたとはいえ、見ていてスッキリするサッカーではありませんでした。
守備的にゲームを進める、ということは堅守からのカウンターを狙うチームということです。そしてそれは、かなりの時間相手にボールを持たれることを意味します。そして自陣奥深くまで攻め込まれ、それを紙一重のところで気持ちとサポーターの圧で凌ぐ…というサッカーを、これまでの山雅はずっとやってきたというのが僕の印象です。
象徴的なのが2018年の栃木戦ですね。
よくアルウィンが「山雅劇場」と呼ばれますが、あれは何が起こるかわからないドキドキの展開が起こりやすいということ、言いかえればいかに接戦のゲームが多いかということを表していると思うんですね。そしてそういう試合は大抵見ていて疲れます。そして、ゴール前でひたすらにディフェンスをする姿は、正直見ていてハラハラこそすれ、あまり「面白い」という気持ちにはなりませんでした。
一方、攻撃的サッカーと聞いて、僕がパッと名前が出てくるのは川崎フロンターレと横浜Fマリノスです。
(もちろんチームごとの細かい戦術の違いはありますが)攻撃では自分たちでボールを持ち、相手のブロックに次々と縦パスを打ち込んでは崩し、最終局面では華麗なパスワークとドリブルでゴールに迫る。守備では真っ向からプレスをかけ、敵陣深いところで奪い取ってまた自分たちのターンに繋げる…まさしく「王者のサッカー」ではないでしょうか。
実際にこの2チームが対戦した時、DAZNで見ていて感じたのは「サッカーが面白い」ということでした。サポーターの応援よりも、秀逸な解説よりも、ピッチで起きている「サッカー」に魅せられました。
僕が思うに、強いチームというのは、カウンターから1発で試合を決め切る強さも持っていますが、それ以上にボールを保持し、その華麗な技術と主体的な姿勢で見ているファンを「安定して」喜ばすことができる、そんなサッカーをしています。
そして山雅に足りないものはまさしくこの「安定感」だと感じています。
よく山雅の強みとして「サポーターの熱い応援」があげられます。1人のサポとしては嬉しいことこの上ないのです。
が、逆にピッチ上のサッカーについて「面白いサッカーをしている」という声を聞いたことがほとんどありません。言いかえればこれは、山雅を好きになってもらうコンテンツとして「面白いサッカー」という要素が欠けているということではないでしょうか。ここを充実させることで、もっと山雅はファンを増やせるよ、と暗に言われているように思うのです。
ウノゼロで勝つことより、「3点取られても4点取って勝つ」ことを目指す、それによってより「魅せる・面白い」サッカーを展開することで、山雅に興味を持つ人が増えてくれる。そしてそれが、入場者数増・収入増、などの効果に繋がるのではないか、というのが、僕の考える2つ目の理由です。
選手を補強しやすいクラブに
これは、それ以前にも薄々感じてはいましたが、先日山雅に加入した安永玲央選手のコメントを聞いて確信に近いものに変わったことです。
ここ数年に限った話ではないですが、山雅は移籍において、他クラブに対して非常に後手を踏んでいる、言いかえれば「取りたい選手を取れていない」印象があります。これまではその原因をハード面の充実などに求めがちでしたが、もう一つ大きな要素として、「山雅が選手に対して人気のないクラブである」ということがあるのではないでしょうか。
なぜか。
先ほども書きましたが、Jリーグの、特にJ1の上位チームは、ボールを握って試合を進めるサッカーを志向しており、実際にそのサッカーで成功を収めています。
そしてそれは、レンタル移籍として他クラブに選手を貸し出す時にも一定の効力を及ぼしてくると思っています。
レンタルで選手を貸す、ということには色々な目的があるでしょうが、その中の一つに「試合に出れていない選手に経験を積ませる」ことがあるはずです。
