モヤモヤを愉しむ会 「ユニバーサルデザインを超えて、プリュリバースデザインへ」
先日、大学生たちに「自分の関心の外には、どのように目を向けていますか?」と訊いてみました。そこにいた誰もが、その質問に困惑しているようでした。
どうしても私たちは、自分の興味や関心がある分野においてばかり知りたがります。
けれどそれでは、視野も思考も偏ってしまうものです。
ずっと探していた気付きは、実は興味関心の外で出会うことも多いように思います。
とはいえ、関心の外の世界に自分ひとりでひょいっと飛び込んでいくのは勇気のいることです。
そこで、あえて関心を広げるきっかけの場をつくろう。
ということで、友人たちと協力し、Gift運営での「モヤモヤを愉しむ会」という名の学びの会を月イチで運営しています。
ここは「損得勘定は抜き(人脈広げようギラギラって方はいない)」で「社会的立場も完全にフラット」を大切にできる価値観をもった、気のいい「多業種」の人が気軽に参加してくれています。
ちなみに運営の特権で、事前の打ち合わせがディープにできるのが最高です。知的好奇心が刺激され、ただただ運営が対話を自由に楽しみ、結局何も決めないまま「では、そんな感じでよろしくおねがいします。あとは自由にやっちゃってください。」というのがお決まりです。(ご登壇者の皆さま、ごめんなさい)
1月は、デザイナーの熊谷朱美さん(くまちゃん)が登壇してくれました。
彼女とは、Learn by Creationという教育イベントの企画運営メンバーとして2019年に出会いました。
くまちゃんは、基本デザインからグッズ、大道具まですべてのデザインの総責任者として、意図を深く理解し、マーケティングも考え、予算も交渉し各チームの注文を取り仕切り発注、他者のミスもスマートに拾い整理し、2500名もの人が集まったイベントを成功させた立役者の一人でした。
このプロボノ活動は本当に大変で、「荒い海をなんとか泳ぎきった」「マラソンかと思ったらスパルタスロンだった」と準備メンバーが例えるほどハードで、スキル的にも鍛えられたいい経験だったのですが、
くまちゃんは上記の自分の役割以外にも、子ども向けのワークショップに「Ontenna」体験を入れたいと、企業まで自分で交渉に出向きその熱意で実現させていました。
Ontennaは、音を光や振動によってからだで感じるユーザーインターフェースです。
ろう者(聞こえない人)と健常者が、スポーツ・文化イベントをともに楽しむことができる未来を、Ontennaは目指しているそうです。
くまちゃんは、ほとんど音が聞こえません。
けれど、一緒に仕事をしていてそのことに気づかない人の方が多いのではないでしょうか。
私は、最初のオンラインミーティングの際にくまちゃんから「難聴なので音が聞こえにくいです。」と言ってもらっていたので知っていましたが、口の動きから話している内容を読み取っていたことまでは気づいていませんでした。
それほど、くまちゃんとのコミュニケーションはオンラインでもリアルでもスムーズで、特にリモートワークにおいてとても大切なきめ細やかな配慮や観察力が素晴らしく、やりきる誠実な仕事への姿勢を心から尊敬し信頼する仲間になりました。
そのくまちゃんが、こんなに忙しい中で熱心にontennaを子どもたち向けのワークショップに組み込もうと尽力している姿を見て、はっとしたんですね。
私はこのイベントでワークショップのキュレーションを10以上担当していました。
けれど、どれも身体的な違いにまったく目を向けていなかった自分に気づき、自分の中の無意識の思い込みや無神経さに気づかせてもらう経験になりました。
これを機に、Learn by Creationの仲間たちと、OriHimeワークショップをOriHimeパイロットの方と創るところからご一緒したり、
翌年2020年のLearn by Cretaionワークショップチームでは、独自に「あらゆるボーダーを超える」をチーム理念に掲げ活動することに繋がりました。
今回モヤモヤを愉しむ会で、じっくりくまちゃんの話を聞きながら、
私の中には「くまちゃんの仕事へのリスペクト」がまず先にあり、そのくまちゃんが熱心に行動していたからこそ、その行動の根っこにある理由に私の関心が向き、行動を変えるほどの大きな影響を私に与えたことに気づきました。
