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~ワーキングマザーが白血病治療中に考え・感じたこと~ 髪が抜けたら、たわし頭のケアーを大切に その①


主治医は、普通の話をしているのと同じテンションで言った。

「先生、髪の毛が抜けない人って、いるんですか?」

「いません」


会話終了。藁にも縋る気持ちで質問したが、無駄だった。


「髪の毛、抜けちゃうんだ……。 ドラマの世界じゃん」

急性白血病と診断され、緊急入院していた私は、すぐにその事実を受け入れられなかった。恐ろしい副作用が待っている抗がん剤治療だけでなく、肩まである髪の毛が抜けて無くなるなんて。何かの罰ゲーム?何か悪いことしたっけ?と考え込んだ。

髪が抜けることは逃げ出せない事実だと、主治医が断言したのだから、準備を開始しなくては。

「くよくよしてもしょうがない」

そう自分に言い聞かせた。



無菌室に入ると身動きが取れなくなるので、すぐに髪が抜け落ちる時に楽なようにとヘアカットとかつらの手配をした。

外出を禁じられていた私は、院内の美容院に頼ることにした。そこの美容師さんは、がん患者の髪の毛の悩みに詳しかった。私の髪を手際よく切りながら、親切にいろいろなことを教えてくれた。

「肌着的なコットン帽を被って、その上からかつらを直接かぶる方が、蒸れなくていいですよ。 他に、かつら専用のシャンプーもあります」

かつらを被るためには、その他のアイティムも揃える必要があるのか……。かつらは初めて被るので、知らないことばかりだった。

「本格的に抜け始めたら、髪の毛を剃ってしまった方が楽です。 連絡をもらえたら、病室に出張して剃りますよ」

出張サービスが存在するとは!病棟から出られない白血病患者にとっては、非常にありがたいサービスだと感心した。

「剃ってしまった方が、生え始めた時に髪がきれいに生えてきます。 あと、髪が無くても毎日シャンプーしてドライヤーで乾かしてください。 生えてくる髪に良いと言われていますので」

なるほど。生えてきた時のことを見据えて、髪が抜けている間もケアーするのか。

髪が抜け落ちることにショックを受けていたが、再び髪が生える前提の話を聞いて、明るい光が見えたようだった。

かつら

(私が愛用したかつらです。お世話になりました…)


主治医の宣告通り、2週間後に髪は抜けはじめた。しかし、その頃、重篤な感染症に苦しんでいた私には、髪の毛を気遣う余裕などなかった。腸閉塞による激痛に、何日もうなされる日々。正直、髪の毛なんてどうでもよかった。


腹痛が落ち着いてきた頃、抜け落ちる髪の毛でベッドや床が汚れるのが気になりだした。

「美容師さんに出張して、髪の毛を剃ってもらっていいでしょうか?」

そう主治医に告げ、許可をもらった。

病室に新聞紙を敷いて、髪を剃ってもらった。人生で初めての、バリカンだった。
バリカンの音が聞こえてきたが、すでに髪が抜けていたので、沢山の髪の毛が床に落ちる気配はなかった。

「出家する人は髪の毛剃るから、こんな感じなのかな」

そんなことをぼんやり考えていたが、自分の丸坊主姿を鏡で見る勇気はなかった。鏡ではコットンの帽子を必ず被るようにして、髪を剃った頭を見ないようにしていた。でも、シャンプーをする時、指先で坊主頭であることが分かった。その「たわし」の先を触るような感覚は、初めてのものだった。


「本当に、またちゃんと伸びてくるのかなぁ」

シャンプーしながら「たわし」頭に触れるたびに、私は暗い気分になった。

              ・・・

髪が抜けたら、たわし頭のケアーを大切に その②につづく…


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