では、そういった目的で選手をレンタルに出そうと思った時、自チームとかけ離れたスタイルのクラブに選手を貸そうと思うでしょうか?レンタルから帰ってきた時にすぐに活躍して欲しいことを考えると、僕はあまり積極的には考えないと思います。
また、自クラブの若手選手が活躍し、上位クラブがその選手を獲得しようと思った時、そのクラブのスタイルにマッチしづらい選手を取ろうと思うでしょうか?自クラブのスタイルにマッチするような選手を取るでしょうから、必然的にこれも取る確率が下がってしまうと思います。
残念ながら、山雅は規模的に地方の中小クラブとしての域を出ることは難しいと思います。であればこそ、他クラブの才能ある選手をレンタルで取って飛躍に繋げる、もしくは若手を積極的にユースから登用してトップで活躍させ、上位クラブに売る、そういったサイクルをどんどん回し、Jリーグの中で「育成の山雅」としての地位を確立すべきだと思います。
そうなった時に、次に必要なのは選手が「山雅に行きたい」と思ってもらえるような環境作りです。課題は色々ありますが、戦術の面から言うと「Jリーグのトップチームと共通したフィロソフィーの確立」すなわち「自分たちでボールを持つ攻撃的サッカー戦術」を取り入れることで、選手の眼に魅力的だと思えるようなクラブを作るべきだと思います。
これは何もレンタル移籍だけではありません。新卒の獲得、他クラブからの完全移籍での獲得、外国人選手の獲得…様々な場面でこの「クラブのフィロソフィー」が役に立つ時が来ると思います。
現に、「山雅から世界へ」を体現してくれた我らが大然も、マリノスという攻撃的チームに移籍して「ゴールを取るってこんなに楽しいんやとか、勝つってこんなに楽しいんやとか。それを知ることができたのは大きかった」とコメントしています。彼の場合は伸び盛りの若手だったということもあり、山雅がマリノスのような攻撃的チームだったとしても移籍は避けられなかったかもしれませんが、それでもこのコメントから「もし山雅がマリノスのような攻撃的なチームだったら、もっと『山雅に残りたい』と思ってくれたんじゃないだろうか」と想像してしまうのです。
思い返せば、反町時代の山雅はその特殊な戦術のために、フィットする人としない人が極端に分かれてしまっている印象でした。そして、「サポーターの皆さんが思っているほど山雅は人気のあるクラブではない」という反町監督の言葉通り、その戦術が故に移籍で他クラブに敬遠され、選手を獲得できない「人気のない」クラブになってしまったのではないでしょうか。
また、昨年の名波監督体制になっても、「カメレオンサッカー」と呼ばれるように守備重視の傾向は変わりませんでした。その結果、夏の移籍で前キャプテンが抜けた穴を埋める選手を取ることに苦戦し、甲府から中山陸選手をレンタルで獲得するに止まったのは記憶に新しいところではないでしょうか。
目先の勝利のための戦術ではなく、長い目で見て、10年・20年先に山雅がどんな立ち位置を取る必要があるか。そのためには「攻撃的なサッカーを目指す」というクラブの姿勢は間違っていないと思います。
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以上、僕が考える「山雅は攻撃的サッカーを目指すべき」理由でした。
このサッカーを目指すデメリットとして「短期間で結果が出づらい」ことが挙げられます。自分たちの頭で考える能動的なサッカー故に、選手間の意思疎通、パスやドリブルなどの技術向上、などが求められるからです。
まさに今の霜田山雅についてはこれらのことが当てはまっており、苦しいシーズンとなっています。ただ、ではなぜクラブは今年霜田監督を招聘したのか。もっといえば山雅がこれから生き残るためにはどんなことが必要か。これらのことを考えた時、神田社長・下條TDをはじめとするクラブの判断は間違っていないと思うのです。
ここからの山雅がどうなるのか。きっとこの道は間違っていないと信じつつ、応援していきたいと思います。
読んでいただきありがとうございました。
参考サイト