くまちゃんは、小学校から大学を卒業するまで、いわゆる一般的な学校の中で学び育ってきました。
くまちゃんは、「おかげで口の動きを読めるし、こうやって話すこともできる」と言っていました。
友達が話すことばを真似ることができたことも大きいし、耳鼻科の先生が発語のトレーニングもしてくれた。学校の先生も、「一番前の席に座ろうね。」と配慮してくれたくらいで、あとは自然体で他の子と同じように接してくれたのが良かった、と心から感謝していました。
その子に適した環境はそれぞれなので一概には言えませんが、「分ける」のではなく「まざる」学びの重要さを深く感じました。
一緒に学んだりなにかを成し遂げた経験が、私たちをお友だちにしてくれる。
お友だちだからこうやって自然にいられるし、影響も受けることができる。
話しながら、「そっか。ボーダーを”超える”なんて掲げたけれど、それ自体”境界がある”としてしまっていた。」と気づきました。
「ボーダーを超える」ではなく「ボーダーを溶かす」
その意識でこれからはいよう。自分の心に書き込んでみました。
今回モヤ会では、テーマとして「ユニバーサルデザインのモヤモヤ」を理解の導入の取っ掛かりとして設定していました。
たとえばこのマーク、みなさんはご存知でしょうか。
実は、聴覚障害のある人が車などに貼って知らせるための「聴覚障害者標識」なんです。
ところがこの存在も意味も知らない人のほうが多い。
せっかく誰かのためにデザインするならば、本当に誰かのためになるよう総合的にデザインすることが本質じゃないだろうか。
そうやって社会を見てみると、
・お問い合わせは電話で
・聴覚障がいがあると伝えたら、仕事や問い合わせが減る
・駅ホームのアナウンスだけで変更を伝えられると把握できない
など、普段の生活で気づいていなかった誰かの困りごとが、日本社会には溢れていることに気付かされました。
くまちゃんは「聞こえない」からこそ、唇のかすかな動きを的確に読み取ることができる鋭い観察眼を磨きました。
よって前述のように、きめ細やかな配慮と深い理解ができ、鳥の目、虫の目、魚の目で洞察し総合的にデザインする力を身に着けたのだと思います。
不躾な人にであうたび、「強くなった」と言っていました。
耳から音の情報を得られないので、漢字の読み方を知ることが難しく、学年が上がるほど指摘されることが増えたそうです。
「じゃあ国語を究めてみよう。」
くまちゃんは自分と闘い乗り越える方を選びます。
そして国語と英語の教職課程を選択し勉強に励み、今ではその言語化力もデザインに活かしています。
でもね、不安や怖れなど自分の弱さも開示してくれます。
それもふくめ心の強い人だと思います。
デザイナーのくまちゃんにとって、「聞こえない」ことによって努力し磨いてきた、人間の可能性を拡張するような才能。
この組み合わせはすごい強みだな、と心から思います。
そして話しながらまた気づきました。
「ユニバーサルデザイン」ってテーマ内で表現していたけれど、ユニバーサルの意味は、「一般的な/ すべてにとって共通であるさま」だという。
以前、NHKの番組「ズームアップオチアイ」で、落合陽一氏が
「すべての人に共通だなんてことはそもそもありえない」
と指摘し、
だからこれからの世界は、多元的(プリュリバースPluriverse )を目指していくことで、一個一個の世界に優劣や上下の構造がないということを意識していけるんじゃないかと話していたのが印象に残っています。
ユニバーサルデザインを超えて、プリュリバースデザインへ。
そのために私たちは、いろいろな人がまざってお友だちになる機会が本当に大事なのだと思います。
このような素敵な信念をもち、豊かな才能でトータルデザインができるくまちゃんなら、課題を知覚する力を活かしプリュリバースな社会をデザインの力で実現していけると思います。
くまちゃんを囲んだ「モヤモヤを愉しむ会」は、書ききれないほどの大切な気づきをたくさんくれました。
くまちゃん、本当にありがとうございました。
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