三年休職から復帰した経営コンサルのサバイブ術
【記憶は束で蘇る・社内外ネットワーク構築のカギは3年前のメールデータ】
こちらのエッセイは、東洋経済オンラインでも掲載されています:
3年休職から復帰した経営コンサルのサバイブ術 | 読書 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
「元旦を自宅のベッドで迎えられるなんて、ありがたいことだな……
2019年のお正月は、治療しながら病室で過ごして寂しかったこと。
病気してから今年で、3回目のお正月になるのだな」
そう考えると、意外に時間は過ぎ去っているように感じられた。
「秋に復職して無事に12月27日まで働いて、30日の誕生日は子供達と楽しく過ごせた。この年末は特に充実していたな……」
と思い返し、改めて2022年のお正月は格別だと心の中で断言した。
2018年夏に会社の健康診断で「急性リンパ性白血病」を発症していることが発覚し、その後緊急入院。9か月入院治療を行った。当時2児の小学生を育てながら経営コンサルタントとして勤務していたが、医師の指示で即休職した。
白血病の治療自体は2年間で終了したが、その後免疫力と体力の回復を待ち、さらにコロナワクチン接種のタイミング等から結局3年と2か月休職することになったのだった。
長らく仕事をしないでその後、転職したり起業したりする人は結構いると思う。
だが、3年超休職して元の職場に戻るケースはそれほど多くないだろう。そこで、久しぶりの会社員生活をリスタートした際に自分がどんな経験をしてどのようなことを感じたかについて、書いてみることにする。
「コミュニケーションツールはメールじゃなくて、Teamsが主流なのね。かといってメールも併用していてややこしいな。」
「しかも、メーラーも変わってしまっているから、過去のデータを移管するところから始めないと……それだけじゃ終わらない。過去に担当したプロジェクトフォルダーのありかも確認しないと……」
システムがらみのインフラ整備に、最初の一か月かなりの時間を費やした。
想像するにたやすいが、3年前と今とでは会社で使うソフトが変わっていたし、イントラネットにも新機能等が追加されていた。そもそも当時使っていたシステムの操作方法、ワークフローさらにプロジェクト関連のフォルダー格納場所についての記憶が、吹っ飛んでもいた。新たに導入されていたソフトに慣れることと、以前使っていたシステム・データベースのことを思い出す作業を同時にしなくてはならず、頭の中が混とんとした。
転職して新たな会社に勤務するなら、「さあ、新しいIT環境に慣れるぞ!」と思えばいいのだが、私の場合は「新しいものに慣れて、以前からのものを思い出す」必要性があり二重苦であった。
ITに強い同僚にヘルプを求めていろいろと教えてもらうのだが、その際に「ライトパーソン」に質問しないと、質問された側も正しい答えを探すのに時間がかかりすぎて疲弊してしまう。復職者の利点は、親しい同僚の中から「ライトパーソン」を発掘しリーチしやすいことかもしれない。
同僚に助けてもらい、1か月ぐらいで自分が作業しやすいシステムインフラを整えることができた。環境を整えられた際は、正直ほっとした。なぜなら、IT環境が整っていないと作業効率が悪くなり、自分が会社員として失格なのではないかと不安に襲われるからだ。
「私って、こんなに仕事するのに時間かかる人だったっけ?どちらかというと作業は素早い方だと思っていたのに・・・」
復職してから、何度そう自問したことか……
ただ、この業務非効率性には他の要因も重なっていた。
「この質問は、誰にすべきなのかな?」
社内処理に関しては、コーポレートで働く社員にサポートしてもらわねばならぬことが多々あるが、3年も休職していると、人の移動あり・組織の改編ありとで、私が過去に構築した社内ネットワークが使えなくなっていた。
そもそも、会社から3年も離れていると、他の社員についても記憶がまばらになる。
「顔は思い出すけど、名前が出てこない・・・」
そんな人達が、束になって頭の中に存在した。
だから、「誰に何を質問してよいのか」そこから手探りで探し当てなければならなかった。
「リアルにコミュニケーションする機会が減ったタイミングで、転職してきた人や新入社員はもっと大変なのだろうな」
そんなことを考え、「まだ自分は恵まれている方だ」と言い聞かせながら、必死になって社内ネットワークの再構築に勤しんだ。
人的ネットワーク再構築に最も役立ったのは、メーラーに溜まっていたメールデータ。当時のメールを読み返すと臨場感たっぷりのやり取りが目の前に蘇るのだ。メーラーが変更になってデータ移管にてこずった時「3年前のメールデータなんて、本当に必要?」と自問自答したのだが、結果として古いメールは宝の山であった。
メールを読みだして感じたのは、「記憶は塊で戻ってくる」ということ。
2-3のメールを読むと当時の状況がビックピクチャーとして思い出された。トピックごとに整理されたメールフォルダーの中に保存されていたメールをパラパラと読むと3年前の状況がだいぶ蘇った。
