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~ワーキングマザーが白血病治療中に考え・感じたこ~ 大きな声では言えませんが、無菌室推しの私です

「こちらが今日から入っていただく、無菌室です」

看護師さんが、ドアを開けながら言った。

その日の昼過ぎに、白血病の治療のため、検査を受けていた一般病棟から血液内科の病棟に降りてきた。特殊な部屋とは聞いていたが、実際に無菌室を見た時の衝撃は、忘れられない。

「これ、監獄? トイレがむき出しじゃない……」

私は呆然としながら、心の中で呟いた。


無菌室2

(これが私が実際に滞在した、無菌室です。初めて部屋に足を踏み入れた時は、その殺風景さに度肝を抜かれました、、、。)


広さは、6畳ぐらいだろうか。一切壁・仕切りがない部屋で、ベッド、棚、洗面所、トイレがむき出しに並んでいる。

トイレを使用するときは、電動のブラインドとカーテンを下げるらしい。
無菌状態を保つために、24時間空調がかかっている。それでも、室内に入る人は、エアシャワーを浴びてから、使い捨てのエプロンを着て入出するのだそうだ。

廊下に出るのも許可制で、部屋から出られるのは、1日1回のシャワー時のみ。

13歳以下は入室不可。小学生の娘達は、ガラス窓越しから電話を通じて私と話すことになる。

とりあえず、無菌室をできるだけ居心地の良い空間にしようとトライすることにした。大量のマグネットを調達して、アルミの壁に子供の書いた絵や、お気に入りのポストカードを貼った。椅子やPCスタンドを持ち込み、PCで見る映画やドラマ鑑賞を快適に出来るようにもしてみた。

無菌室3

(子供の絵や、励ましてくれた会社の同僚が付くってくれた寄せ書きを壁に飾りました)


でも、何をしても無菌室は孤独な独房だった。ガラーンとした部屋を見まわすと、寂しさが募ってくるのだった。

こんな環境に長くいたら、身体は痩せこけ、精神もそうとう病みそうだ……
早く無菌室から出なくては。
そのためにも、厳しい抗がん剤治療をやり抜くぞ、と自分に誓った。

抗がん剤治療の副作用から、私の白血球数は30まで落ちた。免疫力が著しく低下した状態では、いくら無菌室にいても、感染症が襲ってくる。私の敵は、腸閉塞だった。ひどい腹痛に苦しめられ、食べることが出来なくなった。10日程度で腹痛は収まってきたが、今度は右手が自由に動かなくなることに気づく。左脳に膿瘍が出来ていた。

その頃の私は、体重は10キロ近く減り、右手は麻痺し、さらに髪の毛は抜け落ち始めるという悲惨な状態だった。が、そんな私に無菌室は、予想以上に快適な空間を提供してくれた。

髪の毛が抜け始めて床やベッド周りが汚れても、個室である無菌室では、周りに気を遣う必要もない。また、毎日朝一番にお掃除担当の方が来て、丁寧に掃除してくれた。

壁のない作りは、腸閉塞の時には特に便利だった。いつでもすぐにトイレが使えたし、備え付けの電子レンジで、お腹にのせる簡易湯たんぽも素早く準備できた。ひどい腹痛の時は、看護婦さんに対応してもらうのだが、その後寝付けない時は、夜中でもテレビをつけて気分を紛らわすことも出来て、ありがたかった。

右手のリハビリのため、理学療法士さんも毎日のように来て指導してくれた。周りの目をきにせずに、朝・昼・晩と毎日3回トレーニングに励めたのは、右手の回復に大きかったはずだ。

無菌室では、子供達といつでも電話することが出来た。個室なので消灯時間もないし、話し声が他人の迷惑になることもなかったからだ。横になりながら好きな時間に子供達とコミュニケーションが取れたのは、体調が悪かった私にとって、とてもラッキーなことであった。

無菌室に入ってから、2か月超が経った。トレーニングの成果も出て、右手もだいぶ動くようになり、お箸で食事が食べられるようになった。

「そろそろ、大部屋に移る時期ですね」

ある日、担当の看護師さんからそう告げられた。

聞きたくなかったその一言に、とっさに反応した。

「あの…… 本当に、大部屋に移動しないとだめでしょうか?」

プライバシーが保たれ、無料の冷蔵庫・電子レンジが完備されており、消灯時間もなくテレビ・電話が使いたい放題の無菌室から出されるのは、心の底から嫌だった。

「そうですね。 寛解を目的とした抗がん剤治療の後、体調が落ち着いたら、皆さんに移動をお願いしています」

私の願いも虚しく、無菌室での生活は終わりを告げた。

「入った日には、あんなにすぐに出たかったのに……」

入った時と出る時とでこんなに印象が変わる部屋は、きっと最初で最後だろと考えながら、そうつぶやいた。

これから、血液の病気を治すために無菌室に入る方へ。

初めて見る時はびっくりしますが、その監獄のような作りには理由があります。

無菌室が、治療のため快適な空間となることを、私が保証します。

私と同じく、あなたもきっと無菌室から出る日を可能な限り延ばしたいと思うのではないかと予想します。患者であった私にとって、無菌室はスイートルームレベルの空間となりましたから……

大きな声では言えませんが、大部屋より無菌室推しの私です。


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