「工芸館と旅する世界展」と金沢
金沢の雪や雨の合間、久しぶりに、国立工芸館へ行ってきました。
工芸館の建物は、旧金沢偕行社。
そして、シンプルな外観の旧陸軍第九師団司令部庁舎からなっていて、建物だけでも楽しめます。
でも、本来は工芸品を楽しむ場所なので、展示室へ。展示は、旧陸軍第九師団司令部庁舎のほうで
今回の企画展示は、「工芸館と旅する世界展」。
旅のしおりをもらい、各国の工芸品を見てまわります。
イギリス
まずは陶器から。
片方は、イギリス人作、もう一方は日本人作です。どちらがどちらか分かりますか?
正解は、左が、富本憲吉。右が、バーナードリーチです。
バーナードリーチは、富本憲吉と出会い、東京大正博覧会で一緒に楽焼の絵付けをしたことから陶芸へと向かいました。
写真の陶器は、2つとも楽焼です。その時の作品ではありませんが、原点を感じさせます。
2人とも、柳宗悦の日本民藝館創設の協力者です。
次は、金箔の不思議な作品。
作者は、マイケル・ロウ。タイトルは、「容器2」です。
アートなので、用途はなくてもいい、むしろないほうがいいのでしょうが、花器にしたら映えるだろうなあと思っていましました。
そして、よくよく見ていると、加賀藩祖前田利家の有名な兜が思い出されてきました。
金沢は、日本の金箔の約99%を生産しています。
金箔の技術は、2021年に「伝統建築工匠の技」として世界遺産(無形文化遺産)になっています。
金の技術も、仏教の伝来と同じ頃に大陸から伝わってきました。仏壇に金箔もなっとくです。そして東照宮を見ると、金箔の建築における大切さが分かります。
金沢は金箔どころ。ひがし茶屋街のすぐそばには、金箔工芸館もあります。
茶屋街へ行った際には、立ち寄ってみましょう。
フランス
まずカッサンドルのリトグラフが目を惹きました。
表紙に使われていたので、沢木耕太郎さんの旅の本、深夜特急を思い出す人も多いのではないでしょうか?ちょうど旅つながりです。
シュルレアリスム宣言がされたのが1924年、カッサンドルの絵にもその影響を感じます。
そして、ロジェの「シトローエン」。
この3つの乗り物、時代を反映していて驚きました。
鉄道が普及し、鉄道中心だった1920年代にNORD EXPRESS。
ルアーブルからニューヨークまでの豪華な客船のできたその年、1935年に、そのノルマンディー号。
まだ飛行機は軍事用がメインで、少しだけ上流階級の旅行にという時代でした。
この頃は、まだまだ船が主流です。
そして、1930年代にはフランスで自動車が普及し、鉄道廃線が相次ぎ、1938年には鉄道国有化。そのころに描かれているのが、シトローエンです。
シトローエンは、1919年創業、1925年のパリ万国博覧会ではエッフェル塔に広告を出し、売出し強化をしていたことがうかがえます。
展示では、さらにこのパリ万国博覧会のポスターも。
アールデコ(装飾)と現代産業ということで、ポスターも工場の上にバラっぽい装飾のような雲が描かれています。
乗り物から、その時代の旅のかたちが見えてきました。
チェコ
階段上には、ガラスの作品がありました。ボヘミアンガラスとは違うややマットな色調です。
建物と調和しています。
イタリア
いろいろなデザインの白い器が並んでいました。
エンツォ・マーリの「磁器のデザイン」。
デザイナーでもあったということで、スタイリッシュです。
金沢発祥の磁器会社ニッコーを思い出しました。こちらは、よりシンプルなデザインです。
2022年には、グッドデザイン賞も受賞しました。
このお皿、見た目だけではありません。肥料として、リサイクルされる優れものです。
ボーンチャイナは、産業廃棄物として処理されていました。
廃棄はエコでないということで、成分のリン酸三カルシウムが肥料の重要成分であることに着目。
開発を続けて、2021年12月に「肥料の品質の確保等に関する法律」も施行され、磁器の肥料が実現したものです。
アメリカ
展示室には、「レインスピリット」。テキスタイルアーティスト、シーラヒックス作です。
つやつやした、でもどこかザクッとした質感が、石川県の牛首紬の玉繭からできた糸を思わせます。
ラウンジ(旧師団長室)には、イサムノグチの「あかり」が展示されています。
窓から、うっすらと見える建物は、石川県立歴史博物館。すてきなレンガのレトロ建築です。
イサムノグチは、彫刻家として有名です。
立体ということで共通点があったのか、日本に戻ってきていたときにはアーティストのほか、丹下健三など建築家と親しくしていました。
金沢出身の建築家、谷口吉郎とも付き合いがありました。
谷口吉郎の建築は、いくつか金沢市内にあります。
そのうちの一つは、もともと石川県立美術館として建てられた今のいしかわ生活工芸ミュージアムです。
いしかわ生活工芸ミュージアム
ここには、金沢金箔どころだけあり、秀吉の黄金の茶室が再現されています。
今、企画展で、焼き物コレクション展が開催されています。
金沢で楽焼のような存在の大樋焼。
地元の九谷焼の毛筆細字。
幻の古窯と言われる珠洲焼。
工芸館で世界の工芸品を旅しながら、ちょいちょいと金沢に舞い戻っていました。
金沢には、金箔工芸館や生活工芸ミュージアムの他にも、伝統工芸にまつわる文化施設がいろいろあります。
金沢城を臨むことのできる卯辰山には、金沢市生100周年を記念して作られた卯辰山工芸工房。
金沢21世紀美術館の近くには、茶道関連の道具の中村記念美術館。
加賀友禅会館や柳宗理記念デザイン研究所など連ねていくときりがありません。
市内のいろいろなところを、ふらっと歩くと何かしら工芸関連のものにぶつかるというのは金沢のいいところだとわたしは思っていました。
金沢伝統工芸街構想
先日、図書館で本を見ていると、40年以上前に、工芸館を含めた総合的な「金沢伝統工芸街構想」があったということを知りました。
国立工芸博物館、工芸館、見せる工房群、工房村、工芸研究所、レストランや緑地と盛りだくさんで、かなりの広さ(42.6ha・東京ドーム約8.5個)を想定したものです。
昭和49年(1974年)に「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」が制定されたことに影響されての構想だったのではと思われます。
石油ショックが起こり、高度経済成長が終わり、量から質へと価値転換がされた時期です。
東京国立近代美術館の工芸館ができたのも、この法律ができて数年後、昭和52年(1977年)。
この美術館の工芸館を、2020年10月に金沢に移転したのが今の国立工芸館です。
加賀藩の伝統工芸、文化の土壌に加えて、40年以上前の構想で、すでに「国立工芸博物館を金沢に作る」とあったことが分かり、工芸館は金沢に来るべくして来たのだと改めて感じました。
金沢伝統工芸街、おもしろそうな計画ですが、現在金沢に見当たらないところをみると、実現はしていません。
残念ではありますが、作り込まれた工芸街よりも、街中に点在する工芸スポットの数々というほうが金沢にはしっくりくるのかもと個人的に思い直しました。
参考
「日本の工芸業 石川の工芸業」
「20世紀の総合芸術家 イサムノグチ」
Wikipedia バーナードリーチ
NIKKO ホームページ
https://www.nikko-company.co.jp/tabletop/index.php
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