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〜ワーキングマザーが白血病治療中に考え・感じたこと〜入院中の攻める食のススメ
「念のために、病院食の代金が含まれてないか確認してもらえませんか? 私、12月20日から1食も病院食を食べていないのですが」
そう会計担当の方に告げると、ぎょっとした顔になってしまった。4か月入院して1食も病院食を食べていない患者なんて前代未聞だろうから仕方ないか、と思いながらも、私はきっぱりと確認をお願いした。
「分かりました。 今から看護師に確認しますが、どの病棟の患者さんですか?」
「6階の血液内科です」
「この2食分は間違え? 確かに食べてなのですね?」
このやり取りが聞こえた後、請求金額が修正された。
私は2018年8月から白血病の闘病のため、大学病院で治療を受けた。幸いなことに、発症直後に治療を開始できたため、骨髄移植は行わないで抗がん剤治療を実施することになった。
結果として9か月近く入院。癌細胞を一掃するための寛解療法の後、寛解状態を維持するための地固め療法を5サイクル行った。
サイクルとサイクルの間に1週間弱ぐらい退院し、再度入院するのが治療生活の基本スタイル。寛解療法は非常にハードな抗がん剤治療で、私の場合白血球(通常の白血球は3000ぐらい)が30まで低下した。
無菌室に入っていても、大抵の患者は重い感染症にかかる……。寛解治療中は「無菌食」を食べるように指導され、病院側が管理したものしか食べられない。
ただ、地固め療法に入ると、白血球の下がり方も多少マイルドになり、感染症リスクも下がる。
そのため、食事も通常の病院食や、買ってきたもの、体調良く医師がOKを出せば別フロアのレストランで食べることもできるようになる。
寛解治療の最中に、予想以上に重篤な感染症にかかったため、私が地固め療法を開始できたのは秋半ばになってからだった。
地固め療法の最初の2サイクルを終え一時退院し、その後12月に再入院。
最終的にすべての治療を終えて4月に退院したのだが、私はその4か月の間1食も病院食を食べなかった。
理由は単純だ。白血病自体は抗がん剤にやっつけてもらえるが、身体をもとに戻すためには食べることが不可欠。
寛解療法の最中に体重が10キロ近く低下し、薬と食事の両方で身体を作り直さなければいけないことに気付いたからだ。抗がん剤による化学療法と食事は、まさに車の両輪なのである。
きつい抗がん剤を投与すれば、悪い細胞は減らせる。一方で、寝たきりの生活で筋力はどんどん低下し、副作用から食べられなくなり痩せていく。
当然入院前の身体とは別物の身体になってしまう。細胞は見えないけれど、筋力低下や肌の調子は目の前に歴然と現れる。
「このままだと、細胞レベルでは治っても、完全に病人だな。 やっぱ食べて身体を取り戻さないとだめなんだな」
そう実感した私は、治療中でも食べられるものをコツコツ食べ、身体を作り直すことにした。
具体的にしたことは次の4つ。
まず、食への興味を維持するため、料理関連の番組やドラマを見ることにした。
「今日の料理」「やまと尼寺 精進日記」「孤独のグルメ」「きのう何食べた」や、丁寧に日々の食に向き合う「かもめ食堂」などの小林聡美主演の映画がお気に入りだった。
重要なのは
「退院したら、これを食べたい!」
「これだったら今でも食べられそうだから、テークアウトできるお店探してみよう」
と、自分の食欲を維持することだと思う。
次に、食べたい・食べられるもののリストアップ。当然、抗がん剤による副作用で口の中の状態も変わるし、食欲を覚えるものも変化する。基本的に、さっぱりしたものや柑橘類、つるっとしたものが食べたくなった。
また、味がはっきりしているので、入院前は興味がなかった甘いものが食べやすかった。
朝は、ミカンや焼き菓子を紅茶とともに。昼や夜は差し入れの調理パン、サンドイッチ、稲荷寿司、押寿司などの炭水化物系。変わり種として、お好み焼きやハンバーガーも、味が分かりやすくて食欲がわいた。
もちろん、温かいものも食べたくなる。主治医が良いと言えば、院内のお蕎麦屋さんやレストランに一人ででも積極的に食べに出かけた。
問題になるのは差し入れの確保だが、これは両親と病院へのアクセスが便利なところに住む女友達に大いに頼った。
初めて買い出しをお願いする際には、細かなリクエストや関連情報を伝えた。
「これが食べたいので、このお店で買って来てほしい」
「病院から言われているルール(例えば、生ものや量り売りのものはNG)を守らないといけない。だから、こういったものは避けてね」
買い物のセンス・スキルは40代の女性がスバ抜けて高い。勘が鋭い彼女達は、私が1頼むと、頼んで無いセンスの良いものを2つ3つ買ってきてくれた。
こんな素敵な女友達に恵まれた私は、幸運なことになんとなく周りに食べ物がある状態をキープできたのだった。
最後に実行したのは、無理して食べない、ということ。
逆行しているように聞こえるかもしれないが、自分の身体に耳を傾けることがとても重要で、お腹が空いていないときにルーティーン的に食べる必要は無い。
看護する側的には、一斉に配膳するのは当たり前のことだが、お腹が空いてない時に食事が届けられると、患者が困るのも事実だ。
さらに、それが食べたくない物だと、食欲が一層減退する。
「だったら、お腹が空いたタイミングに、自分の食べたいものを少量でも食べた方がいいのではないか?」
と考え、私は周りの力を借りて入院中の食事を調達することにしたのだった。
入院中の食事を私の自由にしてくれた、主治医H先生。患者を信頼し、生活の制限をなるべくしないでくれた先生に、心から感謝しています。
先生言ってましたよね?「食べて・できる範囲で運動すること」ぐらいしか、入院中の白血病患者に出来ることはない、と。
でも、「食べること」は、白血病患者にとって簡単なことではないのです。だから、私は「食べること」を周りに支えてもらいながら、でも、人任せにしないでコツコツ続けました。
おかげさまで、体重も順調すぎる以上に増えて、白血病になって太ったのは私くらいじゃないかと思う日々を過ごしています。
先生、これからは、筋力維持のため運動もちゃんと頑張ります!
≪終わり≫