メールを読み返していくと、当時のお客様やお世話になった有識者の方々とのやり取りも、塊となって思い出されてきた。そこで3年ぶりのご挨拶を口実に、社外の方にもせっせとご連絡させていただいた。コロナのおかげで身近になったオンラインミーティングを駆使して、元気になったご報告とともに最近の社外の皆様の活動状況についてアップデートしていただいた。
こうして私の復職後最初の2か月はシステムインフラ整備と格闘しながら、記憶の蘇りを図り、社内外ネットワークの再構築をしながら、それなりの充実感と成果をだして過ぎていった。
【思いがけない再会・学びの深い再会】
休職に入った2018年は出社が当たり前の世界だったが、復職した2021年は在宅勤務が当たり前になっていた。ほとんどの同僚が週に1回かそれ以下しかオフィスにはいかないという。私も2人の娘を育てているし、白血病治療を終えた身だ。在宅勤務が許されるようになって、非常にありがたいと感じた。
一方で、細かな質問やらシステムの操作についてはリアルに目の前にいる人に聞いてしまった方が楽なのも事実だった。そこで復職後2か月間は、週に2回は出社するようにした。
かといって、親しい上司や同僚も在宅勤務中なのですぐさま会えるわけではなかった。入院中も温かい言葉をかけてくれた上司や同僚に、真っ先にお礼を伝えたかったが会えたのは復職後3か月経ってから、というようなケースも多かった。
一方で思いがけない再会もあった。
最近はオンラインミーティングが主流だが、古くからのお客様が対面ミーティングのためお越しくださることになった。不慣れな新会議室予約システムの操作に不安を覚え、確認のため会議室のあるフロアに向かうことにした。
フロアに着くと、見覚えのある顔が見えた。
それは、会議室フロアの受付の女性だった。
「昔会議室の空き具合をこまめに確認してくれたり、部屋の準備をしてくれたり、よくお世話になったなあ・・・」
と思い出に浸っていたら、相手も気づいてくれた。
「お久しぶりです!ずっとお見掛けしなかったですが、どうされていたのですか?」
その後、私が健診で白血病であることが分かり緊急入院したこと、9か月病院で治療を受けたこと、3年休職して最近復職したことを説明したら、お互い目頭が熱くなってしまった。
「そうだったのですね。病気のこと、全然知りませんでした。元気になられて本当によかったですね!」
うるんだ瞳で笑顔を作りながらそう言ってもらったときに、当時自分はたくさんの人に支えられて日常を送っていたことを思い出し、病気になったことでその日常が文字通り「強制終了」になってしまったこと、そして時間はかかったけれど日常を取り戻し復職できたことのありがたさを痛感した。
「治療中もそして現在も私は多くの人に支えられて毎日を生きている、生かせてもらっているのだなあ・・・」
そうしみじみ感じさせてくれた、貴重な再会だった。
社外でお付き合があった方にもご挨拶させていただく機会を得たが、その中でこれからの人生について考え直すきっかけをくれた再会があった。
復職後コンタクト取ったお客様の中には、転職をされている方もいた。
特に印象的なのが、転職後さらに生き生きとしている先輩方だ。
「実績をつんだ職場を離れて、新たな会社で楽しそうにお仕事されているなんて、尊敬の一言だなあ……」
先輩方と久しぶりにお話しした後、素直にそう思った。
そして、それぞれ複数社からお声がかかったと伺い、さらに驚いた。
この先輩達に共通している点は、社内でのポジションが上がってもフラットな態度で社内外の人と接し、仕事を進める際には自ら手を動かし、そして社外ネットワークを持っていること。特に社外ネットワークは個人の財産となって、転職後も大いに活用されているようだった。
「人生100年時代、シニアになっても現役で働く人は増えるだろうけど、充実したポジションをキープできるのは、何歳になっても謙虚に、自ら動いて、そして自ら人と交わろうとする人材なのだな……」
復職直後に、この学びを得られたのはありがたいことだった。
3年休んだら、後輩たちに追いつかれ追い越され、置いてきぼり感を感じないかと問われたら、正直たまにそう思うこともあったからだ。
でもこの先輩方と再会し、自らが手を動かして、積極的に人間関係を構築することが今後のキャリア形成には絶対プラスだと分かった。
「40代半ばでリセットして新たな気持ちで仕事をリスタートすることは、そんなに悪いことじゃないはず!」
と、自分を鼓舞することが出来た。
「まだまだこの先の人生は長い、焦らず行こう」
と思うと気が楽になったし、ネガティブな感情もかなり薄まった。
休職前は自分とは共通点がない、どちらかというと遠い存在だと思っていた先輩方から、復職後思いがけず貴重なことを教わったと感謝している。
復職してみたら、「実は今月末転職します!」と告げられ、お別れ直前の再会になってしまった後輩、
偶然オフィスの共有スペースで出会ったが、驚いた顔をしないで以前と同じように話かけてくれた同僚、
「治療ご苦労様でした。よく頑張ったね」と席を立って挨拶してくれた先輩、
復職してからいろいろな再会があったけれど、記憶に刻まれた再会はこれからの人生の宝物になるだろう。
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