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オテラート金澤と天徳院の隠れた名園
秋です。
オテラート金澤の季節です。
オテラートは、オテラ+アート。お寺とアートを掛け合わせた期間限定のアートイベントです。
以前まわったときの様子はこちら。
今年は、寺町寺院群、卯辰山山麓寺院群に加え、小立野寺院群の天徳院でも開催されています。
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天徳院
今回は、天徳院へ。
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今でも、広い敷地の天徳院ですが、江戸時代はさらに広大で四万坪を誇りました。
東京ドーム3個分、テニスコート500面以上分です。
そんなにお寺の規模の大きい訳は、加賀藩主前田利常の正室、珠姫の菩提寺として建てられたからです。
珠姫は、徳川家康の孫でもあり、なお重要度が増します。
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天徳院の山門前には、本のオブジェ。
羅漢の道、菩薩の道・・・とありました。
羅漢の道がさすように、この山門の中には、十六羅漢像が祀られています。
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天徳院は、江戸中期に火事にあい、大半の建物を焼失しますが、山門は元禄7年(1694年)に建てられたものです。
以前参拝したときには、山門は修復作業中でした。
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修復が終わり、現在は山門がじっくりと見られます。
前田家の家紋の梅の瓦、2段になった垂木には朱の色。
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組み物には、バラにも見えるくらいの繊細なデザインの雲の彫刻もあります。
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天徳院は、禅宗の曹洞宗のお寺です。繊細で装飾的なのは、禅宗様の特徴です。
山門は、国宝瑞龍寺を含む加賀藩の名建築を多く残した名匠山上善右衛門嘉広の子によるものです。
瑞龍寺の山門を見ると、造りがそっくりです。
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山上善右衛門嘉広は、建仁寺流と言われていたということで、建仁寺の三門を見てみると仁王像はないものの門の形は似ています。
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三門について
「山門」は寺の門の総称で、「三門」は本山級の禅宗寺院に見られる大きな門を指します。
禅の「空」「無相」「無作」という3つの解脱への境地を表しています。
山門だけでなく、両脇の回廊も石川県指定文化財です。右側は、通常のお寺への参拝路です。
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山門の中の羅漢様は公開されていないので、その写真が飾られています。
本堂へ行き、まずはお参りです。
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内部は撮影禁止
お寺の中には、前田家、珠姫ゆかりの衣装、調度品などの展示があり、からくり人形劇での珠姫のストーリーも見られます。
オテラート金澤
オテラートの展示は、通常入れない左側の回廊部分と拝観受付の2箇所です。
次にそちらへ行きましょう。
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テーマは、『地獄』ということで、回廊に入ると、薄暗くおどろしい雰囲気です。
さらに進むと、少し明るい空間に入りました。
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法隆寺の壁画や平等院鳳凰堂の飛天を思わせる天人の彫刻が迎えてくれました。
テーマは、地獄だけれど、ここだけ浄土への入口も開いています。
下には地獄の気配で、岩石アート。クロマキー硫黄石。
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でも、上には天人。不思議な空間です。
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そういえば、本堂の蟇股も天人でした。珠姫のお寺に、女性らしくて素敵な彫刻がマッチしています。
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少し行くと、また暗くなり、ごぉーっという音が。硫黄吹出口とあり、地獄から湧き出してくるエネルギーの存在を感じます。
もう一方の会場へ。
山門手前の受付の建物にオテラートののぼり。
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中には、地獄絵や骨のオブジェと合わせて、映像作品。
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近づいて見ると、手のひらのボールの中を人が走っています。西遊記の孫悟空のエピソードを思い出しました。
如来が悟空に、右手のひらの外に出られれば悟空の勝ちと言います。悟空が猛速で飛んで天界の端の5本柱の真ん中に字を書き、端に小便をかけ戻ってきますが、それは如来の中指と親指でした。
仏様の前では、皆無力。自力救済を頼まず、他力本願で、仏様の御心で助けてもらいなさいということなのかもしれません。
さらに、もう一つ映像作品。
人が倒れています。
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天徳院の作品全体のキャプションを見ると、「死後、私達はどこへ向かうのか。・・・発想を広げ、死体、地獄、山岳の霊場に起こる移り変わりの過程そのものに可能性を見出した。」
とあります。
天徳院は、珠姫の眠るお寺。死後、珠姫は成仏して浄土へ行っているはずです。
でも、すべての人が浄土や天国へは行けない。山岳の霊場の過酷さは、そのまま現人生の辛さで地獄かもしれず、その体験を通過儀礼として抜けていく人と、倒れてしまう人がいる。
考え深い展示でした。
何度か天徳院へは参拝していましたが、初めてお茶をいただくと前庭でなく後庭を見学できると知り、そちらも初訪問しました。
隠れた枯山水の名園
お茶をいただいてから、庭園見学です。
お茶菓子は、前田家ゆかりの梅鉢型落雁。床の間には、曹洞宗の祖、道元禅師が永平寺で読んだ漢詩の掛軸。
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月に釣り、雲に耕し、古風を慕う
釣りをするなら月の出る夜まで励み、田畑を耕すなら雲を突き抜けるまで耕す。そのように熱意ある修行をしてきた伝統を慕う。
禅宗を心にとめながら、お庭へ出ます。
禅宗と相性のいい枯山水です。金沢は一向一揆で知られる通り、浄土真宗のお寺が多く、枯山水はほとんどありません。テンションが上がります。
かなり広く、奥行きがあります。
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奥へ進むと、滝と池を模した枯山水。
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滝の流れ口もリアルな滝用の石組みで、両脇に背の高い石が置かれています。
脇の灯籠にはまた前田家の梅鉢紋。
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池もかなり深さがあり、枯山水とは思えません。
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他に周りにも、池の跡があります。
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昔は水が張られていたのでは?と疑問が湧きます。
でも、もとより枯山水だとのことで、本当に珍しい貴重な庭園です。
枯山水のイメージは、平らな平面で石により水を表現した庭園です。
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中には、枯山水の真ん中の池に本当に水を使ったものも見たことがありますが、立体的な池に水なしでの枯山水は見たことがありません。
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雪見灯籠や梅鉢の灯籠の他にも、モダンなものから時を感じるものまで、面白いものがありました。
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前庭は、紅葉の名所として知られています。
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でも、後庭の枯山水は隠れた金沢の名園です。
参考
天徳院山門 石川県ホームページ
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kyoiku/bunkazai/kenzoubutu/k-18.html
西本願寺ホームページ
https://www.hongwanji.or.jp/mioshie/story/000625.html